それは些細な始まり

階段で足を滑らせた。
本当に俺は不運の神様に愛されているんだと思う。
だってまさか、階段にバナナの皮があるなんて誰も思わないだろ。

(あ、俺死んだーー)

転げ落ちる直前、祖父母の顔がフラッシュバックしてくる。
多忙な両親をもつ俺は、両親との記憶よりも祖父母と過ごした記憶の方が多い。
故に死に際になって思い出すのは、そんな思い出達だ。
所謂、走馬灯とかいうやつだ。

(あ、だめだ、ばあちゃん、じいちゃんの入れ歯探してる)

俺の記憶、ちゃんと機能してくれ。
入れ歯はテーブルの上だ、と無意識の内に叫び掛けて、衝撃と共に意識が途切れる。
よかった、遺言が入れ歯の話じゃなくて。

「オギャーオギャーッ(って、なんで入れ歯なんだよ!)」
「うふふ、とっても元気ね……、ねぇ貴方、この子の名前、白斗っていうのはどうかしら?」
「ああ、とてもいいね」
「オギャ?(え?何このリア充たち)」

入れ歯の走馬灯見るぐらい頭おかしくなってた俺、もはや末期か?
大丈夫か?大丈夫なのか?
てか、

「オギャア、オギャ(俺、赤ん坊になってね?)」

両手を少し上に上げてみる。
あ、これマジのやつですわ。
よし、ダメだ、寝よう。忘れ去ろう。あ、ばあちゃんたち、入れ歯見つけられたのかなーー。

拝啓 前世のばあちゃん、じいちゃん
俺、気づいたら赤ん坊になってました。
どうやら第2のウキウキライフがセーブデータ残ったまま始まってしまったようです。
だからあれほどポケモンのデータの消し方は調べておけって言ったのに……。
復活の呪文ぐらいきちんとメモって置いてください。

P.S.
入れ歯はテーブルの上です。
衛生上あまり良くないと思うので、じいちゃんにはきつく言い聞かせておいてください。

あなたの孫より


あれ、俺の脳内ちょっとテンプレ極めすぎか?
いやいや、実際そういう状況に陥ったら誰でもそうなるって。ほんとほんと。
とりあえず、赤ん坊の間は辛すぎるので積極的に意識飛ばしていくわ。
あ、もう飛ばせる。