遊ぶなら全力で

つい最近俺誕生したぜとか思っていたら、時が過ぎるのは早いもので、俺、5歳。
幼稚園に通い始めた時は絶対合わねぇとか思ってたんだが。

「おいー白斗ーっあそぼーぜー!」
このやんちゃな友達が何かと俺に構ってくるのでどうにかぼっちは回避して過ごしてます。
そんなこいつの名前は京月 千尋(きょうげつ ちひろ)イケメン臭がプンプンします。

「千尋、俺は今もしかしたらすごく疲れてる」
「憑かれてるぐらいどーってことねーって! ほら、いこーぜーじゃねーとにんきのやつとられちまうよっ」

なんとなーく会話が噛み合っていない気もするけれど、まあいいか。

そして今週末、俺は両親に連れられて遊園地に来ている。
わーい、遊園地だー……。虚しい。
てかすげぇな、この規模の遊園地、前(世)でも今でも初めてだ。
あ、風船飛んでる。着ぐるみ(おっさん)が飛ばしちゃったのかな。
あ、鳥。でけぇ。あれ乗り物か。

「……あれ?」

そうこうしているといつの間にかまだまだ小さな俺は両親とはぐれてしまったようだ。
やべ、戻らねーと、と思って踏み出せば、すぐに人波に押され、転んで足を擦りむいてしまう。
派手にこけたようで、結構血がでているけれど、痛いとは感じない。
どうやら俺は痛覚が鈍いみたいだ。

「でもこーやって見てるとちょっとグロいよな」

ちょっとだけど。
迷子センターにでも行くか、と再び歩き始めようとした時。

「君!」

大きな声で叫んでる人がいる。
今どき叫べるやつもいんだなー。

「君だよ!」

右手をがっしりと掴まれる。

「え?」

思わず間抜けな声がでたが、仕方ないだろう。だってまさか、運命の出会いの如く手を掴まれるなんて。
声的に男か……くそっ……。
そこまで思考したところで、俺は顔をあげる。
そこにいたのは、まだ若い、トリプルフェイス、ハニーフェイス、金髪、親父にはぶたれたことありそうなイケメン。
つまりだ。

「……まじかぁ」

安室透、またの名を降谷零。公安に所属するはずの人である。
この世界、名探偵コナンの世界だったのかよ……。
嘘だろ……。せやかて工藤……。

「君、足の怪我見せて」
「あ、え、はい」

あれよあれよとベンチに連れていかれて、手馴れた様子で足の治療をする降谷さん。

「君、名前は? 何歳?」
「如月 白斗、5歳です」

やべぇ、なんかわからんがすげぇ難しいお顔をしてらっしゃる。
でもイケメン。ずるい。
そんなことを考えているうちに、ダラダラと垂れていた血は完全に拭われ、足にはハンカチが巻かれていた。

「今は大したものがないからこれで我慢してくれ」
「え、そんな、ハンカチ汚れますよ」
「子供がそんなこと気にしなくていいんだよ」

そう言って、俺の頭をぐしゃぐしゃと掻き回す。
ナンテコッタ。

「ハンカチ、洗って返します」
「それは白斗くんにあげるよ」
「俺の気が済まないんで、お兄さん、名前は」

君の名は。

「降谷零、ハンカチは本当にいいから」

……やっべ、隕石じゃなくて黒ずくめな誰かが上から降ってきそう。
そうか、まだ降谷零なのか。

「白斗くん、親は?」
「あーっと、俺、迷子でして」
「……行こうか」
「……はい」

無言の笑みで手を差し出されたらこれはもう断れない。

「白斗くんは5歳なのにすごく落ち着いてるね」
「そう、でしょう、か」
「そんな怪我をすれば5歳なら泣き喚いたり叫んだりすると思うんだけど」

あれ、すごく、探偵の目をしてらっしゃる?

「本当に白斗くんは落ち着いているね」

あのですね、俺に秘密なんてもんはなんもないんでちょーっと安室さん的なその笑顔崩して頂けるとありがたいです。はい。
あれ、俺ももしかしてあれれ〜?おかしいぞ〜?(上目遣い)ぐらいやってないとダメだったのか?

「あ! 俺、痛覚がすごい鈍いみたいで痛さとか、あんまり感じないっていうか」
「は? 痛さを感じない?」
「ですね」
「! ちょっと他のところ見せて」

真剣な顔で他にも怪我がないかどうかを念入りに調べられる。

「怪我をしても自分で気づかないってことか……」

苦々しそうな顔をする降谷さん。
いや、あの、多少は感じるんですけどね?……なんかすみません。

「あ、母さん」

そうこうしていると、割りと自由な両親を見つける。
観覧車に乗り込もうとしている。一体なにをするんだね。

「降谷さん、あの、両親いたんですけど、観覧車乗っちゃったんで俺ここで待っときます」
「え? でもそういう訳には……」

そう呟いったきり、完全に考える人と同じポーズのままの降谷さん。
おーい。

「あの、降谷さん?」
「よし、じゃあ俺もここで待つよ」
「え」
「ついでに何か買って食べようか」

そう言ってウインクする降谷さん。
男じゃなかったら惚れてた。あっぶね。

「何か食べたいものはあるかい?」
「……じゃあ、クレープ」

甘いものが貰えるというのなら。
ぼそぼそとそう要求してみると、なぜか降谷さんはめちゃくちゃ嬉しそうな顔をしていた。

「じゃあ買いに行こうか」

満面の笑みでクレープの屋台の前に連れていかれる。
……男じゃなかったら(割愛)

甘いもの奢ってもらって、完全に手懐けられた俺。俺チョロい。
降谷さんと雑談を楽しみながらクレープを食べていると、観覧車から降りてきた両親が俺を見つける。

「きゃーっ! 白斗っ、そんなイケメンどこから連れてきたのよーっ! やるわねぇ」

俺の母。如月 咲。声優。
ただし、キンキンした声じゃなくて柔らかい普通にいい声。美人。
売れっ子。信じられん。

「俺の前で堂々と浮気かい?」

俺の父。如月 夏也。漫画家。ただし、すっげえイケメン。なぜだ。
売れっ子。これは間違いない。

「もー、パパ、そんなんじゃないのよ? イケメンは全人類の宝物でショ? 私が愛してるのは……夏也さんだけよーっきゃーっ!」
「咲ーっ、俺も咲だけを愛してるさっ」

語尾にめちゃくちゃハートマーク付いてそうだな。

「ダメだこりゃ、降谷さん、ちょっとあっちいきません?」
「……あ、え、でも」
「あー! まって! ふふ、この子の両親の如月 咲と、如月 夏也よ、よろしくね」

ウインクが眩しい。
俺にこの遺伝子は受け継がれなかったようだ……ははっ。

「降谷零と言います」
「ほんとに白斗いい子連れてきたわねぇーっ!」

降谷さんちょっと引いてっぞ。

「あ! そうだ、今度晩ご飯でもどーかしら? クレープもご馳走になっちゃったみたいだし……」
「あ、いえ、俺が好きでしたことなので気にしないでください」
「遠慮しなくていーのよーっ! あ、連絡先交換しましょ!」

母さん……。もはや父さんも俺も降谷さんも完全に母のペースに飲まれている。

「また連絡するわね! 白斗も携帯もったら降谷くんの連絡先教えてあげるわよ」

ほんとうにハートマークが飛び交ってる。

こうして、俺と降谷さんの付き合いは始まりました。なんか恋人みたいだけど違うからな?