ハンカチ拾う奴に悪い奴はいない

時の流れってはえーんだなぁ、ってな具合で、俺、小学校入学。
降谷さん……、零さんと会ったあの日からあの人はちょくちょく俺の家にご飯食べにくるようになった。
だけど高校卒業で念願の警察学校に入るらしく、会うのは難しくなりそう、らしい。
ってゆーのを聞いて母さんがいつでも連絡できるように俺にスマホをくれた。スマホ、ゲットだぜ!
ちなみに、俺が入学したのは帝丹小学校。これはテンプレ、フラグですわぁ……。

「ねーねー、白斗、何考えてんの? すっげぇ……ううん、何でもねー」

千尋も同じく帝丹小学校。
これでぼっち回避。いぇい。
入学式は意識飛ばしてたら終わっていて、いつの間にか教室に移動することになっていた。

(2回目の小学校か、まあ楽しむかー)

2度目だからこその思考だな。うむ。

「新一! クラス一緒だよ!」
「バーロォ、んなのいちいち言わなくても見ればわかんだよ」

生バーロォいただきました。

「どうしたの? すごい顔してるよ、白斗」
「いや、何でもない、全人類の憧れを今体験しただけ」
「何でもなくないよね?! すごいこと起こってるよね?!」
「やっべ、ばあちゃんが見える、ばあちゃん、花畑は綺麗だけど川が冷たくてそっちにはいけねーよぉ」
「戻ってこい!! それ渡っちゃいけないやつううう!!」

男だけどさ、男だけど生バーロォは嬉しいんだよ。
って思ってたら、目の前にハンカチが落ちている。
ハンカチには丁寧に、ラン、と刺繍されていた。

(あ、これはーー)

このクラスにはランという名前は運悪くーーいや、運良く1人しか居ない。
運命仕事しすぎじゃね?

「ねぇ、新一、私のハンカチ知らない?」
「なんだよ落としのか?」
「うん……、お母さんがくれた、ハンカチだったのに……うっ」
「ばっ、こんぐらいで泣くなよ! 俺が見つけてやるからよー」
「お取り込み中悪いんだけど、君のハンカチってこれかな?」
「え?」

少し潤んだ瞳で俺を見上げる毛利 蘭さん。さすが美少女。

「折角ハンカチがあるんだから、涙を拭かないとね」
「あの……っ、ありがとう」

真っ赤に照れた顔をしながらそういう毛利さん。
そしてその隣の不機嫌そうな名探偵。まあそう怒んなって。

「……、あの、君を元気づけようと思って」

大人しめの主張。まさか今後優男キャラと思われて接しられたら色々死ぬ。

「大事なものだったんだよね? 今度からは落とさないようにね」

よし、このままカッコよく去……

「私、毛利 蘭! あなたは?」

れませんでしたね。

「俺は如月 白斗、よろしく」
「俺は工藤 新一」

まだ少し不機嫌な名探偵様に思わず苦笑いが漏れる。
さすがにもう絡むこともないだろーな、と思っていたこの時の自分はほんとにどうかしてた。

「ここが工藤ん家か……」

ナイトバロンに釣られてやってきました工藤家。
アイツ、あんなに不機嫌だったのに俺がホームズ読んだことある(ただし前世新潮文庫、延原謙さん訳)って知った瞬間めっちゃ仲良くなりました。めでたしめでたし。
豪邸のインターホンを押す。

「はいはーい?」

聞こえてきたのは若い女性の声。
これはまさか。

「……、新一くんの、友達の、如月 白斗です」
「きゃー! 新ちゃんのお友達?! 入って入って! 新ちゃーーん、お友達よー!」

工藤有希子さんではないでしょうか。

「よぉ、如月、案内するぜ、んで母さんのことは気にしないでくれ……」
「いや、俺ん家もあんな感じだから大丈夫……」
「ハハッ……お互い大変だな」

2人で思わず乾いた笑いをこぼす。お互い大変だな……。

「ここが書斎!」
「すっ……げ」

棚にはびっしりと本が並べられている。もちろん、お目当てのナイトバロンも。

「好きなの読んでっていーぜ」
「ありがとう、工藤ん家ってすげぇんだな」
「そーかぁ?」

それはお前の感覚が麻痺してんだよ、という言葉はがんばって飲み込んだ。俺偉い。

「んじゃさっそく……」

ナイトバロンの1巻を手に取る。
うわ、マジで面白い。

……てな具合で俺も工藤も集中しすぎて時間をすっかり忘れていたぜ。工藤家の玄関の開く音でやっと自分の世界から帰ってきた。

「おい工藤、今何時?」
「ん? ああ、今は……ってげぇ、7時じゃねーか」
「やっべ、俺長居しすぎたな、帰るわ」
「……あのさ、飯食ってかね?」
「悪いだろ」
「気にすんな」
「あー……んじゃ、お邪魔しようかな、電話かしてくんね?」
「おー」

工藤家で食事か……。緊張するな。

『もしもし、白斗だけど』
『あら、どうしたの? 今日は友達の家に行ってたのよね?』
『そー、それでさ、晩ご飯誘われたんだけどいい?』
『もちろんよーっ! ところで白斗、今日は誰の家に行ってるの?』
『工藤新一』
『工藤新一って……有希子ちゃんの息子さんと同じ名前ね』
『あれ、母さん知り合いなの? 多分母さんの言ってる人と新一、同一人物だと思うけど』
『えー! ほんと?! 有希子ちゃんのところなの? きゃー! 楽しんできてねっ! 私の方からも連絡しとくから!』

母さんのテンションが一気に跳ね上がる。まじか、知り合いなのか。
電話を終えて、工藤にハンドサインで大丈夫だったということを示せば、工藤はガッツポーズしていた。
友達と晩ご飯ってテンションあがるよなー。わかるわ。