幼少期短し遊べよ少年

暫く歩いたところで両親を見つける。

「あ、いました」
「そうか……ならここからは大丈夫か?」
「あの、ほんとにありがとうございます」
「大したことじゃない」

そう言われてもなぁ……。英語ができない俺にとっては命の恩人同然だしな。

「お礼がしたいんですが」
「そうだな……、ボウヤの連絡先を教えてくれ」
「え?」

疑問に思いながらもスマホを取り出し連絡先を交換する。
これならまた後でお礼することも可能かな?

「また会おう」

そう言って赤井さんは去っていった。
……赤井秀一がかっこよすぎる件について。前世なら確実にスレ立てしてたわ……。

「あ! 白斗! いたぁ……よかった……」

本気で泣きそうな母さんにものすごく申し訳なくなる。
俺、幸せ者です。

ーーという、ドキドキなアメリカ旅行を終えて日本に帰ってきた。
その間に、赤井さんからは数回、メールが届いていた。
どれも漢字が多く、とても小学生に送るメールとは思えない。
その内容は他愛もないものだったり、赤井さんも日本に戻る、また会おうってなことだったり。
そして零さんからは、水族館のチケットがあるから家族で行ってきたらどうだ、というようなメールが届いていた。

「母さーん、今度の日曜日にさぁ、零さんが水族館のチケットくれるらしいんだけど行ける?」
「その日収録だから無理ねー」
「父さんはー?」
「ちょっと、アメリカ旅行で無理してね……」

原稿を見ながらそう答えた父さんは今にも何か冒涜的なものを召喚しそうでした。あれ?作文?

「んじゃぁ無理かぁ……」

零さんに母と父は仕事で無理です、すみません、とメールを送信する。
メールの文面が先輩からの合コンの誘いを断るみたいな感じになってしまったのはご愛嬌である。

「あ、返信きた」

画面を開く。
《なら俺と一緒に行きませんか? その日は偶然空いているので》

「まじかよ……」

母さんに話してみれば、零さんの迷惑にならないのなら行ってこいとのこと。
零さんに迷惑じゃないですか?って聞いたら速攻で全くの二文字のみ返信がきたときはとりあえず携帯放り投げた。
日曜日に零さんと水族館に行くことになりました。いろいろ不安だけど、ちょっと楽しみです。あれ?やっぱり作文?

水族館デート(仮)当日。
建物が結構デカい。周りからは兄弟とでも思われているのだろう、視線がかなり生暖かい。

「零さん、忙しいときにごめんなさい」
「いいよ、そろそろ白斗に会いたかったからね」

俺の将来のためにその綺麗な片目の閉じ方を俺に教えてください。
というか、水族館とか久しぶりすぎてテンション上がるわ……。

「零さん、イルカ、イルカ見に行こ」
「はいはい」

零さんがお兄さんどころか完全におかんとしか思えない。零さんのママさん力が高い。

久々に見たイルカ。柄にもなく感動。

「すげー」
「そんなに喜んで貰えると俺も嬉しいよ」
「零さんありがとう!」

多分、生まれて1番の笑顔がでた気がする。
めっちゃ楽し

「きゃああああっ!」

……かった。この悲鳴が無ければ。

「き、きっと虫か何かがいたんだろうな、さっ、次はどこ行こうか?」
「ひぃい、死体だ……っ」
「し、市体かな、白斗はどんな部活に入るんだろうな」

明らかにそわそわしてる零さん。
そういえば原作で工藤新一もこんなシーンあったよなぁ。探偵の性とかいうやつですかね。まあ零さんは探偵じゃないんだけど。

「ねぇ、零さん、零さんの力が必要なんだと思う、ます? 俺なら大丈夫、です」

とりあえず声の聞こえた現場らしき方を指させば、零さんは驚いたような顔をして、俺の頭を撫で、え?撫で、え?

「ごめん、すぐ終わらせる、白斗は見ない方がいいと思うからここで待っててくれるかい?」
「はい」

頷くのを見るや否やダッシュする零さん。うん、降谷零って感じだな。

……なんか俺おじさんくさい?