悪鬼
※申し訳程度の性的な表現
「もうすぐここにいる理由も無くなるだろ?だからその前に味見くらいしとくかと思ってな」
あまりのことに笑い出しそうになってしまう。とってつけたように皆が遠征やら小旅行やらで外出したのはこのためなのだろう。つまり、英傑全員がぐるということだ。
「頭は忘れてるみてェだが、おれがなんて呼ばれたか知ってるか?油断しすぎなんだよ、おまえ。だからこうして襲われて、食われんだよ。ま、せいぜいおれのことを楽しませてくれよ?」
物語でよく出てくるような悪役の台詞を吐きながら、シュテンドウジは私に覆いかぶさる。だが私は抵抗することもなく、成されるがまま布団の上へと押し倒された。
こんな台詞まで用意してやってきたのだ。抵抗に意味があるとは思えない。だから抵抗の代わりに、質問をする。質問といっても私の中で既に答えが出てしまっているので確認のようなものであるし、そもそもこんな振る舞いをするシュテンドウジが回答をくれるとも思わないのだが。
「カァくんが喋ったのかな」
「何を言ってるかさっぱりだが、おまえさ、この状況分かってんのか?」
「うん?うん、まぁ。そうだねぇ。誰を呼んでも助けは来ない、のかな。それとも誰か英傑の名前を叫んで、彼じゃなきゃいやだ、とでも言ったらその英傑が飛んできたりする?」
「誰もこねェよ。皆揃って出掛けちまってるのは知ってんだろ」
あくまでも彼は独神を食らおうとする悪鬼としてふるまう。実際食らうつもりで来たのだろうな、とも。
独神というのは一時的な防衛機構でしかない。そのため役目を終えたら遠からず界力が尽きて死ぬ。油が尽きて火が消えるようなもの。死と直結させるのであれば餓死だろうか。苦しさに天地の差があるが、他に適切な言葉が見つからない。
独神は八百万界の防衛機構なのだから、必要なくなったら大地に還るのが理に適っている。生存の手段がないわけではなかったけれど、私はそれを選ばなかった。緩やかに訪れる死を誰よりも早く受け入れて、そして黙っていたのだ。きっと英傑の誰かにそれを漏らしてしまえば、彼らはそれを回避するために全力で行動するだろうと、そう思って。
そうして思った通り、彼が来てしまったわけだ。
「そうだね。たぶん、その時点でみんなと話し合った方が良かったんだろうね」
情報を漏らしたのはおそらくカァくんだ。別に責めるわけではない。きっと立場が逆ならば、私だって同じことをした。何をしてでもカァくんを助けようとしただろう。
シュテンドウジが来た理由は……、きっと皆の中から選ばれたというわけじゃない。彼は自らの意思なくここから去るという選択はしないだろうという確信がある。きっと私に対して負い目を持たせない配慮のつもりだったのではないだろうか。悪鬼に気まぐれに犯されてしまった、酷いことをされた、と存分に憎むことができるだろうと彼はきっと考えたのだ。それ以上に都合のいい相手を選び出すことは皆にはできなかった。だから彼は率先してここに来た。
おそらくはそんなところだろう。
「おまえ、今から何されるか分かってんのか?」
「犯されるんでしょう?シュテンに」
小さく聞こえたのは多分シュテンドウジが歯を食いしばる音だった。
界力が足りないなら与えればいい。じゃあ八咫鏡を使って龍脈から独神へと界力を流せばいいのではないか、と最初は皆考えたのだろう。だが、それでは多すぎる。器から零れるほどの界力は私という存在の纏う殻を破壊してしまう。
じゃあ微量与えるにはどうしたらいい?界力に一般人よりも溢れる英傑と触れ合えば多少なりとも渡せるのではないだろうか。だが、それでは足りない。既に私という存在は見てわかるほど弱っていた。その程度では焼石に水なのだ。もっと深く触れ合う行為でなければ、足りない。
そう、だから、独神を、私を生かすためには誰かとまぐわうしかないのだ。
カァくんは当然私を説得した。何度も何度も説得した。だがそれに頑として首を縦に振らなかったのは私だ。
誰か好いた英傑はいないのか。いないなら好みだけでも、誰か好ましい方に頼んでみよう、きっと優しくしてる。
そんなことを切々と訴えたのだけれど、それを拒絶したのは私だ。
言えるわけがない。命を盾にして「抱いてくれ」だなんて。それに私の役目自体は終わっている。役目の終わった存在を生かすためにそんな下劣な行為を頼むなんて冗談じゃない。
ああ、けれどここまでしてくるとは思わなかった。やるとしたってもうちょっと穏便な方法を選ぶと思っていたのだけれど。
目の前のシュテンドウジはこんな私の様子を見ても目を逸らさない。必死に悪役の顔を作っているようだった。ばかだなぁ、あなたは私の前でだけは悪鬼などでは無かっただろうに。今更そんな風に振舞えるわけもない。
「抵抗しねェのか」
「してもするんでしょう?」
「ああ、当然だ」
その程度で逃がすくらいなら、最初からこんなことはしない。英傑皆で結託している時点で私に拒否権などないのだ。誰かの名前を呼んだなら、その誰かが扉を蹴破って部屋に入ってきてシュテンドウジを蹴り飛ばし「もう大丈夫だ」と私を優しく慰めてそのまま行為に及ぶのだろう。
誰がこんな筋書きを書いたのだろう。ああ、いや、でもこんなふざけた他人の筋書きに彼は乗らないだろうから、おそらく自分で書いたのだろう。まったく大したものだ。
「いいよ。抵抗はしない。その代わり、明日になってどこかに消えていたりはしないで」
「ハッ。頭は慈悲深いな?今からテメェを犯す相手の心配かよ」
「責任取っていなくなっちゃいそうだから。だめだよ、そんなの」
悪い顔で笑うシュテンドウジの頬へと手を伸ばすが、触れる前に彼の腕に制される。手首を掴まれ、布団へと押し付けられた。抵抗も何も、これではできそうにない。
「痛けりゃ好きなやつの名前でも呼んどけ。それでもおまえを犯すのはおれだけどな」
台詞だけは悪鬼に聞こえる。けれどつらそうなその表情は、今まで一緒にやってきたシュテンドウジものだ。無邪気で、優しくて、頼りになる、悪鬼と呼ばれていたかつての彼とは似ても似つかない存在。私に対して優しかった悪い鬼のそれ。
「分かったよ、シュテン」
私を生かすそのために、彼は悪鬼に戻るのだ。
10/30 悪鬼
「もうすぐここにいる理由も無くなるだろ?だからその前に味見くらいしとくかと思ってな」
あまりのことに笑い出しそうになってしまう。とってつけたように皆が遠征やら小旅行やらで外出したのはこのためなのだろう。つまり、英傑全員がぐるということだ。
「頭は忘れてるみてェだが、おれがなんて呼ばれたか知ってるか?油断しすぎなんだよ、おまえ。だからこうして襲われて、食われんだよ。ま、せいぜいおれのことを楽しませてくれよ?」
物語でよく出てくるような悪役の台詞を吐きながら、シュテンドウジは私に覆いかぶさる。だが私は抵抗することもなく、成されるがまま布団の上へと押し倒された。
こんな台詞まで用意してやってきたのだ。抵抗に意味があるとは思えない。だから抵抗の代わりに、質問をする。質問といっても私の中で既に答えが出てしまっているので確認のようなものであるし、そもそもこんな振る舞いをするシュテンドウジが回答をくれるとも思わないのだが。
「カァくんが喋ったのかな」
「何を言ってるかさっぱりだが、おまえさ、この状況分かってんのか?」
「うん?うん、まぁ。そうだねぇ。誰を呼んでも助けは来ない、のかな。それとも誰か英傑の名前を叫んで、彼じゃなきゃいやだ、とでも言ったらその英傑が飛んできたりする?」
「誰もこねェよ。皆揃って出掛けちまってるのは知ってんだろ」
あくまでも彼は独神を食らおうとする悪鬼としてふるまう。実際食らうつもりで来たのだろうな、とも。
独神というのは一時的な防衛機構でしかない。そのため役目を終えたら遠からず界力が尽きて死ぬ。油が尽きて火が消えるようなもの。死と直結させるのであれば餓死だろうか。苦しさに天地の差があるが、他に適切な言葉が見つからない。
独神は八百万界の防衛機構なのだから、必要なくなったら大地に還るのが理に適っている。生存の手段がないわけではなかったけれど、私はそれを選ばなかった。緩やかに訪れる死を誰よりも早く受け入れて、そして黙っていたのだ。きっと英傑の誰かにそれを漏らしてしまえば、彼らはそれを回避するために全力で行動するだろうと、そう思って。
そうして思った通り、彼が来てしまったわけだ。
「そうだね。たぶん、その時点でみんなと話し合った方が良かったんだろうね」
情報を漏らしたのはおそらくカァくんだ。別に責めるわけではない。きっと立場が逆ならば、私だって同じことをした。何をしてでもカァくんを助けようとしただろう。
シュテンドウジが来た理由は……、きっと皆の中から選ばれたというわけじゃない。彼は自らの意思なくここから去るという選択はしないだろうという確信がある。きっと私に対して負い目を持たせない配慮のつもりだったのではないだろうか。悪鬼に気まぐれに犯されてしまった、酷いことをされた、と存分に憎むことができるだろうと彼はきっと考えたのだ。それ以上に都合のいい相手を選び出すことは皆にはできなかった。だから彼は率先してここに来た。
おそらくはそんなところだろう。
「おまえ、今から何されるか分かってんのか?」
「犯されるんでしょう?シュテンに」
小さく聞こえたのは多分シュテンドウジが歯を食いしばる音だった。
界力が足りないなら与えればいい。じゃあ八咫鏡を使って龍脈から独神へと界力を流せばいいのではないか、と最初は皆考えたのだろう。だが、それでは多すぎる。器から零れるほどの界力は私という存在の纏う殻を破壊してしまう。
じゃあ微量与えるにはどうしたらいい?界力に一般人よりも溢れる英傑と触れ合えば多少なりとも渡せるのではないだろうか。だが、それでは足りない。既に私という存在は見てわかるほど弱っていた。その程度では焼石に水なのだ。もっと深く触れ合う行為でなければ、足りない。
そう、だから、独神を、私を生かすためには誰かとまぐわうしかないのだ。
カァくんは当然私を説得した。何度も何度も説得した。だがそれに頑として首を縦に振らなかったのは私だ。
誰か好いた英傑はいないのか。いないなら好みだけでも、誰か好ましい方に頼んでみよう、きっと優しくしてる。
そんなことを切々と訴えたのだけれど、それを拒絶したのは私だ。
言えるわけがない。命を盾にして「抱いてくれ」だなんて。それに私の役目自体は終わっている。役目の終わった存在を生かすためにそんな下劣な行為を頼むなんて冗談じゃない。
ああ、けれどここまでしてくるとは思わなかった。やるとしたってもうちょっと穏便な方法を選ぶと思っていたのだけれど。
目の前のシュテンドウジはこんな私の様子を見ても目を逸らさない。必死に悪役の顔を作っているようだった。ばかだなぁ、あなたは私の前でだけは悪鬼などでは無かっただろうに。今更そんな風に振舞えるわけもない。
「抵抗しねェのか」
「してもするんでしょう?」
「ああ、当然だ」
その程度で逃がすくらいなら、最初からこんなことはしない。英傑皆で結託している時点で私に拒否権などないのだ。誰かの名前を呼んだなら、その誰かが扉を蹴破って部屋に入ってきてシュテンドウジを蹴り飛ばし「もう大丈夫だ」と私を優しく慰めてそのまま行為に及ぶのだろう。
誰がこんな筋書きを書いたのだろう。ああ、いや、でもこんなふざけた他人の筋書きに彼は乗らないだろうから、おそらく自分で書いたのだろう。まったく大したものだ。
「いいよ。抵抗はしない。その代わり、明日になってどこかに消えていたりはしないで」
「ハッ。頭は慈悲深いな?今からテメェを犯す相手の心配かよ」
「責任取っていなくなっちゃいそうだから。だめだよ、そんなの」
悪い顔で笑うシュテンドウジの頬へと手を伸ばすが、触れる前に彼の腕に制される。手首を掴まれ、布団へと押し付けられた。抵抗も何も、これではできそうにない。
「痛けりゃ好きなやつの名前でも呼んどけ。それでもおまえを犯すのはおれだけどな」
台詞だけは悪鬼に聞こえる。けれどつらそうなその表情は、今まで一緒にやってきたシュテンドウジものだ。無邪気で、優しくて、頼りになる、悪鬼と呼ばれていたかつての彼とは似ても似つかない存在。私に対して優しかった悪い鬼のそれ。
「分かったよ、シュテン」
私を生かすそのために、彼は悪鬼に戻るのだ。
10/30 悪鬼