※独神がナチュラル畜生


「しゅーてんくん。ねーよーおー」
「は?」

突然部屋の戸が開いたから、いったい誰かと思ったら独神だった。時間は夜。少なくともガキの起きているような時間ではない。
何言ってんだこいつ。酔ってんのか?そうは思うが独神は欠伸をしているし、目を擦っている。おそらくとても眠いのだろう。

「おれが今何してるか見えるか?」
「さかもりー」

緊張感の欠片もない声でそう答えつつ、独神は手際よく戸を閉め、ついでに敷いたままになっていた布団に手を付ける。誰のかって?当然おれのだ。

「頭おまえ何してんだ」
「うわ、やっぱりつめたい。シュテンはやくこっちきて」

勝手に他人の布団に入ったかと思えば、冷たいと文句を言っている。しかもまるで自分の布団のように陣取るだけではなく、急かすようにそこを叩いている。よく見れば自分の枕も持参しているし。

「何って寝ようとしてるんだよ。シュテンがきてくれないとさむいんだけど」
「おれが悪いのか……?」

ばんばんと布団を叩き続ける独神の動きは、次第に素早くなっていく。夜だっていうのに元気かよおまえ、と突っ込みたくもなるがそんなことを言っていてはいつになっても会話が進まない。

「いや、寒いじゃないか今日。というか最近」
「あ?ああ、そうだな?」
「それで自分の布団に入って休もうと思ったんだけどめちゃくちゃ冷たくて。離婚調停もかくやって感じで」
「は?」
「あったかい布団ってどうすればいいのか、って考えて。せや!他の誰かの布団に潜りこめばいいんじゃないかって」
「は??」

溜息をつきながらも瓢箪に栓をして、布団に入ろうとしたらこれだ。何言ってんだこいつ。それでも寒かったのは本当らしい。暖をとろうとする猫よろしく布団に入ろうとしたおれの体にひっついてくる。

「やっぱりシュテンあったかい。予想通りだー」
「おまえな、こんなことしてぺろっと頂かれるとか思わなかったのか?」
「なにが?」

よく分かった。こいつバカだ。危機感が欠片もねェんだった。いっそ頭痛さえしてきそうだったが、もう気にしたら負けだ。そもそも布団から独神を追い出せなかった時点でおれの負けだろう。

「これでも考えてシュテンのところに来たんだよ」

どうせろくな理由ではないという確信はあるが、それでも選ばれたというだけで浮かれそうになっているのは末期だ。「はぁそうかよ」とどうでもよさそうな返事に感情が漏れなかったか自信がない。

「まず、アマテラスとツクヨミはもう寝てそうだった。ヤマトも多分寝てるだろうなって。起こすのは流石に悪いから」

肌に悪いとか言ってツクヨミは早寝早起きだ。アマテラスは存外寝るのが好きだからこの時間は大方寝ている。ヤマトタケルは言うまでもない。万が一独神が寝所に尋ねたらろくでもないことになりそうなことこの上ないが。

「ジライヤは……そもそも部屋にいるのかなって思って。モモタロウも割と夜出かけてるよね」
「つーか消去法かよ」
「まだ起きてて、あったかそうで、怒らず入れてくれそう、の条件が満たせるの八傑だとシュテンだなーって」

ウシワカマルは時々ふらりといなくなる。スサノヲの布団に入るのは、そもそもクシナダヒメがいるから気まずい。そこで残ったのがおれだと。

「そんなことだろうと思ったけどな」
「あったかい……。さいこう……。布団とは離婚してシュテンと結婚する……」
「何言ってんだおまえ」

よほど暖に飢えていたのか、独神は足すら絡めてくる始末だ。しかもそのつま先が冷たい。相手が相手出なかったら布団から蹴り出すどころか殺しているところだが、おれは結局独神に甘い。まぁこれくらいなら許してやろうという気持ちになる。

「おれを温石にできるやつ、頭くらいだぞ」
「温石より広範囲があったかいから、普通の温石じゃもう満足できないんじゃないかなぁ」
「そこは否定しろよ」

嬉しそうに抱き着いてくる独神はまるで猫だ。これが普段英傑に悪霊を殺させ、眉一つ動かさないどころか「よく頑張ってくれたね、ありがとう」と微笑むやつと同一人物とは到底思えない。

「ねぇシュテン。明日も寒かったら来ていい?」
「勝手にしろ」
「じゃあ勝手にする」

八百万界を救う独神とは掛け離れた、無邪気なガキのような振る舞い。こんなのは身勝手で我儘を押し通そうとする質の悪いガキのそれだ。

「あったかい。好きだなぁ……」

そんな我儘が一言でチャラになるのだから、マジで救いようがない。
ぐりぐりと胸に頭を押し付けてくる独神を緩く撫でて、とっとと寝ろと促す。
これがなんていうかおれは知っている。
惚れた弱みというのだ。


11/1 さむい