転生現パロ
※転生現パロをやってみたかった
※女の倫理観がガバガバ案件
きっと来世は好きな人と結ばれるといいなぁ。
へら、と笑って見せたけど手を握るククリヒメは顔をくしゃくしゃにして泣いていた。
泣かないでほしい。別に責めているのではないのだ。ただ今生では何もならなかっただけで、それだけの話だった。
あれ、でもそもそも独神って死ぬってどうなるんだっけ?魂とか、どこに行くか聞いたような気がするなぁ。
「来世であろうと、なんだろうと、絶対にククリが繋げてみせますから」
泣いているククリヒメの涙を拭おうと思ったけれど、思った以上に力が入らない。
あ、もうだめなのか。直観的にそう理解する。
目を閉じる前に思い出す。
そうだ。わたしと彼は昇天したときに行く場所が違う。
「じゃあ、最後に会いたかったなぁ」
もう二度と会えない彼のことを思う。でもまぁこんな瞬間に傍に居られたらつい言わなくていいことを言ってしまいそうだし、彼も彼で柄にもなく泣いていそうだから大丈夫だと言って無理やり追い出したんだっけか。
だって最後に見るのが、今まで見たことがない泣き顔なんて嫌だろう。見てられないほど落ち込んでいたけれど、泣かれるよりはマシだ。
ククリヒメには申し訳ないけれど、そろそろ瞼が限界だ。目を閉じさせてもらおう。
次に目覚める保証はないが、次目が覚めたときは、きっともっと気楽に生きれると信じて。
本当に散々な一日だった。
朝から電車は遅延するし、そのことを上司にねちねちと咎められ、それでモヤモヤしていれば仕事で失敗をした。
ついでに昼飯を買い損ねたとコンビニに急いで弁当を購入したら脇から子どもの乗った自転車が突っ込んできて怪我はしなかったものの弁当はぐしゃぐしゃになり、食べられたものではない。
そうして昼食を抜いて失敗のツケを支払うように残業をして、退社は終電ギリギリの時間だったし、突然の雨風がひどくビニール傘を買おうとしたら小銭がなかった。仕方なく大きいお札を出そうとすればうっかり風に飛ばされてしまった。さようなら諭吉さん。
そうしてどうにか駅から帰ろうとしたのだが、トドメとばかりに転びストッキングは伝線するしヒールの踵がへし折れた。
それでもアパートには帰ったのだろう。汚れた泥だけどうにか落とし、使い物にならなくなったストッキングを脱ごうとしたが力尽きる。そんな気力すらない。
ああ疲れた。ほんとうに疲れた。なんでこんなことに。
濡れた何かが顔を撫でている。
もう疲れているのだ。寝かせてくれ。身をよじると「おい、暴れんな」と声がする。夢を見ているらしい。なんだか足元がさっきよりスースーする気もしたがどうせ夢だ。
目元に濡れた何かがあてられると、流石に目を閉じてはいられない。夢なのにやけにリアルな感触だなと苛々しつつも目を開けると、そこには化粧落としを片手にこちらのメイクを落としている男がいた。
「……は?」
「ようやく起きたか。おせェんだよ」
乱暴な口調、青い瞳。それよりも目に留まるのは紫色の髪だろう。そんな髪は不良かV系ロックバンドでしか見たことがない。
「……?」
「いや、?じゃねェだろ……おまえなぁ……」
男はこちらのメイクを一通り落とせたようで、仕様済みの化粧落としを軽くゴミ箱に放る。綺麗な放物線を描いてシュートを決めたそれに拍手を送ると、まんざらでもない様子だった。
「おまえ、この状況怖くねェの?」
「怖い?」
「独り暮らしの状態で気が付いたら知らない男が家に入り込んでる。女なら怖いだろ、普通」
確かに私は目の前の男について何も知らない。だが、現実なのかどうかもよく分からない相手に「あなたは誰ですか?」と聞くのは無駄ではないだろうか。目の前の男はぱっと見だと柄が悪いが、顔の作り自体は非常に整っている。肌も黄色人種というより白人のような色白さで日本人には見えない。
そう、何度見たって目の前の人物は実在する相手に見えないのだ。架空の、夢の世界の存在だと言うのならまだ信じられる。
「もしかしてお兄さん実在してます?」
化粧落としをしてくれる妖精さんかとも考えたが、この人そういえば妖精って外見をしていない。
疲れ果てて考える力を完全に失っていたが、よく考えると架空の存在にメイクは落とせない。彼が言うように、見知らぬ男が部屋に上がり込んでいる状況だ。
「そりゃ架空の存在はおまえに触れねえだろ」
「確かに」
「納得すんなよそこで」
回らない頭で考える。そうなるとこの男は泥棒か性犯罪者かということだ。いやでもこんな整った顔の男がわざわざそんなことをするだろうか。稼ぐというなら方法が山ほどあるだろうし、女の身体が目当てならそっちの方が困ることはなさそうだ。
となると残る可能性は一つしかない。
「猟奇殺人犯だったりします?」
「それだったらおまえとっくの昔に死んでるだろ」
「確かに……」
「納得すんなよ……」
「いやでも怯える様子を眺めて楽しむ変態という可能性も」
「だったらこうして馬鹿みてェに喋ってねェだろ」
「確かに」
「おまえ……」
つまり目の前にいるガラの悪い男は実在していて、泥棒や性犯罪者でも猟奇殺人犯でもないが、何故か私の家に不法侵入しているということになる。
そして何故か私に一切危害を加えることなく、明日のことを考え寝落ちした私のメイクを落としていたというのだ。
なるほど、分からない。夢でいいのではないだろうか。オーケイそうしよう。
テーブルに突っ伏して寝ていたせいか非常に肩と首が痛い。軽く回せば骨がパキポキと悲鳴をあげている。ベッドで寝なおした方がいい。着替えたいところだが面倒くさい。もういいや、気にせず寝よう。そんな気持ちで立ち上がろうとすると、足元の違和感に気付いた。
「あれ……ストッキング脱いだっけ……?」
「伝染してたから脱がして捨てた。つーか半分くらい脱ぎ掛けて寝落ちるとか普通しねェだろ。どんだけだよ」
「えっと、ありがとうございます?」
「おまえそこは寝てる間に妙なことされてねェか心配しろよ……」
そうこうしているうちに聞きなれたBGMが流れてくる。湯舟に湯が張り終わったことを知らせるものだ。
「ほらまだ寝るんじゃねェよ。どうせだから風呂も入ってこい。あとその間になんか作ってやるから」
「何から何まで……お兄さん良いひとですね……」
様々な疑問はどこかへ追いやり、言われるがままに着替えを持って風呂場へと向かった。洗濯も回さなくては……。洗面所の扉を開けようとしたところで「風呂で寝るなよ」と注意された。
髪と身体を洗って湯舟に浸かり、温かいタオルを目に当てていると段々と思考がクリアになっていく。
正気に戻っていく、と言った方が正しいだろうか。
とにかく風呂から出て、寝間着のスウェットに着替え終えた頃には、ずいぶんとまともなことを考えられるようになった。
幽霊は風呂を沸かせられない。ついでに夕食の準備もできない。
卵スープと簡単な野菜炒めを前に手を合わせ、いただきますしてから、それを聞くことにした。
「ところでお兄さんどちら様ですか?」
「おまえそれ遅くねェか?」
「いや、なんか幻覚かなって思ってたんですけど幻覚は料理作れないし……」
流石に飯を炊く時間は無かったらしい。主食も主菜もないけれど遅い時間だし寝て起きたばかりだからお腹も空いていない。むしろちょうどいいくらいだった。
幻覚だけど幻覚じゃなかった男性はこちらに呆れているのだろうけれど、それでも作った料理を喜ばれているのが嬉しいらしくやはりまんざらでもなさそうだ。
「おれはシュテンドウジって呼ばれてる」
「酒呑童子?なんでしたっけ……大江山の?歴史の授業で聞いたような……」
「おお、そうだ。まぁそれくらい知ってて当然だよな」
「それで本名は?」
「まぁシュテンでいいぜ」
明らかに本名とは思えないが、そう言うのであれば本名を名乗るつもりがないのだろう。万が一に備えて携帯電話を手元に置いておくことも考えたが、そういえば普段入れているはずのポケットには無かったことを思い出す。
「ん?もしかして携帯でも探してんのか?」
もしかしたらこのシュテン(仮名)さんが通報されるのを恐れて事前に隠してしまったのか?なんてことを考えるが、テーブルに肘をついたシュテン(仮名)さんは部屋の隅にあるコンセントタップを指差した。
「充電器差しといたぞ」
「気遣いの塊では?」
私がのんきに寝ている間に本当に何から何までやっていてくれていたらしい。
「なんでここにいるのかは聞かねェのか?」
「不法侵入だろうなってことは分かるんですけどね」
「おまえが鍵開けっ放しだったから普通に入れた」
そういえば確かに鍵を閉めた記憶はない。しかもくたくたに疲れていてそれどころではなかった気がする。
「おれだったから良かったものの、どんな不審者が入ってくるかわかったもんじゃねェから気をつけろ」
「シュテンさんも不審者だと思うんですけど」
「さんとか敬語もいらねェぞ」
ごちそうさまでした。手を合わせてそう言えば、シュテンと名乗った彼は満足気に「お粗末様」と笑う。これで押し込み強盗だったらサイコパスとかそういうレベルじゃない。そう思えるくらいには穏やかな笑みだった。
「でも、そのあとに戸締りとかしてくれたん……だよね?ありがとう」
「まぁ。つーかおれがいる状態で不法侵入してくる泥棒とか命知らずにもほどがあるっての」
「確かに強面ですもんね。睨まれたら小心者は泡吹いて帰りそう」
ただ先ほどのように微笑まれては、そんな強面は何の意味もない。ただの顔のいい男がそこにいるだけだ。
「おまえはおれを怖いと思うか?」
「怖いと思ってたらこんなに雑談してないと思う」
「それさっきおれが言ったことじゃねェかよ」
怖いか?と問われれば怖くないと言い切れると思う。本当に怖い存在なら寝ている私に対してメイク落としなんてしないし、風呂も沸かさないし、ついでに軽食も作らない。ごちそうさまと言われておそまつさまとも返したりはしないだろう。
「なぁ、おまえさいつもこんな調子なわけ?」
「え?いや、今日はひどいだけで普段はそうでも……」
「でもこんな防犯も何もあったもんじゃねェ場所に独り暮らししてんだろ?」
「まぁ……」
こんなところにというけれど、駅からもそこそこ近い距離で近場にコンビニもある。立地としてはこれ以上ないアパートなのだ。ただちょっと周囲より家賃が安い代わりに防犯面が手薄というだけであって。
「ならちょうどいい。実はおれ行くとこねェんだよ」
「は?」
「雑用ならしてやるから、ここにいさせろ。いいだろ?メシもうめェっつってたし」
元はと言えばシュテンと名乗った彼が鍵を開けっぱなしにしていたとはいえ私の部屋に勝手に侵入したわけで、それでここにいさせろ?無茶苦茶な話だ。
無茶苦茶な話だけれど、私はとても疲れていた。風呂に入り、腹も満たされ、再び眠気が訪れている。
警察に通報すべきところなんだろうけれど、なんだかこの人は悪い相手には見えない。
「まぁいっかぁ……。もう今日疲れたし」
「あ?おまえマジで?」
「え?」
「いや……。おれの言うことじゃねェけど、マジでいいのかよ」
「今日一番優しくしてくれたのあなただしなぁ」
言い出しておいて何故か慌てている。まぁ、そうか。不審者を受け入れる若い女というのも頭がおかしい。でもきっと私以外にだって彼を受け入れる人は山のようにいるんじゃないだろうか。
めちゃくちゃ世話を焼いてくれて、それでいて顔がとてつもなくいい。そんな相手が「ここに居させろ」なんて言ったら好みの相手だったら頷いてしまう倫理観ガバガバなひとはそれなりにいるはずだ。
「あ、布団がないや。ええ……じゃあ私このまま毛布と一緒に寝るから、シュテンはあっちのベッドで寝ていいよ。寝室に何か見られて困るもの……下着とかあるかもしれないけど、別にシュテンは見慣れてるだろうし……」
この顔で存在している男なら、綺麗な女のひとなんて死ぬほど見慣れているだろうし、そういう人が勝負の時に穿くようなセクシーなランジェリーとか穴が開いたやつとか紐とか見ているだろう。幸いそういった色気のあるようなものはない。普通の安い地味なやつくらいしか最近引っ張り出した記憶がないし、きっと彼にとっては靴下と大差がない。似たようなものだ。
「おまえなんで床で寝ようとすんだよ」
「眠いし色々話し合うの面倒だなって……」
あとでいびきがうるさいだとか蹴られたとか言われても困る。面倒くさい。
「じゃ、一緒に寝ればいいんじゃねェ?」
「じゃあそれで。私壁側で寝るから落ちないよう気を付けて」
「おまえマジでいいのかよそれで」
「疲れたし寝たい」
寝室への扉を開けるとなんだかんだ言いつつシュテンはついてくる。私が何も言わずにベッドに潜ればシュテンもその後に続いて、私のすぐ後ろに寝転がる。
よくよく考えればこのベッドに男性と寝るのは初めてではないかと一瞬思うが、そんなことは疲労と眠気の前では些細なものだった。どさくさに紛れて胴体にシュテンの腕が回っていたが、暖かいので不問とする。
「そういえばおまえの名前は聞いてねェんだけど」
シュテンの仮名は聞いたけれど、そういえば私も名乗った覚えがない。うとうとしながら名前を告げると、背中にシュテンの身体がくっつけられる。
「……ようやく、おまえのこと名前で呼べんだな」
「んー?」
「あー、おまえには関係ねェよ。寝ちまえ。明日何時起きだ?」
「んんー……」
返事をしようにも、意識は半分途切れている。
「おやすみ、頭」
シュテンの言葉が何か引っかかった気がしたけれど、それが何か考えられる知能は眠っている。
おやすみ、また明日。そう言えた自信はない。
(眠ってしまった女は気付かない。男の小指には赤い糸に巻かれたような痣があることに。眠る女の手を取り、男は指を絡める。痣は男の指から女の指にまで延び、その様子は例えるなら運命の赤い糸だろう。暢気に眠る女を腕の中に閉じ込めた男が泣きそうな、安心したような顔をしていたこともすべてすべて、女の預かり知らぬことなのだ)
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