※気持ち卑猥



「頭はおれよりもこんな玩具の方が良いってか」

そうこちらを責めるような眼差しで見下ろす恋人に私は「違うんです……」と額を畳に擦り付けながら返事をする。

「でもおれとはしねェことを、こいつとはしてんだろ?」

彼の手にはぬいぐるみ(久遠城で札200枚と交換可能)が携えられていた。




恋人同士になったのだから当然いちゃつきたいという気持ちはある。けれど私は独神だ。誰かと特別な関係になるのはよろしくない、というか反発される可能性もあるわけで。好意か恋か分からない感情を英傑達から向けられているのも否定はできないのであって。八百万界が危機に瀕しているのにその希望である独神は恋人とちちくりあってました、なんていうのもあんまりよろしくないわけで。
そんな経緯から気持ちは通じ合っているけど肉体的接触はほぼ無し、という幼子と同程度の恋愛関係が始まってしまったわけである。
よりにもよって、酒!暴力!××!みたいなシュテンドウジ相手と。


絶対に無理だろう、そう思われても仕方のない相手との健全な付き合いは何故かとても良好だった。してはいけないという戒めは二人の関係に刺激を与えた。
しては駄目、だからここまで。言い出したのはこちらなのにシュテンドウジはきちんと守りながら、まるで壊れ物を扱うように触れた。そんなことをしておきながら時々、おそらくわざと欲の籠った熱っぽい目でこちらを見つめ、そうして白々しく「は、ここまでだな?」と手放すのだ。惚れた相手のそんな姿を見せられてはこちらだって平気ではいられない。好きになった相手だ、触れたいと思うに決まっている。
まるで料理の下ごしらえのようだ。恋愛の経験値の差を見せつけられながら、私はシュテンドウジにされるがまま翻弄され、言い出したのは自分であるにも関わらず悶々と過ごしていた。




つとめて自分からシュテンドウジにふれないようにしたけれど、やはり好きなものは好きなのでどうしたって触りたい。力強く抱きしめられたいし、私だって思い切り抱き返したい。もっと触れて、愛の言葉を囁きあって、あとはいくところまでいってしまいたい。
そんな欲求を本人に吐き出してしまっては、だめだと言った面目が保てない。おそらくシュテンドウジの狙いはそこにあるのだろうが、ともかく自分で言ったことの責任は持たなくてはいけないので駄目なものは駄目なのだ。
だがシュテンドウジ以外にぶつけるとなるとどうすればいい?当然浮気なんてことは却下だ。そんなことをするくらいなら「もう我慢できないので好きにしてほしい」と敗北を認める方が何百倍もいい。
そこで、出てきたのがぬいぐるみだ。シュテンドウジをあしらったそれは愛嬌のある顔をしていてとても可愛い。その可愛さに負け、つい必要もないのに久遠札を使い込んで交換してしまった品だ。

「今日から一緒に寝ようか」

悪い夢から守ってくれるといいなぁ、なんて思いながら布団の隣に配置していたそれを布団の中へと引っ張り込んで抱きしめる。思い切り息を吸い込めば、酒の匂いがした気がする。







ぬいぐるみのシュテンドウジと一緒に寝るようになってから、私は触れ合いたい欲求をそれにぶつけることにした。思いきり抱き締め、時には口づけ、頬擦りまでして、そうして一つの布団で眠るのだ。
そして本日、本人にそれがバレた。ここまでが前置きである。

「おれのことは寝所に呼んでくれねェのに、こいつとは寝てんだろ?」
「いや、だってぬいぐるみだよ?」

土下座状態を解除し、そう反論する。だが彼の気は当然収まらないし、まぁそうだなで許してもらえるはずもない。

「そんで頭から接吻までされて、良いご身分だよなぁ、こいつ」

襟首を掴まれたぬいぐるみはぷらぷらと左右に揺らされる。

「あの、あんまりその子に乱暴しないでほしいというか……」
「おー?浮気相手を庇うってか?」
「ちが、浮気じゃなくない?!ぬいぐるみはそういうんじゃないでしょ?!」

そうだ。なんと言われようとそれはぬいぐるみなのだ。ぬいぐるみを抱いて眠るくらい許してほしい。それにちょっと、だいぶ、結構よこしまな感情をぶつけていたとしても浮気ではないのだから。むしろ相手を模したぬいぐるみ相手にしているのだから可愛い方なのではないだろうか。いや絶対浮気とかしないけど。他の誰かにするくらいならシュテンドウジ本人に対して敗北を以下略。

「おれにはしねェくせに?」

これが一番問題なのだ。

「だ、だって……」

正座をしたまま言い訳を考える。そんなことシュテンドウジ本人にできるわけがない。それは腹を空かせた犬にヨシをするのと同じ行為だ。食われる覚悟ができていなければやってはいけない。
私はまだ彼に食われるわけにはいかないのだ。たとえそれを私自身が願っていたとしても、よくはない。まだ独神である以上、やってはいけない。

「シュテンとするのがいやってわけじゃなくて、だって、ね?わかる、でしょう?」
「わかんねェよ」

うそだ、絶対分かってるこの鬼。じゃなかったら彼の手にあるぬいぐるみが無事であるはずがない。既に没収か焼却処分行きだ。

「少なくとも、こいつにしてたこと、おれにもしてもらわねェと。それが筋だろ?」
「いや、それは、だって」
「それとも、何も言わないこんな人形の方が頭は好みだってか?」
「違う!違うよ?!」

じゃああとは分かるよな?と言われれば、もう私に逃げ場はない。いや、彼を好きになった時点で逃げ場など無かったのかもしれないが。
観念して促されるままに彼に近づく。だめだと思う理性は彼の匂いを吸い込むだけでどこかに消え去っていった。
だから駄目だと言っていたのに。一度自分から触れてしまえば、たがが外れたように彼を求めてしまう。
触れ合う最中に、いつの間にか畳に転がされたぬいぐるみと目が合った。

「よそ見すんな」

咎める唇には逆らえない。もうぬいぐるみと眠ることはないのだろう。
当然、本物の方が良いに決まっているのだから。



11/7 浮気