今日も愛している
勘違いするなよ、いいな、絶対だぞ。
「んじゃ、行ってくる。頭、今日も愛してるぜー!」
「気を付けて行ってきてね。私もだよ、シュテン」
そう返すとにんまりと普通のひとのように彼の悪鬼は笑うのだ。私の気持ちなど毛ほども知らずに。これは親愛の愛している、だ。間違ってはいけない。勘違いはだめだ。
ぶんぶんと手を振りながら小さくなっていく彼に、私も手を振って見送る。まるでこどものようだと思った。なんて可愛らしい親愛なのだろう。
きっと彼にとって私は信用のおける上司、あるいはきょうだい分、放っておけない奴、おそらくそんな認識だ。それらのどれかか、あるいは全部を混ぜこぜにしたものかもしれない。
いずれにせよ愛ではあって恋ではない。だから私一人が意識をしたりするのは非常によろしくない。シュテンドウジが私を信用している理由の一つとして、彼の見た目を褒めそやし言い寄ってくるような相手ではないからというのが考えられる。
つまり私がうっかり彼に恋をした瞬間に、この信頼関係は崩れ去ってしまう。
私は彼に特別に慕われているけれど、でも恋の相手じゃない。
だからシュテンドウジの愛の言葉なんて真に受けて、意識してはいけないのだ。
「おまえの言うことなら聞いてやる」
これは信用。
「これからもおれに付き合えよ」
これは親愛。
「おまえの代わりはいねェんだから」
これは親愛。
「今日も愛してるぜ」
これも親愛。
大丈夫、私は勘違いしたりしない。大丈夫。彼の信頼を裏切ったりするものか。
「お、これも食べ頃だな。ほら頭、あーん」
「いやいやいやいや、ちょっと待った!」
これは流石におかしい。いくら無知な私だってそれくらいは分かる。隣に座ったシュテンドウジは食べ頃になった野菜を箸で掴んで口元まで持ってくるが、これは普通はやらない行為だろう。やらないよね?独神の判断力は限界まで落ちていた。
いや、まて。確かにこの前一緒に鍋をしたときは普通にそんなことをしてしまったし、今回も今回でついさっき普通に一口食べてしまったうえ、「今日はお返しは無しか?」と言われて促されるままに私もしてしまったけれど、これはおかしい。
美味しそうに湯気の出る鍋を横にシュテンドウジは首を傾げている。
彼の言葉を借りるなら、「いや、?、じゃねえよ」というところだろう。この距離感は近すぎるし、普通の主従はこんなことはしないし、むしろシュテンドウジの反応を見る限り私がもの知らずなだけで実は都や山ではこれくらいの距離感普通なのか?とさえ考えたが、本殿の常識から考えるにきっとおかしい。判断してくれる他の英傑やカァくんはこの場にいないのが悔やまれる。
「あれか?もしかして頭コレ嫌いか?おまえにも食えねェ野菜とかあったんだな」
「いや、そうじゃなくて」
あっもしかしてこれは子供扱いされているだけでは?なあんだ勘違い勘違い。魔法の言葉を呟きながら、冷めていくのが申し訳なくなって野菜を口にした。白菜おいしい。独神は悪霊には負けないけどおいしいごはんには勝てないのだ。
「苦手なやつがあったら無理して食わなくていいからな」
「あ、はい。だいじょうぶです」
何故か敬語になりつつも彼に促されるままに箸を進めていく。思い切り見つめられている気がするが気にしてはいけない。
頑張れ、独神。おまえはひとりがみなんだからぼっちなんだよ。勘違いしてはいけない。それはよくないことだ。
「あの、前から少し思っていたんだけれど」
皿の上で肉のつみれを半分にしながら彼に告げる。そろそろ一度釘を刺した方がいい。今まで私は頑張って甘い考えを制してきたけれど、いい加減間違いを起こしそうで困る。
だって、さっきのように甲斐甲斐しく私以外の誰かにものを食べさせるようなシュテンドウジを見てしまったら、私は絶対に嫉妬してしまう。もうこの時点で手遅れな気はするけれど、それでもみっともなく彼に縋りつくような面倒な相手にはなりたくないのだ。
「なんかあの、近くない?」
「近い?」
先ほどのようにシュテンドウジは首を傾げる。そんなことをしつつ彼は煮えたこちらの好物を次々と皿へよこしていく。
「そう。近い」
「別にそんなことねェだろ。おれよかツクヨミとかの方がよっぽど近い」
「いや、でもあれは外見が可愛いから……」
「おれは可愛くねェからダメだって?」
「そういうんじゃなくて……。あんまり近いと、誤解されるかもしれないし」
そりゃあ悪鬼を捕まえて可愛いなんて言えるやつはそういない。いや子供みたいに拗ねるシュテンドウジは可愛く見えてしまうけれどそれとこれは話が別だ。
なんて説明すればいいのか。肉団子おいしい。シュテンドウジの仕込んだ鍋を食べていると美味しいので今回はまぁいいかという気持ちにならなくもないけれど、勘違いまで秒読み寸前だ。
「誤解?」
「ほら、その、恋仲?みたいな?私のことを純粋に慕ってくれてるのは知ってるし、それを皆に邪知されたりするのはいやだろうと思って……」
「よくわかんねェけど、とりあえず食え」
いや、分かってほしい。好物を乗せられた皿から肉をとろうとすると、その前にシュテンドウジが懲りずに私の口元に食べ物を持ってくる。
「いや、だから、あの」
聞いてもらえそうに無い。いや、これは子供扱いであって。ちゃんと食べないと大きくなれないぞ的な話であって。まぁ私の肉体はこれ以上成長しないのだけれど、扱いとしてはその辺が妥当ではないだろうか。勘違いしてはいけない。
諦めて再び彼の箸から食べ物を口にする。椎茸のうまみには勝てなかった。うまいか?と問われれば咀嚼しながら無言で頷くしかない。
「まー、いいんじゃねェの?」
よくないだろう、と咎めようとしても私の口は椎茸で埋まっている。口に物を入れたまま喋れない。
「今日も愛してるぜ?」
ひどく優しい声、こちらに向けられる優しい瞳、甘い笑顔。甘やかす仕草。
こんなの勘違いするなって方が無理だろう。
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「んじゃ、行ってくる。頭、今日も愛してるぜー!」
「気を付けて行ってきてね。私もだよ、シュテン」
そう返すとにんまりと普通のひとのように彼の悪鬼は笑うのだ。私の気持ちなど毛ほども知らずに。これは親愛の愛している、だ。間違ってはいけない。勘違いはだめだ。
ぶんぶんと手を振りながら小さくなっていく彼に、私も手を振って見送る。まるでこどものようだと思った。なんて可愛らしい親愛なのだろう。
きっと彼にとって私は信用のおける上司、あるいはきょうだい分、放っておけない奴、おそらくそんな認識だ。それらのどれかか、あるいは全部を混ぜこぜにしたものかもしれない。
いずれにせよ愛ではあって恋ではない。だから私一人が意識をしたりするのは非常によろしくない。シュテンドウジが私を信用している理由の一つとして、彼の見た目を褒めそやし言い寄ってくるような相手ではないからというのが考えられる。
つまり私がうっかり彼に恋をした瞬間に、この信頼関係は崩れ去ってしまう。
私は彼に特別に慕われているけれど、でも恋の相手じゃない。
だからシュテンドウジの愛の言葉なんて真に受けて、意識してはいけないのだ。
「おまえの言うことなら聞いてやる」
これは信用。
「これからもおれに付き合えよ」
これは親愛。
「おまえの代わりはいねェんだから」
これは親愛。
「今日も愛してるぜ」
これも親愛。
大丈夫、私は勘違いしたりしない。大丈夫。彼の信頼を裏切ったりするものか。
「お、これも食べ頃だな。ほら頭、あーん」
「いやいやいやいや、ちょっと待った!」
これは流石におかしい。いくら無知な私だってそれくらいは分かる。隣に座ったシュテンドウジは食べ頃になった野菜を箸で掴んで口元まで持ってくるが、これは普通はやらない行為だろう。やらないよね?独神の判断力は限界まで落ちていた。
いや、まて。確かにこの前一緒に鍋をしたときは普通にそんなことをしてしまったし、今回も今回でついさっき普通に一口食べてしまったうえ、「今日はお返しは無しか?」と言われて促されるままに私もしてしまったけれど、これはおかしい。
美味しそうに湯気の出る鍋を横にシュテンドウジは首を傾げている。
彼の言葉を借りるなら、「いや、?、じゃねえよ」というところだろう。この距離感は近すぎるし、普通の主従はこんなことはしないし、むしろシュテンドウジの反応を見る限り私がもの知らずなだけで実は都や山ではこれくらいの距離感普通なのか?とさえ考えたが、本殿の常識から考えるにきっとおかしい。判断してくれる他の英傑やカァくんはこの場にいないのが悔やまれる。
「あれか?もしかして頭コレ嫌いか?おまえにも食えねェ野菜とかあったんだな」
「いや、そうじゃなくて」
あっもしかしてこれは子供扱いされているだけでは?なあんだ勘違い勘違い。魔法の言葉を呟きながら、冷めていくのが申し訳なくなって野菜を口にした。白菜おいしい。独神は悪霊には負けないけどおいしいごはんには勝てないのだ。
「苦手なやつがあったら無理して食わなくていいからな」
「あ、はい。だいじょうぶです」
何故か敬語になりつつも彼に促されるままに箸を進めていく。思い切り見つめられている気がするが気にしてはいけない。
頑張れ、独神。おまえはひとりがみなんだからぼっちなんだよ。勘違いしてはいけない。それはよくないことだ。
「あの、前から少し思っていたんだけれど」
皿の上で肉のつみれを半分にしながら彼に告げる。そろそろ一度釘を刺した方がいい。今まで私は頑張って甘い考えを制してきたけれど、いい加減間違いを起こしそうで困る。
だって、さっきのように甲斐甲斐しく私以外の誰かにものを食べさせるようなシュテンドウジを見てしまったら、私は絶対に嫉妬してしまう。もうこの時点で手遅れな気はするけれど、それでもみっともなく彼に縋りつくような面倒な相手にはなりたくないのだ。
「なんかあの、近くない?」
「近い?」
先ほどのようにシュテンドウジは首を傾げる。そんなことをしつつ彼は煮えたこちらの好物を次々と皿へよこしていく。
「そう。近い」
「別にそんなことねェだろ。おれよかツクヨミとかの方がよっぽど近い」
「いや、でもあれは外見が可愛いから……」
「おれは可愛くねェからダメだって?」
「そういうんじゃなくて……。あんまり近いと、誤解されるかもしれないし」
そりゃあ悪鬼を捕まえて可愛いなんて言えるやつはそういない。いや子供みたいに拗ねるシュテンドウジは可愛く見えてしまうけれどそれとこれは話が別だ。
なんて説明すればいいのか。肉団子おいしい。シュテンドウジの仕込んだ鍋を食べていると美味しいので今回はまぁいいかという気持ちにならなくもないけれど、勘違いまで秒読み寸前だ。
「誤解?」
「ほら、その、恋仲?みたいな?私のことを純粋に慕ってくれてるのは知ってるし、それを皆に邪知されたりするのはいやだろうと思って……」
「よくわかんねェけど、とりあえず食え」
いや、分かってほしい。好物を乗せられた皿から肉をとろうとすると、その前にシュテンドウジが懲りずに私の口元に食べ物を持ってくる。
「いや、だから、あの」
聞いてもらえそうに無い。いや、これは子供扱いであって。ちゃんと食べないと大きくなれないぞ的な話であって。まぁ私の肉体はこれ以上成長しないのだけれど、扱いとしてはその辺が妥当ではないだろうか。勘違いしてはいけない。
諦めて再び彼の箸から食べ物を口にする。椎茸のうまみには勝てなかった。うまいか?と問われれば咀嚼しながら無言で頷くしかない。
「まー、いいんじゃねェの?」
よくないだろう、と咎めようとしても私の口は椎茸で埋まっている。口に物を入れたまま喋れない。
「今日も愛してるぜ?」
ひどく優しい声、こちらに向けられる優しい瞳、甘い笑顔。甘やかす仕草。
こんなの勘違いするなって方が無理だろう。
11/11 今日も愛している