※目覚まし時計が怖くて全力で素振りした話。
※独神と両想いの布団くん(英傑ではない)から独神を寝取る悪鬼酒豪みたいなそういう話



好きな相手がいる。柔らかくて暖かくて、離れがたい。
ずっと一緒にいたいと思う相手。私にぬくもりを与えてくれる唯一無二の存在。




恋人のようなその存在の名前を「布団」という。

「もうずっと一緒だ……」

そんなことを呟きながら目を閉じれば意識はいつの間にか遠のいて、おやすみ三秒。
これ以上に私に安らぎを与えてくれる相手などいないだろう。これ以上ってすごいぞ。多分存在だけで他者を癒す空気を出している、森林浴と日光浴の合わせ技が使える相手しか無理だろう。
今日も今日とて、私は最愛の相手に身を任せ眠りにつくのだ。









どたどたと騒がしい足音が頭に響く。いやだ、もうちょっとこのままでいたい。もぞもぞと身体を動かし、掛け布団の中に体を埋めていく。枕が置いてけぼりになったが仕方がない。この先の戦闘についてこれそうにない。だって布団と違って枕は自分が接していた場所以外この時期冷える。

「頭ァ、朝だぞ」

どたどた、がたん。
部屋の扉は躊躇うことなく開けられた。朝方特有の冷えた空気は気持ちいいが、同時に寒い。この寒さの前に出ていきたくない。
乱暴な足音はもぞもぞと動く布団を躊躇うことなく掴んだのだろう。隙間から容赦のない隙間風が入ってくる。このままだと愛しい存在と引き離されるのは時間の問題だ。

「いやだ……さむい……ねむい……」
「ガキみてェにゴネんじゃねえよ。もう飯の準備できてんぞ」
「ごふんだけ……いやじゅっぷん……」

声の主は普段寝坊常習者のシュテンドウジだ。こんな冬の朝に早起きなんて彼らしくない。むしろこちら側にいる存在では?と思うのだが酷い裏切りである。
溜息が聞こえたが断固拒否だ。寒い。ちょっともう独神無理。独神は魔将軍を倒す英傑を指揮することはできたけど冬の早朝の寒さと布団の暖かさには勝てなかった。

「頭」
「いやだぁ。布団と結婚するんだ……」
「はぁ?」
「死がふたりを分かつともずっと一緒にいてささやかな幸せを……」
「寝ぼけてんだなおまえ」

苛立ったようにシュテンドウジは掛け布団を引っ張ってくる。そのたびにぬくい桃源郷は破壊されていく。寒いのはだめだ。独神は悪霊の前に立たされても怯まないし、唐突に出てこられでもしない限り悲鳴一つ上げないけれど冬の寒さはだめだ。さらに言うなら最愛のお布団を引っぺがされるのはもっとだめだ。それだけは耐えられない。

「しゅてん、やだってばぁ!もうちょっとだけ!もうちょっとだけだから!」
「さっきも聞いたな」
「段階を踏まないとダメな寒さだってこれ。寒いもん。絶対布団から出たくない」
「飯が冷めるっての。こら、出てこい」
「ヤダーッ!」

全力で掛け布団の端を押さえてぐずる。独神だってもうちょっと微睡んでいたいときもあるのだ。許してほしい。そう願ってもシュテンドウジは諦めてくれないようだった。

「おまえなぁ……」
「布団さんは人柄もよくて……いつでも私を慰めてくれて……」
「寝ぼけてんのと寒いのが嫌なのはよぉく分かった。そら、いい加減にしろ」

本気を出せばこちらの些細な抵抗などシュテンドウジにとっては無意味であり、つまるところ私の楽園はここに完膚なきまでに破壊されることになる。
舞う掛け布団、襲う肌寒さ、差し込む朝日。

「おはようさん。いい天気だぜ」
「ううっ……シュテンの意地悪……。おはよう……」

寒さに震えながら、どうにか軽減しようと考え、丸まろうとすると伸びてきた腕に掴まれた。

「そっちよりもこっちの方があったけェぞ」

ひょいと持ち上げられ、抱え込まれたとおもったら何かに包まれる。体温を保持し、暖める素材でできたこの時期の最強装備の一角。

「どてらとかずるくない?」
「さみィからな。ほら、しょうがねェから連れてってやる。大人しく包まってろ」
「あったかい……ねむい……」

浮遊感と暖かさは二度寝へといざなうには十分だった。まるでゆりかごのようだ。

「布団よりおれの方がいいだろ。何せ目的地まで勝手に運んでくれるわけだしな」

なるほど。確かに布団よりもシュテンドウジの方が優秀だ。眠気から何を考えているか段々分からなくなってきているが、おかまいなしにシュテンドウジは話を続ける。

「おれの方が布団なんかよりいい男だぜ。結婚するならおれの方がいいんじゃねえの?頭がどうしてもっていうなら帰りも入れてやるぜ?」

この懐は確かに暖かい。体温と心音は布団には欠けたものだ。

「うっ……結婚する……」
「そうしろそうしろ。もうすぐ着くぞ。目ェ開けとけ」
「ねむい……」



こんな雑なやり取りが後に本当になるだなんて、私は欠片も考えてはいなかった。