つかれている
※転生現パロ
※ちょっとやらしい
夜の街の、安いホテルの一室でついに私は服を脱いだ。
恥じらいのあまり恋人に背を向けながらになってしまったが、それは初めてなので許してほしい。ぱさりと下着の落ちる音がやけに耳に残る。
もうすぐこの人と結ばれるのだ。顔に熱が集まるのが分かる。でも振り向かなければ何もできない。
「あの……」
彼の方に向き直る前に、彼の漏らした声が聞こえた。
「ば、化け物……」
振られたことのある女性は星の数ほどあるかもしれないが、こんな振られ方をした女は世界広しといえど私くらいしかいないだろう。
「嘘でしょ」
「こんな悲しい嘘つかないんだよね?」
昼間のちょっとオシャレなコーヒーチェーン店に相応しくない会話だけれど、他の客は皆耳にイヤホンを差して音楽でも聴いているのか、視線はこちらに集まらない。
男と別れるきっかけは決まってソレだった。仲を深めて付き合い始めて、そうしていざセックスとなった時に服をひん剥かれて何故かドン引きされるのだ。背中に思ったより脂肪があって引いたとか?三人目くらいからは開き直って理由を尋ねようとしたが顔を合わせた瞬間に逃げられる始末。おかしい。すっぴんを見られても引かれなかったのに。
「でも別に、高校で着替え見る限りそんな変な身体してなかったと思うんだけど。……え、ほんとにそんな、背中で引かれて逃げられるの?」
「そうなんだよ。本当なんだよ。そして背中だけじゃないんだよ」
背中さえ見せなければいいのでは?そう思っていた時期もあった。相手の男に服を脱がせてもらえば背を向ける必要がないのだからどうにかこの場は済むのではないだろうかという期待は、興奮気味で私の下着以外をひん剥いた相手が「ヒッ」という割とガチの悲鳴をあげて飛びのき、ベッドから落下したことで打ち砕かれた。
「……え?それ人間を見た反応じゃないよね?」
「それな〜!でも鏡で見たって別に傷とかあるわけじゃないんだよ?黒子の一個や二個くらいあるけどさ」
「いや、普通の男はそれくらいじゃ引かないよ……。なんで?」
「私も聞きたいよ」
甘ったるい期間限定の名前の長いフラペチーノを飲みながらする話ではないかもしれないが、残念ながらすべて事実なのだ。
「うーん、着たままするしかないんじゃない?」
「それも考えたんだけど、」
「ど?」
「そもそも自分の裸を見て引くような相手としたくはない」
「そりゃそうだ」
あと大体、そういう時に限って「俺は気にしないよ」なんて言葉をかけてきやがるのだ男というやつは。
恥じらう彼女を宥めながら脱衣させていくシチュに興奮するのも束の間、服をひん剥いた次の瞬間に目もひん剥いて悲鳴をあげるのはやめてほしい。脱がしたのはおまえだぞ。普通に傷つくわ。
「そんなだから長続きしなくてですね」
「なーるほどなー……」
こうして喪を拗らせていく私と打って変わり、友人である彼女の左手薬指には指輪が輝いている。入籍はまだだが既に両親には挨拶済みらしい。なんとも羨ましい話だ。
「いや、でもそれもう何か憑いてるんじゃない?」
「わかる……。そろそろお祓いとか行った方がいいのかなあ」
「知り合いに詳しい人がいるから聞いてみよっか?」
「いやでも宗教はちょっと……」
流石に男に酷い振られ方をしまくったからといって宗教に傾倒するような女にはなりたくない。
「まぁでも一回くらい試してみたらいいんじゃない?なんなら奢るわよ」
「もうすぐ結婚する友人にお祓い代金払わせるのは最低じゃない?」
「それにああいうの、気持ちらしいし」
「あてにならない言葉だ」
いやーでもいいよ。めんどくさいし。きっとそういう縁じゃなかったんだよ。
……なんてことを確か私は言ったのだったか。
「つかれてますね」
「そりゃあ山道で疲れましたけど」
「そうではなく」
「はい」
友人と別れ、家に帰った後スマートフォンに送り付けられたのはとある寺の地図と「予約しておいたから」というメッセージだった。確かにそんな経緯から休日一緒に過ごすような異性を作るようなこともほとんどなくなってしまったし、でも一応友人とどこかに出かけることだって、いやまぁ大体カレシ持ちで私一人取り残されてしまった感があったけれど。だからといって勝手に予定を入れるのはちょっと困るんだけどな?
などという文句は建前で、ほんの少し興味があったのも事実。本当にあった怖いナントカではないけれど、そういうのが現実であるなんて面白いではないか。いや今まで受けた仕打ちは面白いで片付けられる代物ではないのだけれど。
「憑かれてますね」
何度も自称霊媒師の人は頷いて、そう言った。私を囲むように設置された蝋燭の灯が、薄暗い部屋の中で揺らめいている。
「いや、これは……はぁ……ええ?」
「一応聞きたいんですけど、除霊っておいくらなんですか?」
別に即金で支払うつもりは無く、これもまた興味だった。私の問いに霊媒師の人は首を傾けて、その後横に振った。
「お代はけっこうです」
「それは、無料ということで?」
本当に気持ちというやつなのだろうか。
だがまた霊媒師は首を横に振った。表情は何とも言えない、こちらに同情しているようにも見えた。
「無理だからです」
「むり」
なんだそりゃ。何か憑いているのに無理って。たらいまわしにして不安を煽って金をむしり取る詐欺か何かだろうか。私の不審を他所に、再び霊媒師は話し始める。
「蛇を知っていますか。ええ、蛇です。スネーク」
「爬虫類のでしょう?それくらい分かりますけど……」
「あなたに憑いてるそれは蛇なんですよね。うーん、蛇?蛇、蛇というか……まぁ、いや、でも蛇かなぁ……」
言葉を濁しまくるあたり、これはヤブ医者ならぬヤブ霊媒師というやつなのではないだろうか。だが蛇。蛇なんて生まれてこの方関わった記憶がない。そりゃあ教科書やペットショップで何度か見たことはあるけれど、実際に触ったりだとか助けたりだとか、そんなことをしたことはないと言い切れる。
「まぁいいや。蛇って何の象徴か知ってます?」
「金運ですかね」
「一説によると死と再生の他に嫉妬の象徴でもあるんですよ」
「わたし、妬まれてるんですか?」
「いやぁ、それならマシでしょうね」
何が。どう。霊媒師が柏手を一つ打つ。すると一瞬にして周りの灯は吹き消え、祈祷スペースとやらにも通された電気が本来の機能を取り戻した。
「あなたに憑いているのは蛇……いや、おろち、と呼ぶのが適切でしょうね。分かりますか?おろち。大きな蛇って書くんですけど」
「あーっと……ヤマタノオロチ、みたいな?」
「そうですそうです。嫉妬深い大蛇。ここまで言えば分かってもらえるかと思うんですけども」
いや、何の話か最初から最後まで理解が出来ないのだけれど。
「私も命が惜しいので、除霊はできません。おつかれさまでした」
「はぁ……」
そのおつかれさまは”お疲れ”と”お憑かれ”を掛けたさっきのギャグの意趣返しだろうか。
「じゃあ私はずっと異性とそういうことができないんですか?」
「それはちょっと違いますね」
「違う?」
「多分ですけど、同性でも同じ条件になったら襲い掛かるんじゃないですかね」
「あ、そういう?」
つまり、私は誰ともそういうことができないと、そういうことになる。
「キスはセーフだったみたいなんですけど」
「察しのいい人なら、まずあなたには近寄らないでしょうねえ。いや、ただの友人ならともかく好きになったら大蛇に睨まれるんですよ?背筋が凍りますよ、普通は」
「えーっと、じゃあ過去のカレシって」
「文字通り見たんでしょうねえ、化け物。あなたの肌を這う大蛇の姿でも見たのか、あなたが見ていない状態なら襲い掛かるような素振りも見せたかもしれない」
ついに彼女といい雰囲気になり、ホテルに連れ込んで服を脱がせたと思ったら彼女の肌には大きな蛇が這っていた。いやもしかしたら背から飛び出したりしたのかもしれない。
いや、そりゃあ化け物だよなぁ……。
途端に一生許すものかと思っていた恋人たちが不憫になってきた。あっちだっておそらくその気でいたにも関わらず、突然彼女がびっくり動物園するとはだれも思わないだろう。
「つまり私、一生そういうことができない?」
「うーん。どうでしょうね。まぁ人には相性っていうものがありますし、気にしない奇特な方がいるかもしれないですよ。あとはまぁ……憑いてる張本人にしかどうにもできないでしょうねえ」
おつかれさまでした。再度そう告げる霊媒師に背を向けると、部屋の入口で電気のスイッチの近くに立つ女性と目が合った。
夜の街の、安いホテルの一室でついに私は服を脱いだ。
相手は恋人などではなく、ついさっき乗り気ではない合コンで捕まえた男だ。酒を飲んでどうせ恋人などできないと嘆く私に「そうか?おまえみたいな可愛いやつ他にいないと思うぜ」と抜かしたチャラついたガラの悪い男である。
どうしてそんな無謀なことを、と言われればつかれていたのだと、それしか理由がない。
恋人が出来たとしてもうまくいかない未来にも、周囲は先に幸せになってしまうことにも、何もかも。酒に逃げ、どうでもよくなったのが半分。この男への意趣返しが半分だった。
大蛇か何か知らないが、こうなったら気にしない奇特な男を見つけるしかない。そして一発ヤってしまえば処女厨の大蛇も諦めることだろう。というか覚えのないおろちかなにかしらないがそんな物体に従うことが癪に障る。
流石に脱いですぐさま化け物呼ばわりされるのは傷つくので、できる限り部屋を暗くしてもらった。恥ずかしいのは事実だし。
結局のところ、私はどちらでもよいのだ。先ほど私を可愛いと抜かした男が悲鳴をあげて逃げ出しても、あるいはこの男とどうにかなってしまったとしても。
「本当に可愛いと思いますか?」
背を向けたまま、最初の男が逃げ出した時のことを思い出す。あの時は下着を脱いで、振り向いた後だったか。
「ああ、思ってる」
「本当に?」
「嘘ついてどうすんだよ」
……あれ?様子がおかしい。前まではこんな調子になったなら、すぐさま相手が怯えて逃げ出したのに。困惑するこちらを他所に、男は顔を近づけ、唇を重ねてくる。
「こんな時に考え事かよ。つれねェやつ」
いや、だって、待って欲しい。大蛇はどこに消えたのだ。
男は笑みと共に惜しげもなく服を脱ぎ捨て、上半身を晒す。そこに刻まれているのは大蛇だった。
そんな偶然あるものか。こんなのつかれている私の見せる幻覚だろう。
絡められた男の舌は、蛇のように長かった。
「二世の契りなんて重すぎるでしょう。次生まれ落ちたら、シュテンはもっと器量のいい人を見つけるといいよ」
そう言った頭に対して「そんなの誰が許すか」と言ったのは随分昔の話。
4/29 つかれている
※ちょっとやらしい
夜の街の、安いホテルの一室でついに私は服を脱いだ。
恥じらいのあまり恋人に背を向けながらになってしまったが、それは初めてなので許してほしい。ぱさりと下着の落ちる音がやけに耳に残る。
もうすぐこの人と結ばれるのだ。顔に熱が集まるのが分かる。でも振り向かなければ何もできない。
「あの……」
彼の方に向き直る前に、彼の漏らした声が聞こえた。
「ば、化け物……」
振られたことのある女性は星の数ほどあるかもしれないが、こんな振られ方をした女は世界広しといえど私くらいしかいないだろう。
「嘘でしょ」
「こんな悲しい嘘つかないんだよね?」
昼間のちょっとオシャレなコーヒーチェーン店に相応しくない会話だけれど、他の客は皆耳にイヤホンを差して音楽でも聴いているのか、視線はこちらに集まらない。
男と別れるきっかけは決まってソレだった。仲を深めて付き合い始めて、そうしていざセックスとなった時に服をひん剥かれて何故かドン引きされるのだ。背中に思ったより脂肪があって引いたとか?三人目くらいからは開き直って理由を尋ねようとしたが顔を合わせた瞬間に逃げられる始末。おかしい。すっぴんを見られても引かれなかったのに。
「でも別に、高校で着替え見る限りそんな変な身体してなかったと思うんだけど。……え、ほんとにそんな、背中で引かれて逃げられるの?」
「そうなんだよ。本当なんだよ。そして背中だけじゃないんだよ」
背中さえ見せなければいいのでは?そう思っていた時期もあった。相手の男に服を脱がせてもらえば背を向ける必要がないのだからどうにかこの場は済むのではないだろうかという期待は、興奮気味で私の下着以外をひん剥いた相手が「ヒッ」という割とガチの悲鳴をあげて飛びのき、ベッドから落下したことで打ち砕かれた。
「……え?それ人間を見た反応じゃないよね?」
「それな〜!でも鏡で見たって別に傷とかあるわけじゃないんだよ?黒子の一個や二個くらいあるけどさ」
「いや、普通の男はそれくらいじゃ引かないよ……。なんで?」
「私も聞きたいよ」
甘ったるい期間限定の名前の長いフラペチーノを飲みながらする話ではないかもしれないが、残念ながらすべて事実なのだ。
「うーん、着たままするしかないんじゃない?」
「それも考えたんだけど、」
「ど?」
「そもそも自分の裸を見て引くような相手としたくはない」
「そりゃそうだ」
あと大体、そういう時に限って「俺は気にしないよ」なんて言葉をかけてきやがるのだ男というやつは。
恥じらう彼女を宥めながら脱衣させていくシチュに興奮するのも束の間、服をひん剥いた次の瞬間に目もひん剥いて悲鳴をあげるのはやめてほしい。脱がしたのはおまえだぞ。普通に傷つくわ。
「そんなだから長続きしなくてですね」
「なーるほどなー……」
こうして喪を拗らせていく私と打って変わり、友人である彼女の左手薬指には指輪が輝いている。入籍はまだだが既に両親には挨拶済みらしい。なんとも羨ましい話だ。
「いや、でもそれもう何か憑いてるんじゃない?」
「わかる……。そろそろお祓いとか行った方がいいのかなあ」
「知り合いに詳しい人がいるから聞いてみよっか?」
「いやでも宗教はちょっと……」
流石に男に酷い振られ方をしまくったからといって宗教に傾倒するような女にはなりたくない。
「まぁでも一回くらい試してみたらいいんじゃない?なんなら奢るわよ」
「もうすぐ結婚する友人にお祓い代金払わせるのは最低じゃない?」
「それにああいうの、気持ちらしいし」
「あてにならない言葉だ」
いやーでもいいよ。めんどくさいし。きっとそういう縁じゃなかったんだよ。
……なんてことを確か私は言ったのだったか。
「つかれてますね」
「そりゃあ山道で疲れましたけど」
「そうではなく」
「はい」
友人と別れ、家に帰った後スマートフォンに送り付けられたのはとある寺の地図と「予約しておいたから」というメッセージだった。確かにそんな経緯から休日一緒に過ごすような異性を作るようなこともほとんどなくなってしまったし、でも一応友人とどこかに出かけることだって、いやまぁ大体カレシ持ちで私一人取り残されてしまった感があったけれど。だからといって勝手に予定を入れるのはちょっと困るんだけどな?
などという文句は建前で、ほんの少し興味があったのも事実。本当にあった怖いナントカではないけれど、そういうのが現実であるなんて面白いではないか。いや今まで受けた仕打ちは面白いで片付けられる代物ではないのだけれど。
「憑かれてますね」
何度も自称霊媒師の人は頷いて、そう言った。私を囲むように設置された蝋燭の灯が、薄暗い部屋の中で揺らめいている。
「いや、これは……はぁ……ええ?」
「一応聞きたいんですけど、除霊っておいくらなんですか?」
別に即金で支払うつもりは無く、これもまた興味だった。私の問いに霊媒師の人は首を傾けて、その後横に振った。
「お代はけっこうです」
「それは、無料ということで?」
本当に気持ちというやつなのだろうか。
だがまた霊媒師は首を横に振った。表情は何とも言えない、こちらに同情しているようにも見えた。
「無理だからです」
「むり」
なんだそりゃ。何か憑いているのに無理って。たらいまわしにして不安を煽って金をむしり取る詐欺か何かだろうか。私の不審を他所に、再び霊媒師は話し始める。
「蛇を知っていますか。ええ、蛇です。スネーク」
「爬虫類のでしょう?それくらい分かりますけど……」
「あなたに憑いてるそれは蛇なんですよね。うーん、蛇?蛇、蛇というか……まぁ、いや、でも蛇かなぁ……」
言葉を濁しまくるあたり、これはヤブ医者ならぬヤブ霊媒師というやつなのではないだろうか。だが蛇。蛇なんて生まれてこの方関わった記憶がない。そりゃあ教科書やペットショップで何度か見たことはあるけれど、実際に触ったりだとか助けたりだとか、そんなことをしたことはないと言い切れる。
「まぁいいや。蛇って何の象徴か知ってます?」
「金運ですかね」
「一説によると死と再生の他に嫉妬の象徴でもあるんですよ」
「わたし、妬まれてるんですか?」
「いやぁ、それならマシでしょうね」
何が。どう。霊媒師が柏手を一つ打つ。すると一瞬にして周りの灯は吹き消え、祈祷スペースとやらにも通された電気が本来の機能を取り戻した。
「あなたに憑いているのは蛇……いや、おろち、と呼ぶのが適切でしょうね。分かりますか?おろち。大きな蛇って書くんですけど」
「あーっと……ヤマタノオロチ、みたいな?」
「そうですそうです。嫉妬深い大蛇。ここまで言えば分かってもらえるかと思うんですけども」
いや、何の話か最初から最後まで理解が出来ないのだけれど。
「私も命が惜しいので、除霊はできません。おつかれさまでした」
「はぁ……」
そのおつかれさまは”お疲れ”と”お憑かれ”を掛けたさっきのギャグの意趣返しだろうか。
「じゃあ私はずっと異性とそういうことができないんですか?」
「それはちょっと違いますね」
「違う?」
「多分ですけど、同性でも同じ条件になったら襲い掛かるんじゃないですかね」
「あ、そういう?」
つまり、私は誰ともそういうことができないと、そういうことになる。
「キスはセーフだったみたいなんですけど」
「察しのいい人なら、まずあなたには近寄らないでしょうねえ。いや、ただの友人ならともかく好きになったら大蛇に睨まれるんですよ?背筋が凍りますよ、普通は」
「えーっと、じゃあ過去のカレシって」
「文字通り見たんでしょうねえ、化け物。あなたの肌を這う大蛇の姿でも見たのか、あなたが見ていない状態なら襲い掛かるような素振りも見せたかもしれない」
ついに彼女といい雰囲気になり、ホテルに連れ込んで服を脱がせたと思ったら彼女の肌には大きな蛇が這っていた。いやもしかしたら背から飛び出したりしたのかもしれない。
いや、そりゃあ化け物だよなぁ……。
途端に一生許すものかと思っていた恋人たちが不憫になってきた。あっちだっておそらくその気でいたにも関わらず、突然彼女がびっくり動物園するとはだれも思わないだろう。
「つまり私、一生そういうことができない?」
「うーん。どうでしょうね。まぁ人には相性っていうものがありますし、気にしない奇特な方がいるかもしれないですよ。あとはまぁ……憑いてる張本人にしかどうにもできないでしょうねえ」
おつかれさまでした。再度そう告げる霊媒師に背を向けると、部屋の入口で電気のスイッチの近くに立つ女性と目が合った。
夜の街の、安いホテルの一室でついに私は服を脱いだ。
相手は恋人などではなく、ついさっき乗り気ではない合コンで捕まえた男だ。酒を飲んでどうせ恋人などできないと嘆く私に「そうか?おまえみたいな可愛いやつ他にいないと思うぜ」と抜かしたチャラついたガラの悪い男である。
どうしてそんな無謀なことを、と言われればつかれていたのだと、それしか理由がない。
恋人が出来たとしてもうまくいかない未来にも、周囲は先に幸せになってしまうことにも、何もかも。酒に逃げ、どうでもよくなったのが半分。この男への意趣返しが半分だった。
大蛇か何か知らないが、こうなったら気にしない奇特な男を見つけるしかない。そして一発ヤってしまえば処女厨の大蛇も諦めることだろう。というか覚えのないおろちかなにかしらないがそんな物体に従うことが癪に障る。
流石に脱いですぐさま化け物呼ばわりされるのは傷つくので、できる限り部屋を暗くしてもらった。恥ずかしいのは事実だし。
結局のところ、私はどちらでもよいのだ。先ほど私を可愛いと抜かした男が悲鳴をあげて逃げ出しても、あるいはこの男とどうにかなってしまったとしても。
「本当に可愛いと思いますか?」
背を向けたまま、最初の男が逃げ出した時のことを思い出す。あの時は下着を脱いで、振り向いた後だったか。
「ああ、思ってる」
「本当に?」
「嘘ついてどうすんだよ」
……あれ?様子がおかしい。前まではこんな調子になったなら、すぐさま相手が怯えて逃げ出したのに。困惑するこちらを他所に、男は顔を近づけ、唇を重ねてくる。
「こんな時に考え事かよ。つれねェやつ」
いや、だって、待って欲しい。大蛇はどこに消えたのだ。
男は笑みと共に惜しげもなく服を脱ぎ捨て、上半身を晒す。そこに刻まれているのは大蛇だった。
そんな偶然あるものか。こんなのつかれている私の見せる幻覚だろう。
絡められた男の舌は、蛇のように長かった。
「二世の契りなんて重すぎるでしょう。次生まれ落ちたら、シュテンはもっと器量のいい人を見つけるといいよ」
そう言った頭に対して「そんなの誰が許すか」と言ったのは随分昔の話。
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