※相手は明記していませんが、英傑×英傑要素があります
※タケミカくんが他の英傑とデキています
※マサカドサマも他の英傑とデキています




言い訳が許されるのであれば、そもそも現代社会に生きていた一般人には英傑達の顔面偏差値に抗うということはとても難しいことであると、そう主張したい。
皆して顔が良いし、尚且つこちらに非常に好意的だ。そんな中で勘違いをするなという方が無理がある。私だって頑張って抵抗したのだ。あの顔面に抗ったのだ。目を輝かせてこちらに忠誠を誓う彼に抗ったのだ。そうしてその結果がこれである。

「まぁ、なんだ?相手が悪かったな」

そう慰めの言葉をかける鬼は、愚かな私を情け容赦なく両断するのだ。





一人目の話をしよう。
最初に好きになったのは、一番初めに産魂ばれたタケミカヅチだった。
普段は大型犬のように愛らしく、笑顔も柔らかいのに、軍神の名に相応しく戦場においては目をぎらつかせる。そんな彼が私に勝利を捧げるなんていうのだ。
そりゃあ勘違いした。盛大に勘違いをした。少なくとも少しくらいはそういった意味で好かれているのではないかと期待をした。
結論から言えば、私の勘違いであった。何せ彼には恋人がいたのだ。


それはタケミカヅチを大将とした部隊が出陣から帰還した時の話だった。
どうしても心配だった私は部隊の帰りを待って、夜遅くまで起きていたのだ。そして正門の方が騒がしくなったのを聞いて、八尋殿を飛び出し、彼らの出迎えに向かおうとした。
思えば私はこの時からどうも間が悪い性質だった気がするが、まぁ話の本筋とは関係ないので割愛しておこう。
夜に出歩くと心配性な英傑達から叱られたりするのだが、そんなことも構わずに私はタケミカヅチを探した。そうして正門からほど近い木陰で、彼を見つけることが出来た。
私も知る英傑とほぼゼロ距離で微笑み合う彼の姿は、今でも忘れることができない。どことなく瞳が熱っぽく、それは私が一度たりとも見たことの無い姿だった。相手の腰にまわされた腕は、その相手を愛おしく思っていることの何よりの証だ。
身のこなしに関して、私はただの素人である。そのせいか、”相手”は私に気付いたようだった。だがタケミカヅチの”相手”はタケミカヅチから離れることなく、彼に更に抱き着く。そうしてこちらを見ながらそっと人差し指を口につけた。静かに、と。こちらにそう告げているのだ。
恋人同士の逢瀬を今は見逃してくれ、と。
あっ、これはだめだ。これ以上見ていると泣き崩れてしまう。そう感じた私はすぐさまその場から遁走した。

屋内へと逃げ込んだ時には既に私の涙腺は決壊しており、何とも言い表せない気持ちでいっぱいになっていた。勘違いをしてのぼせ上った自分への情けなさ、今まで相手ともども気を遣わせていたのだろうという申し訳なさ、そして私をこんなにも勘違いさせたタケミカヅチへの恨めしさ。
そんな状態だったからだろう。廊下を曲がる際、私は足音に気付かずに誰かと正面衝突してしまった。

「おい、気をつけ……頭?おまえこんな時間に出歩くと他のやつらが……」

泣いているせいでほとんど目が機能していなかったが、ぶつかった相手はシュテンドウジだったらしい。シュテンドウジもシュテンドウジでぶつかった相手が私だと分かると、すぐに心配をしてきた。尚且つ私は絶賛大号泣中なのだ。

「誰に何された。言ってみろ」

そう言ってシュテンドウジは私の肩を掴み、視線を合わせてきた。

「ふ……」
「ふ?」


「振られたあああああああああああ!!!!!」


廊下で騒ぐわけにはいかず、だいぶキている私を支えながら、シュテンドウジは私の部屋までやってきた。そうして今までの話を聞いてくれたのだ。
タケミカヅチに惚れてしまったこと。きっとタケミカヅチも私のことをまぁちょっとはそういう感じで思ってくれているだろうなと自惚れていたこと。そして実際はそんなことは全くなく、彼には英傑に恋人がいたこと。

「……あー、わりィけど頭、それ知らなかったのおまえくらいだと思うぜ」

その情け容赦のない言葉で私は床に力なく倒れ伏した。

「言ってよ!!!!!!!!!!!!!!!」
「他人の惚れた腫れたなんざいちいち言うことでもねェだろ」
「そうだけど!そうだけど!!!」

恋心が育つ前に言って欲しかったと願うのは私の我儘だろうか。
ぴぃぴぃと子供のように泣き続ける私を他所に、シュテンドウジは瓢箪を片手に、こう言った。
「相手が悪かったな」と。




そんなつもりは元々欠片もなかったのだけれど、それからというもの、失恋するたびに私はシュテンドウジに泣きつくことになった。
二人目に好きになったのはマサカドサマだった。普段は冷酷な態度のくせに私に対してはひどく甘く、そして守ろうとしてくれる。しかもその優しさの中に独占欲が垣間見えるのだ。
それは忠誠心だぞ、勘違いしてはいけない。前の失敗を繰り返さないようにと告げる、今は亡きタケミカヅチへの恋心がそう必死にブレーキをかけたのだが、愚かな私は同じ轍を踏んだ。
だって「俺の将軍」とか言われてしまっては大体の人が勘違いすると思う。
もう読めているとは思うが当然のようにまた失恋した。理由は霊廟に二人を起こしに行った際、お楽しみの最中だったからだ。「ごめんなさい!」と叫んで遁走したのは言うまでもないだろう。
好きな人の生々しいところを見てしまった私の精神的ダメージは尋常ではなかった。
部屋へ逃げ帰る途中で遭遇したシュテンドウジが何も言わずについてきた時点で、だいぶ察されていたところはあったと思う。

「はぁ、次はあいつか」

そう言いながらシュテンドウジは気にせずに酒を飲み始める。きちんと慰めてほしい。こっちは処女なのにトラウマもののシーンと遭遇してしまったんだぞ。そうは思っても最早泣いているため言葉がきちんと形を成さず、潰れた蛙のような泣き声をあげることしかできない。

「仕方ねェな。ほら、頭も飲むか?」
「うぇぇ……しゅてん……」
「おまえ今すっげェ顔してんぞ。ほら、鼻かんどけ」

そう言って懐紙を渡されたところで次から次へと涙も鼻水も出てくるのでどうしようもない。
溜息をつくとシュテンドウジはこっちに近づいてくる。

「仕方ねェな」

面倒そうにしても、彼はこっちを放置してどこかに行くということはない。むしろ懐紙でこちらの鼻をかませる始末だ。お兄ちゃん……。そういったつもりだがおそらくすべてに濁音がついていたと思う。

「まー、あれだ。頭」

ぐすっと大きく鼻を鳴らす私に、彼は無情に言い放つ。


「相手が悪かったな」







それからやはり私は学習できず、どうしても英傑達に恋をしてしまった。だけど彼らが私に向けるのは忠誠で、一緒に前線に戦っている戦友とそういった仲になる場合が非常に多かった。この本殿はリア充本殿だったのか。
そのたびに私は部屋でむせび泣き、何故か決まってシュテンドウジが傍にいてぶっきらぼうに慰めてくれた。彼は私の惚れっぽさを責めずに「相手が悪かった」と毎回言ってくれる。
いや、相手が悪いとかそういうことはなく、勝手に好きになった私が悪いと分かり切っている。それでもシュテンドウジは優しかった。


話を戻そう。私は学習能力がない。そしていつも私を優しく慰めてくれる相手なんて、勘違いをするなと言う方が無理なのではないか。
これでも私はとても頑張ったのだ。何せもしもダメになったときのリスクが、シュテンドウジは高すぎた。八傑という存在は初期から私に協力してくれた、いわば一蓮托生の盟友のようなもので。それ相手に恋をして、ギクシャクしてしまったら最悪だ。当然理性は待ったをかけた。
しかしそんなことで恋するのを止められたら苦労はしないしタケミカヅチで懲りている。
そうして私はついに、ついに安牌に手を出してしまったのだ。



さて、ではシュテンドウジがどういう人となりをしているかと言えば、酒乱・乱暴・女好きというダメ属性三銃士を抱えた悪い鬼だ。当然、女癖は良いとは言えない。
偶然その時のお伽番と一緒に街へと出かけた際、見つけたのは人族の女性に腕を絡められているシュテンドウジ。私から見ても、艶やかな美人だと思うその人を、シュテンドウジは振り払うことはしなかった。
あ、だめだ、と思ったときにはお伽番の腕を引いて、お腹が痛いと嘘をついて本殿へととんぼ返りをしていた。



たぶん私は絶望的に間が悪い。最初の時も、その次の時も、その次の次の時もそうだった。
いつもこうやって失恋する。



今までダメだった時はいつもシュテンドウジに慰めてもらっていた。では今度は誰に慰めてもらえばいいのだろうか。
平静を装って部屋に戻りはしたものの、一度糸が切れてしまうとぼろぼろと涙がこぼれ始める。ぎゃんぎゃんと泣きわめく余裕すらない。もう「相手が悪かった」と彼に言っては貰えない。
床に伏してひとりで泣いていると、いつの間にかカァくんが目の前でおろおろしていた。どうやらお腹が痛いという私の嘘をお伽番経由で聞いたらしい。

「どうなさったのですか?!すぐにアカヒゲ殿をお呼びして……」
「だいじょ、ぶだからぁ!振られただけだから!」

ふら……?と言いながらカァくんは羽で私の涙を拭おうとするが、次々と目から零れ落ちていく。

「いっつもそう!結局さぁ!わたしのこといっちばん好きな相手なんてだーれもいないの!!」

独神としては愛してくれるけど、結局私を個人として愛してくれる英傑はいないのだ。独神としては特別だけど、彼らには結局私以外にも、私以上に特別に情をかける相手がいる。
恋と使命を天秤にかけて、使命をとってくれる英傑は多分沢山いる。だけど私が欲しいのは使命感とかじゃあなくて恋愛対象として扱われたかった。
どんなに優しくされたって、結局のところはそれは友好的な好意なのだ。

「分かってたけどぉ!でもぉ!やっぱり好きになっちゃったの!」

ぐすぐすと泣きながら、つっかえつっかえにそう言葉にしても、結局どうにもならない。シュテンドウジもブルータスなのだ。いや、そういう風に愛されているとは正直もう思えなかったのだが。
だが今までずっと慰めていてくれて、つい好きになってしまった相手というのは衝動的に燃え上がった相手よりもダメージが深刻らしかった。

「もう無理だよぉ!独神やめるぅ!」
「そんなことおっしゃらないでください。あの、いったいどなたに……」

名前などカァくんに告げれば翌朝シュテンドウジがどうなっているかわからない。他の皆にもそれが伝わって文字通り無残な死体でされてもおかしくない。私は断固沈黙を貫こうとする。

だが、それは許されない。部屋の戸が派手に開け放たれる。実は独神の私室、セキュリティはガバガバだ。寝るときくらいしか結界は機能させていない。そのせいで入ろうと思えば誰だって入れてしまう。

「おい、カラス。席外せ」
「えっ何ですかいきなり。もしかしてシュテン殿が犯人なんですか?!」
「いいから、おまえちょっと出てけ」

シュテンドウジは軽くカァくんの頭を引っ掴むと、開いたままの障子戸からひょいと投げ出した。その後素早くそれを閉めると、私に向き直る。

「そんで?今回は誰なんだよ」
「言わない……」

言いたくない。近寄ってくるシュテンドウジから距離をとろうとする。だって彼の身体から酒以外の、女の香りなんて感じてしまったら私はおかしくなってしまう。

「シュテンなんてきらい!!!出てってよ!!!」

ぐすぐすと子供のように鼻を鳴らす私を、シュテンドウジはしばらく黙って見つめていた。
そして溜息をついた後「次はおれかよ」とぽつりと呟いたのだ。

「マジでバカだな、頭は」

正面から振られるのはそういえば初めてだと、今更気付く。いやだ、逃げ出したい。そうは思っても既に逃走が許されないような距離に詰められていた。

「分かってる。また勘違いしただけだよ。忘れて」

乱暴に目を拭おうとした腕を掴まれ、彼の顔が接近してくる。振るならとっととして欲しいと願うが、彼の行動はそれとは真逆にべろりと舌でこちらの涙を拭ってくるではないか。


「相手が悪かったな、頭。おれは他のやつとは違って見逃してなんかやらねェぞ」


そう私に言う彼の瞳は、酷く欲に濡れていた。



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