※気持ちやらしい
※ふれあい台詞バレあり




自分からすすんでこちらの椅子になった男は、暇つぶしとばかりに重ねた手を指で撫でている。
こんな状態で書きものに集中するというのは無理な話だろう。

「シュテン、話が違う」
「んー?何がだよ」

確実に分かっているくせに、素知らぬ態度で男は、シュテンドウジはあくどい笑みを浮かべる。それがすべての答えだというのに、私はこの男を振りほどくすべを持たないのだ。




「なぁなぁ頭ァ今日は何すんだ?」


朝起きて身支度を整えて、朝食を取った後。御伽番である彼に挨拶をすると、まるで子供が親に予定を聞くかのように、シュテンドウジは私にそう尋ねてきた。
別に何か特別なことをする予定はない。あえていうのであれば、いつも通りの独神としての仕事をして終わりだ。

「特別なことはしないから、暇なら出掛けててもいいよ。酒代は出さないけど」
「ちげェよ!そうじゃなくてだな」

たまには朝から外で飲みたいのかと思ったが、どうやら違うらしい。

「その、邪魔はしねェからよ、おれも一緒でいいか?」
「うん?別にいいけども」

そんなことは今更の話だろう。別に確認をしなくったって、御伽番だから好きに侍っても誰も咎めないというのに。流石に厠についてこられたら困るかもしれないが、それくらいだ。
いや、もしかして今までずっと「暇なら好きにしてていい」と言ってきたことが、シュテンドウジにとっては「邪魔だからどっか行ってていいよ」に聞こえていたのだろうか。まぁ確かにスサノヲやモモタロウあたりと仲良く喧嘩しているときのシュテンドウジはやかましいとは思うけれど。

「うっし!言質取ったぜ!じゃあこれから何から始めんだ?」
「そんなに喜ぶことかなぁ。えーっと、今日は……」



それから、遠征部隊の出迎えと見送り、花廊で種を植えて、御庭番の調子はどうかと様子を見て。そのすべてにシュテンドウジは躾けられた犬のように行儀よくついてきた。そこで何か喧嘩を吹っ掛けるわけではないし、足元が危なそうだったら事前に声を掛けてくれることはあっても問題を起こすことは無い。

「普段、ひとりでこんなことしてんのか」

花廊、錬金堂とまわって兵舎に寄ってから本殿への帰り道、シュテンドウジはそうこちらに問うてきた。そんなに仕事量が多いわけではない。むしろ悪霊達との戦闘をする皆のことを思えば少ないくらいだろう。
それともいつも一人でうろつくのは不用心という話だろうか?それなら心配ない。

「うん?まぁそうだねえ。でもいつもひとりってわけじゃないよ。ひとりでいるとむしろ皆声を掛けてきて、手伝ってくれるし」
「へーぇ」

何か妙なものを踏んだ気がしたが、シュテンドウジはそこで何をするわけでもない。

「まだやることが残ってんだろ?行こうぜ」
「ああ、うん」

本当にシュテンドウジは、邪魔など一つもせずに、執務室へと私を連れ帰ったのだ。





書類仕事は流石に暇だろうと思ったのだが、シュテンドウジは「頭が字を書いてるとこ見るの好きなんだよ」とよく分からないことを言い出した。
かといって隣で見物しているというのは邪魔だし、私も片方の腕が動かしにくくなってしまう。

「じゃあおれの膝の上に座るか?そうすりゃおれも頭の手元がよく見えるだろ」

今日のシュテンドウジはひどく大人しいから、別にそれくらいは問題ないか。むしろここで突っぱねては、今回偶然興味を持っただけのシュテンドウジが不憫だろう。
先んじて座椅子に陣取ったシュテンドウジの膝に「お邪魔します」と座り込む。普段と同じような姿勢だと机に対して高くなりすぎてしまうため、普段より崩した調子になったがこれくらいなら執務に障りは出ないだろう。

「重くない?」
「おれがどんだけ非力だと思ってんだよ」
「いや、一応……」

胡坐をかいたシュテンドウジの上はすれはもうちょうどいい椅子だった。普段の使い慣れた座椅子といい勝負をするくらい座り心地がいい。ただ肩に顎を置かれるのは少しばかりいただけない。重いし顔が近すぎる。いや、シュテンドウジは私の顔よりも手元の方に興味があるのだろうが。
そう、この時点で嫌な予感はしておくべきだったのだが、鈍い私はどうにも気付かない。彼の片腕が珍しく酒の入った瓢箪を手放したことに疑問を抱くこともなく、その日の業務を開始した。






嘆願書への返事を書き始めた時、片腕が腹部を抱いていることに気が付いた。
まぁ厠に行きたいわけではないし、置き場がなかったのだろう。私は気にしないことにした。


花廊の増築案を纏めている時、利き手でない、文机の上に投げ出された方の腕に彼の腕が伸びていることに気が付いた。
これもまた置き場が無かったのだろう。たまに触れられてもそれ以上のことはない。これは別に意識してやっていることではないのだろうし、邪魔に入らない。私は気にしないことにした。


遠征の当番表を考えているとき、腹部にまわった腕に力を込められ、密着させられたことに気付いた。
私は気にしないことに……。


気が付いたら腕が重ねられていることに気付いた。
私は気に……。


時々紡がれる言葉と吐息が、わざとらしく耳元で囁くようだと気付いた。
私は……。


「シュテン、嘘をついたな」


「なんのことだかわかんねェな」
「分かってるって言ってるようなものだよ、それ」

手の甲を撫でるのは飽きたのか、今度は戯れに上から捕まえるように指を絡められる。所謂、恋人繋ぎというやつだ。明らかに恋人同士がするような距離感と行為だろう。

「嘘つき。もうおしまいにしよう。ほら、離して」
「なんだよ。邪魔はしてねェだろ?」

いや、明らかに邪魔だ。先ほどからシュテンドウジのかけるちょっかいのせいで、書き物に全く集中ができない。何が子供だ。何が躾けられた犬だ。全然可愛くなんてないだろうこれは。

「どう考えたって邪魔でしょ。邪魔じゃなかったらなんだっていうのさ」

抵抗の意味を込めて捕まえられた手を動かしてみるものの、シュテンドウジは放すつもりは一切ないようで、ぴったりとくっついている。
こんなの暑苦しいだけだろうに。いや、こちらが動揺しているせいもあるのだろうが。

「知らねェのか?こういうのはな」

一度こちらの項に顔を埋めてから、彼は悪い笑みを浮かべて、わざとらしく、私によく聞こえるように囁くのだ。


「邪魔じゃなくて誘ってる、っつーんだ」



5/4 邪魔はしない話