子どもの日
※シュテンくんがショタ化し、途中まで受けっぽいですがシュテ独ですお察しください。
※いろんな台詞バレがある
※若干やらしい
この本殿は私にとって、とてもすわりが悪い。
というのも何も知らなかった頃はよかったのだけれど、情緒の育成と共にだんだんと顔立ちの整った英傑達を意識するようになってしまって。
凛々しい彼らと二人きりで長時間過ごすなんてとんでもない。心臓がいくつあっても足りやしない。普段はどうにか独神としての体裁を保っているけれど、油断するとすぐぼろがでてしまう。
右を見ても左を見ても男前。気が休まるのは女性英傑と幼い姿をした英傑と一緒にいるときだろうか。
「なぁなぁ頭。たまにはおれに御伽番任せてみねェ?」
だから、こういうのは非常に困る。
腰に自然と腕を回しながら強請ってくるのは容姿端麗な鬼、シュテンドウジだ。
無理である。超絶に無理。何せ顔が良い。既に圧倒的な女性に群がられる雄という雰囲気が尋常ではない。
語彙力が失われつつある中、これ以上の被害を出さないように、彼の御尊顔を直視しないよう視線を逸らすのが私の最大限の抵抗である。
「いや、あの……」
「なんだよ。おれが嫌なのか?」
「そうじゃなくて、あの、落ち着かないというか……」
そろそろ顔から発火しそうだ。今まで何人もの気に入った相手を攫ったり口説いたりしてきたシュテンドウジがこちらの動揺した様子に気付かないわけがない。
「ちょっと、鬼のくせに主さんに近寄らないでもらえる?今日の御伽番は僕なんだけど」
「今、頭と話してんだよ。モモのガキは引っ込んでろ」
「へぇ、死にたいみたいだね」
売り言葉に買い言葉。喧嘩が優先されたのか、それともこっちが目的だったのか。ともかく私は解放され、ぴゃっとモモタロウの背後へと逃げ込んだ。
「よしよし。主さん怖かったね。大丈夫だよ。あんな鬼、僕がすぐ片付けるから」
「おい勝手に殺すな」
危うくシュテンドウジの前で顔が火だるまになるところだった。モモタロウの背にぺったりとくっつくと大変落ち着く。そう、男性はこれくらいの相手がちょうどいい。これ以上は駄目だ。心臓が潰される。
……そんな様子をシュテンドウジがじっと見ていたなんて、私は気付かなかったのだ。
「かしら、なぁ、これ、おれどうしたらいいんだ」
翌朝、執務室の扉を開けると、部屋の隅に布の塊がぽつんと増えていた。布の塊、というより頭から布を被った何かである。
その塊はこちらの姿を確認すると、恐る恐ると言った様子で布を外しはじめた。
頭という呼び方をする英傑は何人もいるがこんなに高い声をした者などいただろうか。そんなことを悩んでいると、ついにぱさりと布が落ち、隠れていた姿が露わになった。
尖った耳。控えめな角。藤色の髪。その姿は非常にシュテンドウジと共通点が多い。ただ一つ明確に違っている。
「えっ、えっ?」
私よりも二回りほど背の低い、ちょうどモモタロウと同じくらいの背格好をした、文字通り少年がそこにいた。
ただいただけならばきっと誰もがシュテンドウジの隠し子だと誤認しただろう。
「なんか、朝おきたらこんなことになっててよ……。おれ、もしかしてまた力が抜けたのか」
「本当にシュテン……だよ……ね?」
「おれいがいのだれに見えるっつーんだよ!かしらもはくじょーなやつだな!」
ぷりぷりと怒っていても普段の威圧感は欠片もない。なにせ完全に少年なのだ。それもモモタロウと同じか、あるいはそれよりも小柄な。
「いや、どうし……よう」
小さなシュテンドウジを見ていると、普段とは別の意味でなんだか落ち着かない。彼は可愛いのだ。いや、モモタロウもウシワカマルも可愛いと思うが、このシュテンドウジも可愛い。凶悪さの欠片もなく、ふくふくとした頬に大きくない掌。普段よりも小さな口に大きな瞳。着せ替えてしまえばいっそ少女といっても通るだろうという可愛らしさだ。
正直言って衝動的に抱きしめたいと思うのも仕方のないことだろうと思う。
「これじゃあ、かしらのことを守れねェだろ……」
しょんぼりとうなだれた少年をどうして放っておけようか。普段モモタロウ達にするように、小さな彼に近づいて頭を撫でる。
「大丈夫。きっとすぐに元に戻りますよ」
「ほんとか?」
「ほんとうです。きっと一時的なものでしょう。そうしたら格好いいシュテンに元通りになるよ」
どうやら肉体に精神が引っ張られているらしい。幼くなった姿は彼の内面を引っ張り、必要以上に不安にさせているようだ。
俯いたままシュテンドウジはこちらに抱き着いてくる。それを受け止めて撫でてやると、甘えたように顔を摺り寄せてきた。
「……格好いい、なぁ」
「?今、何か言った?」
「マジでもどれんのか、っていったんだ」
「大丈夫だって。私がついてるよ」
頭を撫でれば撫でるほど、抱き着く腕の力は強くなる。それでも少年の姿のせいか、こちらの胴体を鯖折りにすることはなかった。
「いや、ほんと正直引くんだけど。主さんやめといた方がいいよ」
その後やってきたモモタロウからはそう説得されたが、こんな不安そうなシュテンドウジを放っておくわけにはいかない。おそらく一血卍傑の秘儀が力に影響しているのだろうから、それを扱う独神である私が傍にいた方が良いだろうということで、一時的にこの幼いシュテンドウジを御伽番にすることにした。
御伽番といっても戦闘を行うわけではない。むしろ独神の周囲の小間使いと護衛が主だった仕事だ。ただ、護衛といっても御伽番だけが行うわけではないし、勝手に密かに侍っている忍は少なくない。なので、シュテンドウジが幼い姿であろうとも業務に支障は出ないのだ。
「かしらのいうことに従えねーのか?」
「君、ちょっと縮んだくせに偉そうなんだけど」
「あァ?!おれのほうがまだでけェだろ!」
「喧嘩しない喧嘩しない」
大きなシュテンドウジとモモタロウの喧嘩は、時々本当に殺し合いが始まるんじゃないかと心配になることがあるけれど、少年二人の喧嘩ならそこまで大事にはならないだろうという安心感がある。
雑な仲裁を受けて、小さなシュテンドウジはこちらを渡さない、と言わんばかりに腕に縋りついてくる。ン*ッ*と妙な声が出そうになったのを押さえ、シュテンドウジの頭を撫でてやる。この僅か一時でもはや癖になってしまっていた。
「主さんがどうしてもって言うなら僕はいいけどさ……。見た目に騙されない方がいいよ。そいつ鬼だから」
「大丈夫だよ。それにモモタロウには最近ずっと御伽番をやっててもらったし、そろそろ前線で暴れたい頃かなって」
「……否定はしないけどさ。まぁ主さんがそう言うなら。何かあったら他の人すぐ呼びなよね」
心配しすぎだよ。へらへらと私は笑って、モモタロウが執務室を出ていくのを見送った。それに心配すべきは私のことではなくシュテンドウジのことだろう。
「なーなーかしら、そんでおとぎばんってなにすんだ?」
「そうだなぁ……とりあえずお茶とか淹れてきてもらえると嬉しいんだけど、その姿だと外に出たくないか。一緒にいこうか」
「おう!」
こんな無邪気な少年が一体何を騙すというのだろう。モモタロウの助言はすぐに頭から抜け落ちてしまっていた。
「かしらぁ!ほら、取れたぞ!だいじにもっとけよ!」
「かいものか?いいぜ、おれがつきあってやるよ!」
いや、可愛いだろう。めちゃくちゃ可愛い。これが悪鬼って呼ばれてたなんて、私は信じられない。
できるだけ近くで生活した方が良いだろうということで、増設したばかりの八尋殿の隣室に布団を敷いてそこで寝起きさせることにした。
「かしらはいっしょに寝てくれねェの?」と袖を引かれたときはうっかり頷きかけたが、流石にだめだと耐え切った。幼いシュテンドウジは非常に可愛い。ちょっと普段より舌ったらずなところがあざと可愛い。強請られたらなんでも買ってあげたくなってしまう。
深夜、隣の部屋から呼ばれる声で目を覚ました。
声の元をたどり、襖を開けてみると、そこにはしょんぼりとしながら枕を抱いた幼いシュテンドウジが立っていた。
「その、なさけねェとはおもったんだが……。いっしょに寝ていいか?」
「えーっと……」
その言葉に一瞬、彼の元の姿が脳裏をよぎる。この天の御使いのような可愛らしさがどこかに消え失せ凶悪な顔で笑う、酒池肉林を望む悪鬼の姿。
「いやなゆめ、みちまってよ。このまま寝たくねェんだ」
枕を抱き締める力を強めた彼は、本当にただの少年にしか見えないのだ。そんないたいけな彼を無碍にして布団に送り返せと?
先ほど浮かんだ姿を警戒しようとする本能と、ただ幼い彼を慰めてやりたいという気持ちと、二つの気持ちがないまぜになり、天秤が揺れる。
「もとのおれに戻るゆめ、なんだけどな。めがさめたらおれはこのままだろ?……それが、こえェんだ。ゆめのなかでしか元のおれに戻れねェのかもな、って思うたびに、ふあんになんだよ」
でも、と彼は言葉を続ける。
「かしらが、手をつないでくれるなら、そんなの気にせずに休める気がしたんだ」
私の中でガタンと秤が傾く音がした。今のシュテンドウジはシュテンドウジだが、ただの少年だ。その少年を無碍にすることなんて私にはできない。
こんな少年にひどいことなんてできるわけがないだろう。なんと言ってもこんなに可愛らしいのだ。
「いいよ。いっしょに寝よう。おいで」
幼い彼を部屋に招き入れ、先ほどまで私が温まっていた布団の中に入れてやってから、自分も続いて布団に入る。元々大きめの布団だ。女一人と少年一人入ったくらいじゃどちらかがはじき出されることもない。
「大丈夫?眠れそう?」
「そりゃあな、よく眠れるに決まってる」
「そっかぁ。それは良かった」
さて手を繋いで眠るのだったか。目を閉じて、幼い小さな手を布団の中で探す。範囲が狭いのと、シュテンドウジもこちらの手を探していたのだろう。見つけるまでに時間は掛からなかった。
手と手がぶつかった時にふと疑問が浮かんだ。
……シュテンドウジの掌はこんなに大きかったか?
目を開けようとする前に、捕捉された手は繋ぐのではなく絡められた。いわゆる恋人繋ぎというやつである。それにしても明らかにおかしい。なぜなら、彼の掌はこちらと同じかそれより少し小さいかくらいだったはずだ。今触れている手はどう考えてみてもこちらの掌より大きく筋張っている、男の手だ。
「手ェ繋いで寝てくれんだろ?」
変声期の来ていない少年の声ではない。とっくの昔に声変わりを終えた男の声。
「な、なんで……?!」
「ここまで持ってくの結構大変だったぜ。おれに完全に骨抜きになってるくせに寝所にはいれねェとかな」
「いやいやいやいやいや、まって、あの、」
「頭の善意に漬け込むのはちょっとばかし胸が痛んだが、こうでもしなきゃ頭とこんなことできねェもんな」
繋がれた右手が敷布団に押し付けられ、シュテンドウジがこちらに覆いかぶさる。
「おれは妖族だぜ?これくらいの変化、普通にできるっつの」
幼子ではない男と女が褥に二人。これから先の展開は大人なら誰だって分かる。
「格好いいおれの顔、存分に堪能してくれていいぜ?」
私の上に圧し掛かる悪鬼に、幼く愛らしい少年の面影はちっとも残っていなかった。
5/5 こどもの日
※いろんな台詞バレがある
※若干やらしい
この本殿は私にとって、とてもすわりが悪い。
というのも何も知らなかった頃はよかったのだけれど、情緒の育成と共にだんだんと顔立ちの整った英傑達を意識するようになってしまって。
凛々しい彼らと二人きりで長時間過ごすなんてとんでもない。心臓がいくつあっても足りやしない。普段はどうにか独神としての体裁を保っているけれど、油断するとすぐぼろがでてしまう。
右を見ても左を見ても男前。気が休まるのは女性英傑と幼い姿をした英傑と一緒にいるときだろうか。
「なぁなぁ頭。たまにはおれに御伽番任せてみねェ?」
だから、こういうのは非常に困る。
腰に自然と腕を回しながら強請ってくるのは容姿端麗な鬼、シュテンドウジだ。
無理である。超絶に無理。何せ顔が良い。既に圧倒的な女性に群がられる雄という雰囲気が尋常ではない。
語彙力が失われつつある中、これ以上の被害を出さないように、彼の御尊顔を直視しないよう視線を逸らすのが私の最大限の抵抗である。
「いや、あの……」
「なんだよ。おれが嫌なのか?」
「そうじゃなくて、あの、落ち着かないというか……」
そろそろ顔から発火しそうだ。今まで何人もの気に入った相手を攫ったり口説いたりしてきたシュテンドウジがこちらの動揺した様子に気付かないわけがない。
「ちょっと、鬼のくせに主さんに近寄らないでもらえる?今日の御伽番は僕なんだけど」
「今、頭と話してんだよ。モモのガキは引っ込んでろ」
「へぇ、死にたいみたいだね」
売り言葉に買い言葉。喧嘩が優先されたのか、それともこっちが目的だったのか。ともかく私は解放され、ぴゃっとモモタロウの背後へと逃げ込んだ。
「よしよし。主さん怖かったね。大丈夫だよ。あんな鬼、僕がすぐ片付けるから」
「おい勝手に殺すな」
危うくシュテンドウジの前で顔が火だるまになるところだった。モモタロウの背にぺったりとくっつくと大変落ち着く。そう、男性はこれくらいの相手がちょうどいい。これ以上は駄目だ。心臓が潰される。
……そんな様子をシュテンドウジがじっと見ていたなんて、私は気付かなかったのだ。
「かしら、なぁ、これ、おれどうしたらいいんだ」
翌朝、執務室の扉を開けると、部屋の隅に布の塊がぽつんと増えていた。布の塊、というより頭から布を被った何かである。
その塊はこちらの姿を確認すると、恐る恐ると言った様子で布を外しはじめた。
頭という呼び方をする英傑は何人もいるがこんなに高い声をした者などいただろうか。そんなことを悩んでいると、ついにぱさりと布が落ち、隠れていた姿が露わになった。
尖った耳。控えめな角。藤色の髪。その姿は非常にシュテンドウジと共通点が多い。ただ一つ明確に違っている。
「えっ、えっ?」
私よりも二回りほど背の低い、ちょうどモモタロウと同じくらいの背格好をした、文字通り少年がそこにいた。
ただいただけならばきっと誰もがシュテンドウジの隠し子だと誤認しただろう。
「なんか、朝おきたらこんなことになっててよ……。おれ、もしかしてまた力が抜けたのか」
「本当にシュテン……だよ……ね?」
「おれいがいのだれに見えるっつーんだよ!かしらもはくじょーなやつだな!」
ぷりぷりと怒っていても普段の威圧感は欠片もない。なにせ完全に少年なのだ。それもモモタロウと同じか、あるいはそれよりも小柄な。
「いや、どうし……よう」
小さなシュテンドウジを見ていると、普段とは別の意味でなんだか落ち着かない。彼は可愛いのだ。いや、モモタロウもウシワカマルも可愛いと思うが、このシュテンドウジも可愛い。凶悪さの欠片もなく、ふくふくとした頬に大きくない掌。普段よりも小さな口に大きな瞳。着せ替えてしまえばいっそ少女といっても通るだろうという可愛らしさだ。
正直言って衝動的に抱きしめたいと思うのも仕方のないことだろうと思う。
「これじゃあ、かしらのことを守れねェだろ……」
しょんぼりとうなだれた少年をどうして放っておけようか。普段モモタロウ達にするように、小さな彼に近づいて頭を撫でる。
「大丈夫。きっとすぐに元に戻りますよ」
「ほんとか?」
「ほんとうです。きっと一時的なものでしょう。そうしたら格好いいシュテンに元通りになるよ」
どうやら肉体に精神が引っ張られているらしい。幼くなった姿は彼の内面を引っ張り、必要以上に不安にさせているようだ。
俯いたままシュテンドウジはこちらに抱き着いてくる。それを受け止めて撫でてやると、甘えたように顔を摺り寄せてきた。
「……格好いい、なぁ」
「?今、何か言った?」
「マジでもどれんのか、っていったんだ」
「大丈夫だって。私がついてるよ」
頭を撫でれば撫でるほど、抱き着く腕の力は強くなる。それでも少年の姿のせいか、こちらの胴体を鯖折りにすることはなかった。
「いや、ほんと正直引くんだけど。主さんやめといた方がいいよ」
その後やってきたモモタロウからはそう説得されたが、こんな不安そうなシュテンドウジを放っておくわけにはいかない。おそらく一血卍傑の秘儀が力に影響しているのだろうから、それを扱う独神である私が傍にいた方が良いだろうということで、一時的にこの幼いシュテンドウジを御伽番にすることにした。
御伽番といっても戦闘を行うわけではない。むしろ独神の周囲の小間使いと護衛が主だった仕事だ。ただ、護衛といっても御伽番だけが行うわけではないし、勝手に密かに侍っている忍は少なくない。なので、シュテンドウジが幼い姿であろうとも業務に支障は出ないのだ。
「かしらのいうことに従えねーのか?」
「君、ちょっと縮んだくせに偉そうなんだけど」
「あァ?!おれのほうがまだでけェだろ!」
「喧嘩しない喧嘩しない」
大きなシュテンドウジとモモタロウの喧嘩は、時々本当に殺し合いが始まるんじゃないかと心配になることがあるけれど、少年二人の喧嘩ならそこまで大事にはならないだろうという安心感がある。
雑な仲裁を受けて、小さなシュテンドウジはこちらを渡さない、と言わんばかりに腕に縋りついてくる。ン*ッ*と妙な声が出そうになったのを押さえ、シュテンドウジの頭を撫でてやる。この僅か一時でもはや癖になってしまっていた。
「主さんがどうしてもって言うなら僕はいいけどさ……。見た目に騙されない方がいいよ。そいつ鬼だから」
「大丈夫だよ。それにモモタロウには最近ずっと御伽番をやっててもらったし、そろそろ前線で暴れたい頃かなって」
「……否定はしないけどさ。まぁ主さんがそう言うなら。何かあったら他の人すぐ呼びなよね」
心配しすぎだよ。へらへらと私は笑って、モモタロウが執務室を出ていくのを見送った。それに心配すべきは私のことではなくシュテンドウジのことだろう。
「なーなーかしら、そんでおとぎばんってなにすんだ?」
「そうだなぁ……とりあえずお茶とか淹れてきてもらえると嬉しいんだけど、その姿だと外に出たくないか。一緒にいこうか」
「おう!」
こんな無邪気な少年が一体何を騙すというのだろう。モモタロウの助言はすぐに頭から抜け落ちてしまっていた。
「かしらぁ!ほら、取れたぞ!だいじにもっとけよ!」
「かいものか?いいぜ、おれがつきあってやるよ!」
いや、可愛いだろう。めちゃくちゃ可愛い。これが悪鬼って呼ばれてたなんて、私は信じられない。
できるだけ近くで生活した方が良いだろうということで、増設したばかりの八尋殿の隣室に布団を敷いてそこで寝起きさせることにした。
「かしらはいっしょに寝てくれねェの?」と袖を引かれたときはうっかり頷きかけたが、流石にだめだと耐え切った。幼いシュテンドウジは非常に可愛い。ちょっと普段より舌ったらずなところがあざと可愛い。強請られたらなんでも買ってあげたくなってしまう。
深夜、隣の部屋から呼ばれる声で目を覚ました。
声の元をたどり、襖を開けてみると、そこにはしょんぼりとしながら枕を抱いた幼いシュテンドウジが立っていた。
「その、なさけねェとはおもったんだが……。いっしょに寝ていいか?」
「えーっと……」
その言葉に一瞬、彼の元の姿が脳裏をよぎる。この天の御使いのような可愛らしさがどこかに消え失せ凶悪な顔で笑う、酒池肉林を望む悪鬼の姿。
「いやなゆめ、みちまってよ。このまま寝たくねェんだ」
枕を抱き締める力を強めた彼は、本当にただの少年にしか見えないのだ。そんないたいけな彼を無碍にして布団に送り返せと?
先ほど浮かんだ姿を警戒しようとする本能と、ただ幼い彼を慰めてやりたいという気持ちと、二つの気持ちがないまぜになり、天秤が揺れる。
「もとのおれに戻るゆめ、なんだけどな。めがさめたらおれはこのままだろ?……それが、こえェんだ。ゆめのなかでしか元のおれに戻れねェのかもな、って思うたびに、ふあんになんだよ」
でも、と彼は言葉を続ける。
「かしらが、手をつないでくれるなら、そんなの気にせずに休める気がしたんだ」
私の中でガタンと秤が傾く音がした。今のシュテンドウジはシュテンドウジだが、ただの少年だ。その少年を無碍にすることなんて私にはできない。
こんな少年にひどいことなんてできるわけがないだろう。なんと言ってもこんなに可愛らしいのだ。
「いいよ。いっしょに寝よう。おいで」
幼い彼を部屋に招き入れ、先ほどまで私が温まっていた布団の中に入れてやってから、自分も続いて布団に入る。元々大きめの布団だ。女一人と少年一人入ったくらいじゃどちらかがはじき出されることもない。
「大丈夫?眠れそう?」
「そりゃあな、よく眠れるに決まってる」
「そっかぁ。それは良かった」
さて手を繋いで眠るのだったか。目を閉じて、幼い小さな手を布団の中で探す。範囲が狭いのと、シュテンドウジもこちらの手を探していたのだろう。見つけるまでに時間は掛からなかった。
手と手がぶつかった時にふと疑問が浮かんだ。
……シュテンドウジの掌はこんなに大きかったか?
目を開けようとする前に、捕捉された手は繋ぐのではなく絡められた。いわゆる恋人繋ぎというやつである。それにしても明らかにおかしい。なぜなら、彼の掌はこちらと同じかそれより少し小さいかくらいだったはずだ。今触れている手はどう考えてみてもこちらの掌より大きく筋張っている、男の手だ。
「手ェ繋いで寝てくれんだろ?」
変声期の来ていない少年の声ではない。とっくの昔に声変わりを終えた男の声。
「な、なんで……?!」
「ここまで持ってくの結構大変だったぜ。おれに完全に骨抜きになってるくせに寝所にはいれねェとかな」
「いやいやいやいやいや、まって、あの、」
「頭の善意に漬け込むのはちょっとばかし胸が痛んだが、こうでもしなきゃ頭とこんなことできねェもんな」
繋がれた右手が敷布団に押し付けられ、シュテンドウジがこちらに覆いかぶさる。
「おれは妖族だぜ?これくらいの変化、普通にできるっつの」
幼子ではない男と女が褥に二人。これから先の展開は大人なら誰だって分かる。
「格好いいおれの顔、存分に堪能してくれていいぜ?」
私の上に圧し掛かる悪鬼に、幼く愛らしい少年の面影はちっとも残っていなかった。
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