※捏造が凄い
※よく分からない物体が出てきて喋る



念話できる相手というのは、実はカァくんだけではない。
カァくんにも言ってはいなかったが、もう一人重要な相手と連絡を取ることが出来るのだ。

「いやー。頑張ったね!おつかれさま!八百万界救われちゃった!」

そんなノリの軽すぎる言葉が直接脳内に響いてくるのだから迷惑だ。
文字通り脳味噌に響いて仕方ない。

「というわけでそろそろ退去の準備してね」
「展開が早いんですが」
「いや、でも元々異物だからさー。しょうがないね?」
「分かりますけれども」

今会話をしている相手が誰か、と言えば何を隠そう八百万界の意思ご本人だ。
私の魂をここではない場所から引っ張ってきて、ついでに器と不思議な力を添えて、この世界を救ってね!と丸投げしやがった畜生である。三分調理ではないんだぞ。
初交信の時は「お願いだ……。僕を助けてほしい……」と儚げな様子だったのが今ではこの通り恐ろしく元気だ。

「あっ、そうだ。君とずっと一緒にいた英傑いるでしょう?」
「はい、はい。あの、あんまり話してると他の皆に不審がられるんだけど」

「今回のお礼として一人くらいなら持って帰っていいよ」

「はい?!!?」

そんなお土産か何かみたいに言うんじゃない。やはりこの意思畜生だ。一回死なせて世代交代させた方がよかったのではないのだろうかと思うが、重要なのはそこではない。

「いや、だって、仮にも英傑でしょ?そんな存在がいなくなったら……」
「いなくならないよ?原本はこっちで保管してあるからね。じゃなかったら本殿に複数同じ英傑がいるわけないだろう?一血卍傑の秘儀は血を元に、原本を利用して刷っている、ってわけなんだ」
「な、るほど?」
「つまり彼らは量産型だからいなくても問題はない、って話なんだよね。必要になったら今度は僕が産み落とせばいいだけだし」
「言ってることが最悪では?」

やはり生き物と世界では視点が違うのだろうとは思うが、それにしても自分を救った英傑に対しての扱いが軽すぎやしないだろうか。

「ほら、独神って一応神って入ってるし神隠しってやつ?」
「何言ってんだおまえ……」
「仮にも上司に酷いなぁ」

でも、と畜生は言葉を続ける。いい加減こいつとの話をやめて休むなりなんなりをしたい。癒されたい。

「英傑の皆、顔も整ってるし魅力的じゃない?しかも君のこと大好きだし。気になる子の一人や二人や三人くらいいるでしょ」
「話はここまでだ!!」

一方的に念話を切って、会話をなかったことにする。
人権無視の誘拐とかできる訳ないに決まってる。というか犯罪行為を推奨するんじゃない。一人で蹲って奇声をあげながら転がる。
気になる子の独りくらいいる?あたりまえなんだよなぁ……。


「神隠しとか絶対するわけないだろ!!バカ!!!!」


それでも、相手をこの世界から攫って行くなんてことできるがないのだ。そんな勇気があったらとっくの昔に告白なりなんなりできてるよ。







「そういえば噂ってマジなのか?」
「え?噂?」

それとなく執務室を片付けていると、シュテンドウジがそう切り出した。
話を聞くために彼の淹れてくれた茶に口をつける。執務や雑務処理の合間に彼の淹れてくれた茶を飲むのはもう珍しいことではなかった。

「頭が英傑の誰かと一緒にどっか行っちまうって話」
「ウェッ!?ゴホッ……ちょ、ちょっと待って……。気管に入った」
「その反応ってことはマジかよ」
「ちょっと待って……。本当に待って……」

咽こんでいる私をしり目に、シュテンドウジは何か納得したように頷いている。私の心配をして欲しい。鬼か。鬼だった。

「いや、違うよ?そういうんじゃなくて」
「誰にするつもりなんだ?」
「待って。話を聞いてほしい」

具体的なことは分からないが、どうやら妙な噂が本殿の蔓延していたらしい。シュテンドウジの中では既に私が誰かと一緒にどこかに消えることは確定路線のようだ。

「まぁ、えっと、その、私の仕事は終わって、八百万界から退去しないといけないっていうのは事実なんだけど、誰かを連れていくつもりは……」
「連れていくつもりは、って言うならやろうと思えば連れていけるってことか?」
「アッ!」

失言だ。だけど本当に連れていくつもりはないのだ。湯呑を持った手がガタガタと震えるが、今のところ止める手段を思いつかない。

「た、確かにね。あの、英傑一人くらいなら持って帰っていいよってあの畜生に言われたけどね?でもそんなことよくないじゃない。人権無視はよくないよ。本人の意思とか全然聞いてないし」
「聞いてないってことは誰かも決めてんのか」
「アアッ!!!いや違うよ?!本当にそんなつもりないよ!?」

墓穴に墓穴を重ねていく。お茶でも飲んで落ち着きたくても飲もうとしたらまた咽る未来しか見えない。どうすればいいんだこの状況。
こちらを問いただすシュテンドウジの態度は普段の粗暴さの欠片もなく、ちゃぶ台に肘をつきながら、淡々とした調子でこちらを追求していく。そこに普段バカだのアホだの脳味噌筋肉だの言われる彼はいない。

「いや、そもそもね、連れて行ってもいいよとは言われたけど、別に絶対に連れて行かないといけないってわけじゃないと思うし……」
「ふぅん?」
「もしも絶対に誰か、ってなったらカァくんじゃないかな……」

一番無難な選択肢がこれだろう。次点はもうない。英傑の誰かを選ぶということは誰かを選ばないということであるので大体揉めるからだ。

「おれじゃねェの?」

小刻みに震えていた手が止まった。今シュテンドウジは何て言った?どういう意味?文字通り停止し、彼の言葉を理解しようとする。『おれじゃねェの?』おれじゃない。おれってシュテンドウジのことだよな。じゃないってどういう繋がりだ?

「……えっ?」
「お、れ、じゃ、ね、ェ、の、か!って聞いてんだよ」

動揺して湯飲みを落として割る前に、最後の理性でちゃぶ台へと置いた。お茶も零していない。よく頑張った自分。
正直言って逃げ出したいが今この状況で逃走は許されないだろう。シュテンドウジはこちらをじっと見つめながら返答を待っている。

「いやだってお酒沢山飲むならこのまま八百万界にいた方がいいし」
「で?」

「強気で美人な子とか用意できないし、多分とても退屈なんじゃないかなって」
「で??」

「いや、あの……ごめんなさい……」
「で???」

謝っても何をしてもシュテンドウジが追及を止めることはない。一体何を言えば彼は満足してくれるのか。そう考えて残った選択肢を考える。いや、だって、でも。

「お、お持ち帰りされてくれたり、する?」

動揺しきった頭ではろくな言葉が出てこない。考え付く限り二番目くらいには最悪な表現で、私はシュテンドウジに告白をする。
いや待って欲しい。本当にそんなつもりは無かったのだ。
なーんてね!冗談だよ!と続けようとすると、シュテンドウジの腕がこちらの頬を抓った。

「ようやく言ったかよ。そもそも頭が誰かひとり選ぶなら、当然おれだろ?」

ふ、と優しく緩められた表情は、私が陥落させられたそれで、冗談だとかそんな言葉は地平線の彼方へと消え去った。


「言ったろ?最後まで連れてってくれ、ってよ」


そんなことはしないという鋼の意思も、好きな相手の前では無力なのだ。


10/22 テイクアウト