私には、大切な人がいる。
 自分の人生をすべて捧げてもいいと、本気で思える人。そんな人に出会えただけでも、感謝しなくてはならないんだと思う。でも人間っていう生き物は、どこまでも強欲で、私もまた、その強欲でみにくい人間なのだ。



『ほんとにごめん』
「いいよ、そんな気にしないで。私だってこの前同じ理由でドタキャンしちゃったんだし」
『いや、ほんとマジでごめん…。瑞希のことだからもう店着いてるんだろ? 今度絶対この埋め合わせはするから』
「ありがとう。潤も仕事、頑張って」

 別に物分かりのいい彼女を演じているわけではない。潤も私にも、胸を張って誇れる仕事があるし、出会った時からお互いに大切にしてきたものだから。私だって、同じような理由で潤との約束を反故にしてきたことだってあったから。
 「店の前に、19時に集合な。遅れんなよ」私が行きたいとわがままを言った店で、久しぶりにゆっくり話せると思った。柄にもなく、スカートをはいてみたり、少しメイクを変えてみたり、きっと浮かれすぎていたんだと思う。薄暗い店内のガラス壁には、そんな空回りした私が映っていて、思わず目をそらした。

「……冴木、さん?」
「え、」