※よく分からなくなったよーん

好きだと気づいたのは何時だったか。中学になってしっかりと初めて会った真梨、ぐいぐい距離を詰めてくる割にはしっかりと線引きをし、深入りしてこないその性格をすぐに好ましく思った。
真梨は、割と人気だ。不二みたいに表立って好ましく思う人間がいる訳では無いが確かに好意を持っているんだろう、という感情で真梨を見る目を何度も見た。

「京極さん、ちょっといい?」
「ん、はいよ」

無意識で真梨を目で追う、自分の行動に気づき何事も無かったかのように手元の本へ目線を戻す。……が、気になるのは人間の性だろう。こんなに騒がしい教室の中でも真梨の声を、耳は探してしまっていた。
やめよう、このまま教室にいると嫌でも視界に、耳に入ってきてしまう。少し気分転換に、と足早に教室を出た。

「あれ、珍しいね手塚」
「気分転換だ」

たまたま廊下で不二と大和田を見かけた、不二はこちらに話しかけてくるが大和田は軽く一礼をしていた。

「京極さんは?」
「……何か呼び出されていたが、どうした?」
「いつも手塚くんと真梨ちゃんは一緒に居るイメージあるから、かな」

無意識に腕を組む、この醜い感情を不二に悟られたくは無い。
食えない笑顔、と言った様な表情をする不二に内心でため息をつく。

「……幼なじみとは、一体どういう存在なんだ」
「ええ、それ手塚が聞くの?」
「真梨ちゃんと手塚くんは幼なじみだなぁ、って思うくらい仲良いけど……」
「大人になっても連絡が途絶えてもふとした瞬間に連絡が取れたり遊んだりできる関係性の事じゃない?……なんて適当だけどね」

連絡が途絶えても、という言葉に引っかかる。今現在は何らかで毎日他愛のないやり取りをしているがそれが無くなる、ということになる。
軽く息を吐き眼鏡の位置を直す、脳内を整理しなければ。

「試しに聞くが、不二は……自分の手元から離れるのを許せるのか?」

少し小声で不二に聞けば大和田に聞こえないように耳打ちで返してくる不二。

「…………そうならない為に閉じ込めておくのも手だと思うんだよね」
「何の話してるの?」
「なんでもないよ、ねっ手塚」
「……あ、あぁ」

予鈴のチャイムが鳴る、もうそんな時間かと不二と大和田と別れ教室に戻れば同タイミングで教室から出てこようとする真梨と軽くぶつかった。

「あ、国光」
「予鈴は鳴っているぞ」
「国光探しに行こうとしてたから大丈夫」
「そうか」

無性に、真梨の手を取りたくなった。がここは教室だ。そんなことをしてみろ、真梨は普通に対応するだろうがクラスメイトはそうはいかない。

「予習は済んでいるか?」
「ゥーン…………」
「……助けないぞ」
「なんとかなる、そう感じているよ」


***


「真梨、待たせた」

テニス部のミーティングが終わった後、共に帰る約束をしていた真梨を迎えに教室へと歩みを進めれば物音が無い。声を掛けつつ扉を開ければ机に伏せている真梨の姿が目に入る。
酷く無防備だ、髪に手を通せば指の間をするりと抜ける真梨の髪。ふわりと香るその匂いは俺の家とは違う。

「ッ!……なーんだ国光か」
「急に起きるな、ぶつかる所だったぞ」

真梨が急に顔を上げたので危うくぶつかりかけた、顔を上げた真梨と俺の距離は正しく目と鼻の先ほどの近さ。
寝起きの真梨の目は少し潤んでいて、俺は咄嗟に顔を逸らした。

「帰るぞ」
「うん、よく寝た」
「眠れなくなるんじゃないのか」
「それはそれよ」

真梨の荷物を先に持ち、座っている真梨へ手を差し伸べる。躊躇いもなく真梨はその手を取り椅子から立ち上がった。
弓道をして少し硬くなった真梨の手のひら、俺の手と比べれば一回り以上小さい。
そんなことを考えているとするり、と俺の手から抜ける真梨の手。なんだか名残惜しさを感じつつも気にしない振りをした。

「そういえばさ、国光って告白とかされたことあるでしょ?」
「……何故前提としてされている、なんだ」
「無いわけ無いと思って」
「あまり覚えてはいない、興味が無いからな」
「ストイックだなぁ」

ちらりと見えた真梨の下駄箱に今どきあまり見ない手紙が置いてあったのが見える。
何も気にしていない真梨はそのまま手紙を鞄の中に仕舞い靴を履いていた。

「国光?」
「……その手紙は、恋文か?」
「え?わかんない……読む?良いよ」
「お前……」

どうぞ、と渡してきた手紙を反射で受け取るがこれは差出人を無下にする行為だ。

「俺が先に読むことは出来ない」
「じゃあ先に私読むね、帰りながら読も」

手紙を読みながら歩く真梨を一歩後ろから見つめる、何だこの状況は。

「真梨」

前から来る自転車に気づいていない様子の真梨を抱き寄せる、自転車が通り過ぎたことを確認して抱いていた肩から手を離せばバチリ、と真梨と目が合った。

「国光、モテムーブが過ぎるよ」
「真梨が前を見ていなかったからな」
「ところで見てこれ、告白でした!でも私知らない人なんだよね……」

肩を離したのにも関わらず俺の腕の中で手紙を見せてくる真梨に少し、ムカつきを覚えた。俺がどういう気持ちで接しているのか、とかも分かっていないんだろう。

「受けるのか」
「うーん、友達からでもいいけどね、知らないしなぁ」
「……断れ」

今俺は何を言った?慌てて口元に手をやると面白そうに笑う真梨が居た。

「国光がそういうならそうしようかな」
「面白がっているだろう」
「そんなことないよ、国光の新たな一面を見れた気がしたけど」

手紙を仕舞い、俺から少し離れる真梨。
……俺は真梨の手のひらで踊らされているのだろうか。



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