「信介」
「……どないしたん」
「なんも、信介の顔みたくなったから来ちゃった」
大学で忙しい真梨が急にやってきた。
田畑の様子見てたら珍しく人おるなぁ、思て見たら真梨。目飛び出るかと思ったわ。
「顔、疲れとる」
「分かる?」
「ん、どんくらい居るん」
「明日には帰る、泊まっていい?」
「ええよ。俺もそろそろ切り上げよ思てたからな、一緒に帰ろか」
真梨の申し訳なさそうに笑う顔、疲れとる。
目に掛る真梨の前髪を軽く触ればぎゅ、と抱きついてきた。
「……信介汗臭い」
「当たり前やろ」
「でも落ち着く」
「家帰ったらくっついとったらええよ」
「あー、ホントダメになる」
真梨の髪の毛の香りが鼻孔を擽る。……正直、そういう気持ちになるから勘弁して欲しい、疲れた真梨相手に強請るほど俺はイカれとらん。
「真梨」
「ん」
「しんどくなったらいつでも帰ってきてええねん、電話だっていつでも。真梨がしんどいのを知らん方が俺はしんどいわ」
「……うん」
ず、と鼻の音が聞こえる。真梨が泣くなんてほぼほぼ見たことない、やからホンマにしんどいんやなと背中を軽く撫でた。
「……学校の課題もそうなんだけど、バイト先も人手足りなくてシフト出れるだけ出て〜みたいになってて疲れちゃったんだよね」
「真梨はこなせるからな、一気にしんどなるやろ」
「やっぱ神戸大学にしとけばよかったかな、信介とすぐ会えるし」
「せやから俺言うたやん、寂しいって」
***
「ゆみちゃん」
「あら真梨ちゃんやないの!……お顔疲れとるよ、ちゃんと寝とる?」
「ゆみちゃん〜」
「ゆっくりしてき、ご飯食べよか?」
「食べる……」
家に行くなりばあちゃんに抱きつく真梨、ばあちゃんも真梨のこと気に入っとるしもう孫として扱っとる。
「先お風呂入る?ご飯これからやから時間かかるで」
「信介先お風呂入っていいよ」
「あー……一緒に入るか?」
ぱちくり、とした表現が適切やと思う。多分真梨は俺が汗かいとるからと思って言ったんやろうけど。
「一緒に入ってき、ばあちゃんご飯作っとるからね。ゆっくり疲れとるんよ」
「ゆみちゃん……」
「ほな着替え取りいこか、置いてあったよな?」
「あるはず」
笑いながら真梨の頬を包むばあちゃん。風呂やばあちゃんの部屋があるのは母屋やけど、俺の部屋は離れにある。
「信介とお風呂久々だね」
「入浴剤選んでええよ」
「え〜どうしようかな〜」
「粉のしかあらへんけどな」
「それがいいんじゃん、あそうだ」
「ん」
「エッチする?」
頭を抱えた。普通に今日何食べる?みたいなノリで聞くことなんか?これ。まだ俺ら20ちょいやで……と思っとっても相手真梨やしな、と自分を納得させた。
「そら、したいけども。真梨疲れとるし、無理させた無い」
「私もしたい、けど信介朝早いしと思って無しでも」
「……まだ17時やから、ええやろ」
「お風呂上がってご飯食べたらね、わーい!久々〜!」
「なんや調子狂うわ……」
ばあちゃんに「風呂入ってくる」と声をかける。
脱衣所で久々に見た真梨の体は痩せたと思った。
「痩せたな」
「やっぱり?めんどくさくてご飯食べなくてさ……」
「あかんよ、食事は基本や」
「だよね……。信介はまた焼けたね」
「日焼け止め塗っても意味あらへんもんな」
真梨は先に体を流して湯船に、俺が先に洗うことになった。はぁ〜、と息を吐きながらお湯に浸かる真梨を見て良かった、と内心ほっとした。
真梨はぷつり、と切れるともうやめた!と言わんばかりになんもせんことがある。前にも1回あったけどな、連絡もよこさんし心配した。
「改めて見るとさぁ」
「ん」
「バレーとはまた違う筋肉付いてるよね」
「そらなぁ。肉体労働やし」
「一方私は衰えたよ、ヨヨヨ……」
「卒業したら嫌でも付くで」
「そうだった」
交代、と真梨が湯船から出る。入れ替わりで俺が湯船に入って真梨を見守る番になった。
「髪切りたい」
「長なったな」
「信介くらいになろうかな」
「似合いそうやな、でも真梨は寝癖凄なるで」
「あぁ……そうなんだよね……」
ザバ、と頭からお湯を被る真梨。髪の毛は背中のところまで伸びとった。髪をゴムでまとめると「詰めて」と湯船に入ってくる。家の湯船は2人で入るにはちと狭い、けど丁度ええねん。
「真梨、好きやで」
「なに急に」
「言いたなった」
「そういう時ある、私も好きだよ」
「両想いやん」
「そうだよ、初めて知った?」
「いや、知っとった」
「そりゃそう」
にぎにぎ、と真梨と手を包む。手も荒れとるな、剥くな言うたのにささくれとかも剥いとる。
と真剣に真梨の手見とったら頬に真梨の唇が落ちた。
「隙あり」
「……そんなことすんのやったら食うぞ」
「無理のぼせる」
そっちからしといて、と思って真梨の顔をこちらに向けさせキスをする。久々の、2ヶ月くらいぶりのキスはちょっと、止まらんかった。
「のぼせる、いった」
「すまん」
「ゆみちゃん、お水貰っていい?」
「あら顔真っ赤やないの、信ちゃんも飲み」
2人してのぼせる、なんてガキみたいや。冷えた水を一気飲みした。
「信ちゃんお酒飲む?」
「あー、どないしよ。真梨は?」
「飲もうかな〜、しばらく飲んでなかったけど」
酒、俺もあんま飲まへん。車運転すること多いし、次の日に残ったら嫌やし。
「真梨が飲むんやったらちょっと飲むわ」
「信介日本酒とか好きじゃん、飲まんの?」
「あんな」
酒飲み過ぎて勃たんくなったら、困るやろ。と真梨の耳元で言う。
眉間にしわ寄せてこっちを見てくる真梨に思わず笑い声が出る。
「そんなもん願い下げなんだけど」
「言うたな?」
「うそうそごめんごめんなんでもないよ〜!ね!ゆみちゃん!」
「なんや真梨ちゃん、また信ちゃん怒らせたん?」
「濡れ衣だって!」
***
ごはんをたらふく食べ、後片付けもする。ばあちゃんは風呂入る言うてたから俺ら2人で片付け担当や。
「そういえば治、今年専門卒業すんねやろ」
「え。もう?……でもそっか、私3年だしそうかぁ……早いなぁ!」
「卒業式、見に行くか?」
「いいじゃん。行こ」
「練とかも誘ったるか」
「涼香ちゃんも誘っていい?あ、でもそうなると侑来るか」
「黙っとったらええんちゃう」
「そうだね」
なんてそんな話しとったら皿洗いも終わって一息。
ビール1杯だけ飲んだけど、なんも変わらん。真梨は500の缶2本空けとるからちょっと頬赤なっとるけど。
「眠たくなってきちゃった」
「このまま寝るか?」
「エッチする……」
「半分寝とるやん」
座布団に隣あって座っとったらずるずる、と真梨の頭が下がる。しまいには俺の膝の上に頭を預け「眠い」と宣うんやから、笑った。
「ばあちゃん寝たら、すぐしよか」
「……信介のすけべ」
「真梨限定な」
「バレなきゃJAとかの若い子に手つけてもいいよ」
「怒るで、というか怒っとる。真梨しか見とらんのに。真梨やって大学のやつとそないな事になとらんよな?言うたもんな、俺」
「呼吸して息継ぎ無かったよ。一切無いから安心して、友達もほぼおらんよ。悲しいことに」
はは、と声上げて笑う真梨の頬を指先で撫でる。
実際、真梨は実習やらバイトやらで忙しいん分かる。けどな、真梨のことが好き言う男がおらん、って言いきれんやろ。はー、心狭くてすまん。
「信ちゃん、ばあちゃん寝るけど、ここ任せてええ?」
「おん、真梨もうとうとしとるしもう寝るわ」
「真梨ちゃんもようけ寝るんやで」
「うん〜……ゆみちゃんもおやすみ」
「おやすみね」
現在時刻20時前、このままやと真梨はしっかり寝てしまいそうや。
「真梨」
「……おきる、おきるよ」
「そない無理せんでもええんちゃうの」
「私が2ヶ月ぶりの信介キメたいと思っちゃだめなの」
「言い方もっとあるやろ」
「信介」
体を起こす真梨、ちょっとムッとした顔しとる。
前から俺を抱きしめて来た真梨、俺と同じ匂いがする。あー、無理や、耐えられん。と思っとったらすぐ目の前に顔。
「ッ」
「キスしました」
「事後報告、やねんそれ。……はぁ、ヤりたい、ええか?」
「んふふふ、信介からのド直球ワード大好きなんだよね」
母屋の戸締りをして俺の部屋がある離れへと歩く。少し触れる外気に息を吐く。
「信介、あのさ」
「どないした?」
わーい!お布団!と言わんばかりに畳まれた布団にダイブした真梨がぽつり、と口開いた。
「卒業したら結婚せん?」
「…………そ、それは、俺が言うんちゃうんか……?」
「なんかふと思った。結婚しても信介との関係は変わらなさそうだけど」
「ええの?ほんなら婚約させるで」
「なんの脅し?まぁ、考えといてよ」
「せやから俺のセリフやねん」
寝転んでる真梨に覆いかぶさってキスをする。
結婚、というワードを聞いた時は柄にもなく動揺した。 流石に結婚、を全く考えてない訳でもないけど、こう、ムードとかあるんちゃうかなって思うわ。
***
朝や、と体内時計が言う。昨日は結局日を跨ぐギリギリまでしてもうた、まだ若いんやな俺。
「ん〜……」
「もう少し寝ててええよ」
「……起きる」
下着しか身につけとらん真梨が起きる。流石にその格好は少し冷えるんか「寒」と零しとった。
俺も下着しか付けとらんかったけど、すぐ着替えるしな、と服を手に取り身につけた。
「そのさ、インナーってエロいよね」
「……これか?」
「うん、見るのも着るのも好きなんだよね」
所謂スポーツインナーと呼ばれるぴっちりしとるやつ。真梨もTシャツを着ながらそんなことを言っとった。
「なんやすけべやな」
「正直野球部とかのえろいなって見てた」
「は?」
「怖い、冗談やん」
「俺の幾らでも見たってええから」
「朝からありがと」
ちょっと青筋は出た、気がする。高校の時はこんな独占欲なかったはずなんやけど。
母屋で飯食うために離れを出る、……ふと、夜には真梨は帰るんか、と思い帰らせたないなぁ……。といつの間にか口に出てたらしく隣にいた真梨に「私も」と返された。