「昔さ、お世話になった駐在さんがいたんだよね。涼香ちゃんの言葉を借りたら、憧れたからだね」
そう言いながら思い出す、名前はあんまり覚えてないけれど。
「……よく、ふらっと迷子になってた私の事探してくれた気のいいおじさんだよ。あー……、今思えばあれって初恋だったのかもね」
名前はあまり覚えてないけれどね、と口の中で言葉を紡ぐ。
涼香ちゃんだけかと思っていたが景光も居たらしい。よ、と軽く手を振る。
「ちょっと待って。ヤニ吸ってくる」
ポケットのどこに入れたっけな、と叩きながら喫煙所へと足を進める。あったあった、……そろそろ煙草無くなりそうだな、外出た時にでも買っておくかぁ、とぼんやり考えながら喫煙所で煙草に火をつけた。
駐在のおじさん、おじさんなんていう年齢では無いのだろうと今思う。いって30代、若くて20後半辺りだったんだろうなと煙を吐いた。
『お前また迷子になってたのか!』
『迷子じゃないよ、散歩してた』
『それを迷子と言うんだ!』
『あのね、お友達出来たんだ。みっちゃんって言うらしい』
『ほー、少しは真梨も大人しくなるかな?』
『おとなしいよ』
『嘘こけ!』
私に対しても露骨な子供扱いをせずに向き合ってくれていたおじさん。朧気に覚えているのは顎に髭を生やしていたことくらいだろうか、人によっては無精髭とも捉えられそうな髭。
「よーっす、考え事?」
「思い出してる、記憶を」
「相変わらずなにいってんのかわかんねえな」
「ごめんな、私が崇高な考えを持つばかりに」
「殴られたいならそう言えよ」
「陣平ちゃんも買うなって!京極ちゃんも煽んな!」
ヤンキーみたいに入ってきた萩原と松田。ケッ、と言いながら煙草を銜えて火をつける松田を横目に考え事に戻る。
小学3年生くらいまで居た群馬、東京に来てからは親戚の集まりでしか行かなくなってしまった。
「そういえばさ、京極ちゃん何吸ってんの?」
「ん」
「へえ、セブンスターなんだ。……あれ?前キャメルじゃなかった?」
「あんまこだわり無い、けとメンソは苦手。あとタール重いのがいい」
「たまに重いの吸うと重て〜!ってなるんだよな、1本くれよ」
「松田なんだっけ」
「マイルドセブン」
「等価交換やぞ」
丁度いい、1本目が終わる。
松田から強奪した煙草に火をつける。……うーん、好きでも嫌いでもない感じの煙草。
「やっぱいつものやつの方がいいな」
「なんかしっくり来ないって感じ」
「俺もたまにハギの吸うと違ぇなってなるしな」
「俺のメンソだしね」
「メンソなん?うわ」
「なになに〜?嫌なの?」
「チャラい男が吸うやつでしょ、メンソ」
「ブハッ」
「陣平ちゃん〜!」
お先、と2人を残して喫煙所を去る。
そういえば駐在さんが初恋だったけれど、その後に付き合った人は似て非なる感じだったな。
まぁ、あっちから懇願されてめんどくさかったから付き合ったのに「なんか違う」とフラれ意味がわからなかった高校生だけれど。
漠然と家庭を持つ、とか考えてもめんどくさいな。という気持ちが勝る。見てる方が楽しいしね。
「よーっす、何?この空気」
「真梨ちゃんのせいだからね……」
涼香ちゃんのところに戻れば暗い雰囲気。
何かわからないけど沈んでいる景光と、つられて暗い雰囲気になっている涼香ちゃん。
よいせ、と景光の隣に座れば「えっ」と言われたから「え、誰かの席だった?」と聞けば「い、いや……」と濁されてしまった。
「真梨ちゃんの初恋ってワードが気になって」
「待ってその話ずっとしてたの?面白いね」
「他人事すぎる」
「……その、初恋の人ってどんな人だったの?」
「あんまりもう覚えてないんだよね、良い人だったってことしか。あと髭かな」
「髭?」
「髭、ここからこう生えててね。結構それが好きだったよ」
自分の顎を撫でる。じっと見てくる景光に首を傾げつつもそのままスルーしておいた。
「ええ、真梨ちゃんは髭好きなタイプ?」
「……まぁ……」
「この反応、結構好きと見た」
「良くない?髭。カッコイイじゃん」
「もじゃもじゃでも?」
「それはハグリッドか仙人でしょ」
ケタケタ笑いながら涼香ちゃんを見やる。
涼香ちゃんのタイプは露骨に萩原だろうな、とさっき会った萩原の顔を想像する。
「涼香ちゃんの好きなタイプってなに?萩原?松田?」
「なんでその2人出てくるの!」
「なんか分かりやすくない?ねえ」
「えっ、そう……かな?」
「諸伏くんも同意しないで……」
***
なんて話をしたのをふと思い出した。
「どうしたの?」なんてこちらを見ながら言ってくる景光を見て目を閉じる。
「なんでもないよ」
髭、似合ってるじゃん。