夏だ、海だ。……と元気に誘われたのはかなり前。
伊達班長とナタリーさん、降谷に景光に松田、萩原と涼香ちゃんと私。
スケジュール調整に手こずった、が半年以上前から念押ししていれば何とかなるものだな。
流石にこの人数だからか車も二台になったがナビも付いているし大丈夫だろう。私の車と伊達班長の車。行きは景光と私と松田と降谷がこっちで伊達班長とナタリーさんと萩原と涼香ちゃんがあっちになった。

「ほんと物ねえな」
「可愛がってあげれてないからね」

チラ、と車内を見渡した松田が後ろでふんぞりながら口を開いた。
ほぼ警察庁の駐車場で止まっているのが多い愛車だ。

「道案内は任せてね」
「ん、煙草吸っていい?ってお前松田」
「あ?ここに灰皿あるし良いだろ」
「2人に聞いた私の配慮を返せよ」
「まぁまぁ」
「景、松田と交代した方がいいんじゃないか?」
「煙いかもよ景光」
「慣れてるよ、大丈夫」

窓を全開にして煙草を吸う、後ろで降谷の髪の毛がバッサバサと靡いてるのが見えてなんだか面白くなった。
車を走らせること小一時間、後ろの松田は口開けて爆睡してるし降谷もお疲れか腕を組んで目を瞑っていた。

「景光、 寝てていいよ」
「ううん、眠くないから大丈夫。真梨一人で運転させるのも、ね」
「別に気にせんのに」

***

「あー!よく寝た!」
「居眠りしてしまった、すまない京極」
「降谷は別にいいけど松田はムカつく」

海の駐車場に着けば寝起きの一発、と言わんばかりに煙草を吸いながら体を伸ばした松田に蹴りをひとつ。
隣の班長の車からも萩原達がでてきた。

「私このまんまでいいから涼香ちゃんとナタリーさん着替えちゃいなよ。車で平気?」
「更衣室無いんだもんね、仕方ない」
「京極さんは着替えないんですか?」
「えっ?真梨着替えないの?」

涼香ちゃんとナタリーさんを室内カーテンがある伊達班長の車で着替えさせている間に男たちをこっちで着替えさせようと考えていたら景光が声を上げた。

「だって泳げないし、海入らない予定だし」
「真梨の水着楽しみにしてたんだけど......」
「学生じゃあるまいし」
「おいおい、京極ちゃん。そりゃねえぜ、諸伏ちゃん楽しみにしてたんだからよ」
「萩原!」
「...... じゃあ後で着るよ、持ってきてるから」

爆速で着替えたと思われる萩原がよっ、と声を出しながら茶々を入れて来た。
チラ、と景光を見ればなんだか笑んでいてほんとこの顔に弱いな私は、と頭を掻いた。
萩原に続 いて続々と出てきた男共に場所取り行ってこいと追い出した。伊達班長は女だけが残るのが気がかりだったのか残ってくれたが。

「おまたせ!」
「お待たせしました」

涼香ちゃんとナタリーさんが着替え終わって出てきた。涼香ちゃんはおそらく萩原とお揃いの柄の水着。 ナタリーさ んは可愛らしいフリルが付いた水着にパーカーを羽織っていた。

「可愛い。2人ともこのままデートしない?」
「真梨ちゃんが言うとガチだからやめて!」
「似合ってるぜ、ナタリー」
「あ、ありがとう......」
「眩しくて涙出てきた」

眼鏡を外して目頭をつまむ。 班長とナタリーさんにはお前は悪影響だ、と降谷から念押しされているので遠くからニコとしておくことにしている。
すると「あ!」と聞き覚えのある声がした。

「涼香ちゃんやっぱ似合ってんね、可愛いよ」
「なんか露骨で恥ずかしいよこれ」
「そんな事ないって、すげー似合ってる。でも俺的には上に 羽織してて欲しいんだけどな」
「暑いよ!」
目の前で繰り広げられる推しカプ二組に笑いが零れる、必死に口元を隠すも無理だろこんなのいっそ殺してくれ..................。

「降谷ちゃん達が場所取ってるから行こうぜ」

先を歩く萩原と涼香ちゃん、しっかり手を握っていてニッという笑みが止まらない。

「おいおい、 顔すげえぞ」
「班長の方見てもこうなるよもうダメだ」
「ナタリー安心しろ、こいつは感情が高ぶると気持ち悪い笑みを浮かべる」「は、はぁ......」

***

「着替えなかったのか?」
「まだいいでしょ」
「この調子だと着替えねーぞこいつ」

パラソルを立て終 わっているシートによいしょ、と腰掛ける。
体を解している降谷に早速なんか食べてる松田から言われたが素知らぬ顔だ。

「降谷、ナンパされないようにね。めんどくさいから」
「良いじゃねえか、俺も着いてこっかな」
「困っても絶対助けない」
「いざとなったら松田が恋人ってことにするよ」
「ゲェ!やめろよ冗談でも!」

ゲラゲラ笑っていたら頬に冷たいものが触れた。ビクッと体を軽く跳ねながら見ると景光が飲み物を買ってきてくれたみたいだった。

「運転お疲れ様」
「あー、ありがとう」

てかさっきは見てなかったけどパーカー羽織っているとはいえ半裸やん。水着なんてそんなものだけど、と思いながら飲み物を口にする。冷たくて気持ちいい。

「着替えないの?」
「……そんなに水着がいいの?」
「 無理に、とは言わないけど............ 浅瀬でも遊べたらなって」

ぼんやりと前を見る、浮き輪を被せられている涼香ちゃんとその浮き輪に掴まり立ちしている萩原。班長の手を握りながら海に入っていくナタリーさん。案の定声を掛けられている降谷と肩を組まされている松田、そして隣で微笑みながらこっちを見てくる景光に頭を項垂れる。
分かりましたよ、着替えますよ。

「オイマジでふざけんなお前」
「ハハ、濡れた方が男前じゃないか松田」

びちゃびちゃな姿でこちらに歩いてくる松田と降谷に苦笑いが浮かぶ、どうせあの後軽くやりあったんだろう。

「松田、零。ちょっ と真梨と車に行くから荷物見ててくれないかな」
「 おー、俺は少し休憩するからいいぜ」
「俺も休憩しようかな」

え、聞いてないが。と景光を見るとニコ、 と笑っていた。松田も降谷も特に気にしておらず手を掴まれて車に向かわざる得なかった。

「一人で行けるよ」
「一人じゃ危ないでしょ」
「うーん」
「俺の事頼ってよ、ね」
「うーーん」
「なんで渋るの……」

とごねていたらすぐ車に着いた。めんどくさいなぁ、 と思いつつ車の中で着替え始める。ショートパンツタイプの水着だ。

「……羽織要る?暑くない?」
「要る、真梨は暑さでダウンしちゃうでしょ」

着替え終わりどう?と首を傾げればパーカーを渡された、 景光が脱いでちゃ意味ないじゃん。

「じゃあ俺はこっち貰うから、ね」
「意味ある?変装の」
「大丈夫だよ」

掛けていた眼鏡をするり、と取られ景光が掛ける。そういえば車の中にパーカーがあったが、まあ、いいか。

「良いね、水着」
「……おじさんみたいだね」
「ちょっと。……でも薄いね、食べてる?」
「食べてる食べてる」
「もう少しお肉増やすか……」

何やら考え込んでしまった景光の背中を押しながら私は歩き始めた。

「あ!真梨ちゃん着替えたんだね」
「うん、煩かったから」
「煩かったんだ」
「ノーコメントで」

戻れば萩原と涼香ちゃんがパラソル下で休憩していた。 バシャン!と飛沫が上がるほうを見ればまた松田がびちゃびちゃに。

「お昼、どうする?そろそろ買おうか」
「じゃあ私行くよ」

丁度立ってるし、と名乗りをあげる。すると涼香ちゃんも「私も行くよ」と。

「女の子だけじゃ危なくない?」
「大丈夫でしょ、 多分」
「なんかあったら涼香ちゃんが蹴るよ」
「……どこを?」

なんて話をしながら海の家へと向かった。
とても萩原と景光が行こうか?という顔をしていたが無視だ。

「真梨ちゃんらしいね水着」
「そう?動きやすさ重視だよ」
「あと……ちゃんと食べてる?薄いよ?」
「それ景光にも言われた」

きっと筋肉なんだよ、と涼香ちゃんに圧をかければ「そうかも……」と理解してくれたようだ。

「そういえば何がどんくらいとか聞いてなかったけど」
「とりあえず全部大盛りでいいんじゃない?食うよ」

海の家のメニューとにらめっこ、店員さんにこの量大丈夫ですかと心配されたが袋入りだし大丈夫だろう。

「重そうだね、持ってあげようか」

後ろから声が聞こえ見れば知らぬ男が涼香ちゃんの前に立っていて進路妨害をしていた。

「結構です、先急いでるんで」

ぐい、と男を避けて歩こうとするも男は並んで歩いていく、めんどくせえ男だな。と思いつつ涼香ちゃんに手を伸ばしかけ たところで気づいた。

「てめぇ、何俺の女に唾つけようとしてんだよ」

私の脳内でクラッカーがなり続けている、お前ら最高だぜ!男!よく当て馬になった!感謝しちゃいけないがちょこっとだけありがたみを感じておいた。

「涼香ちゃん、大丈夫?」
「来てくれたの……?」
「なーんか嫌な予感がしてね、 京極ちゃんも大丈夫そう?」
「むしろ涼香ちゃん連れ去ろうとしてた」
「やべ、敵は身内かも」

持つよ、 とさらっと涼香ちゃんが持っていた荷物を取った萩原にスタンディングオベーション。お前やるじゃねえか本気で。

「京極ちゃんも割と持ってんね、持とうか?」
「萩原お前は涼香ちゃんの手を持ってればよろしい」
「 りょーかい!ってことで警察局の人から命令されちまったから離すんじゃねーぞ」
「待って真梨ちゃんえげつない顔してる」
「気にしないでほんとに」

思わずブルーバードが脳内に流れた。まだ羽ばたくには早いぞ。

***

ちょっと先食べてて、と涼香ちゃんにご飯を渡し喫煙所へと向かった。
ついでに仕事の連絡が軽く入っていたのでそれに返信も兼ねて。決して煙草がメインじゃないからな。ぷか、と輪っかを作り息を吐く。
すると遠くからでもやけに目立つ金髪褐色がこちらを見つけると早くしろ、と言わんばかりにジェスチャーしてくる。分かりましたよ、と煙草を深く吸って火を消した。

「待ってるぞ」
「ええ、食べてていいのに」
「松田は食おうぜ、と言ってたがな」
「女子勢、と」
「頭が上がらないからな」
「よく言う」

ところで煙草臭いぞ、と言われたので思い切り降谷の方に風を流してみた。 嫌がらせである。

「真梨ちゃんごめん陣平止められなかった」
「とんだ暴走列車だな......」
「なにカッコつけてんだ、そもそもてめぇが遅いのが悪い」

涼香ちゃんに謝られたが涼香ちゃんは悪くない。口いっぱいに頬張った松田にハムスターかよ、と思ったのは内緒だ。

「真梨もちゃんと食べてね、倒れちゃうから」
「食べる食べる景光も食べなこれもこれも」
「おいおい、諸伏も松田みたいになるぞ」

よいせ、と唐揚げをひとくち。うん、ちょっと酒が欲しくなるな。と思っていたら降谷から「駄目だぞ」と釘を刺された、思考盗聴やめてください。

「飯も食ったし俺は寝る」
「松田お前なにしに来たんだ」
「海入っただろーが」
「陣平ちゃん遊ぼうよ!ね!どれだけ陣平ちゃんを飛ばせるか勝負しよう よ」
「よっしゃ萩、お前沈んでこい」

萩原が松田に蹴飛ばされて砂まみれに。
「えーん」と泣き真似しているが涼香ちゃんに容赦なく「うるさい」と言わ れていた。

「ちょっと出てくる」
「海か?」
「ん、そこらへん」

よいしょ、と立ち上がり班長に声をかける。岩場のあたりを指させば「気をつけろよ」と手を上げていた。
岩場の方が少し水が冷たいかもしれない。お、なまこ。と触れていたらこちらに来る音が聞こえた。

「景光」
「1人じゃ危ないって」
「大丈夫だって、海入らないし」
「岩場は特に足滑らすんだからね」

はい、なまこ。と景光の手のひらに乗せたらそっと海に返された。

「どこまで行くの?」
「奥まで行かないよ、疲れるから」
「足場悪いしね」

よいしょ、と立ち上がる際に景光が手を差し伸べてきたので素直に甘えておいた。もう少し奥に行こうかな、と景光が後ろで「わぁなまこ沢山いる……」 と見てるタイミングで足を進めたら、ずるり。見事に滑ったのだった。
やばいやばい、私泳げないんだけど。と嫌に冷静になる。
ここは足つかないし岩を掴もうにも滑って掴めない、ええいままよ!と視界に入ったなまこをぶん投げた。
私が泳げたらこんな岩場の海流、余裕なのかな……と思いながら私が死んだら誰かパソコンのデータ消して……リライトして……と思っていたら手首がぐい、と引っ張られた。

「ッ、静かに溺れ ないで!」
「……私溺れてたの……」
「どう考えても溺れてたよ……はー、寿命縮んだよ」

なまこ投げつけ作戦で気づいてくれた景光が私を引き上げてくれた。
ぎゅ、と命を確かめるように抱きしめてくるその近距離になんだかむず痒くてむにゃむにゃと口元を動かした。

「もう戻ろう、危ないから」
「お世話かけます……」
「学校の時はギリギリ泳げてたのにね」
「デスクワークになると忘れるんだよ」

景光に海から引っ張り上げられる。貸してくれたパーカーも物の見事にびっちゃびちゃでごめん、と言えば別にいいよ。と笑っていた。
そのまま髪の毛をまとめて軽く絞る、海水はギチギチになるんだよねぇ。

***

「うおっ、お前らどうしたんだ」
「真梨が落ちた」
「景光が助けてくれた」
「真梨ちゃん愚かポイント高くない?」

怒られた子供のようにしゅん、としながら景光に手を引かれて戻れば班長が慌てて立ち上がったが理由を聞けば笑って座り直した。笑うな!

「松田達は?」
「煙草だって、我慢できないんだね」
「出来ないよ」
「真梨ちゃん、過去最高に力強いよ」

ふいーと座り込む。 びちゃびちゃに濡れた水着も歩いてくる間に程よく乾いていた。流石水着。
そして元気に降谷と景光が遊び始めているところを見て顔面の暴力では……?適当な考えをしておいた。
なんかドッと疲れたなぁと涼香ちゃんによりかかれば暖かくて眠たくなってきた。

「真梨ちゃん眠い?」
「とても」
「私居るし寝てていいよ」
「んー」

返事もトロトロしてきた。眠気を自覚すると速攻で襲ってきた。
ずる、と涼香ちゃんの後ろの空間に体をずらす。ふぁ、と大あくびをして目を瞑った。

***

ハッ、と意識が浮上する。いつの間にやら頭の下に誰かの上着が丸まって枕になっている。

「んんんん……」
「うおっ、吃驚した」
「松田居たのか……」

横になった状態で体を伸ばしていたら近くに居た松田が肩をビクッとさせていた。ふん。

「何時間寝てた?」
「あ? 一時間くらいじゃね?」
「割と寝てしまった」

体を起こしてもう一度伸ばす。

「寝起きの一服、行ってきます」

一応松田に声をかけておいた、多分今松田が荷物番なのだろう。
喫煙所に着いて煙草に火を付ける、はー!寝起きの煙草は美味い!ところで今何時なのだろうか、と見たら15時になる所だろう。
そろそろ帰る時間かな、と煙草を1本吸ったところで戻ればみんな集まっていた。

「みんなお集まりで」
「そろそろどうすっか、って話してた所でな」
「明日仕事だしねー」
「世知辛いな、まぁ俺も朝から仕事だ」

社畜警察官、辛いな。 と皆で遠い目になる。
班長がナタリーさんに「あいつらは見るな、仕事に囚われてるんだ」とフォローなのか分からないことを言っていた。

「え!じゃあ私真梨ちゃんの方に行きたい」
「じゃあ俺もー」
「萩原もか……」
「え、なに。京極ちゃん嫌なの」
「まぁ推しカプ見れるから良いか……」

帰るか、と決まったところで男どもがテキパキと片付けを始める。こういう時チームワーク良いなお前ら。

***

「景光、後ろ写真撮ってくれない?」
「ちょっと寝てる萩原写すのやだな」
「草」

帰宅、となってからみんな動きが早いのなんの。
片付けは男達がメインでやったし着替えも手間取らなかった。ただ班長の車に松田を乗せてしまったのが大丈夫かな、と一抹の不安を感じた。特にナタリーさんが心配で。
後ろに乗った萩原と涼香ちゃんは最初わいわいしていたが静かになりルームミラーを見れば2人寄り添って寝ていて俺は俺は。
仕方ないからチラ見しながら目に焼きつけるよ……と呟いた。
景光もこく、と首を動かしていたので「寝てなよ」と声をかければ「うん……」と眠たそうに目頭を抑えていた。
なんだ……?男児か……?俺はお前を守る~FINAL FANTASY~が始まるところだったいけない。
途中で班長から解散前に集まろうぜ、と連絡が入っていた、ここは?と提示された場所にオケと返事をすれば既読になる。
多分ナタリーさんが触ってくれているのであろう。しばらく走りインターを降りた辺りでふわりと後ろから匂いが来た。

「もう都内だよ、涼香ちゃんそろそろ起こしといて」
「んー、ありがと京極ちゃん。って諸伏ちゃんも寝ちゃってんのね」
「景光そろそろ起きて」
「んん…………」

萩原の寝起きの一服の香りだった。ちょっとメンソールの香りが鼻を通る。

***

代々木公園から少し離れた公道で一時停車。 前には待ち合わせた班長の車だ。

「お!お前ら全員起きてんのな」
「起こした」
「松田はダメだ、起きない」
「あいつゴミだな」

車内を見ると口開けて寝ている松田が居たので扉を開けて頬を思い切り抓っておいた。 イッテエ!と大声が聞こえたが無視。

「じゃあ解散だな、またな」
「おう!松田と降谷は俺が送ってくからな」

ようやく起きた松田が窓から手を出して振ってくる。

「陣平ちゃんまたなー」
「おー」
「じゃあ萩原と涼香ちゃんの愛の巣に私が行くって訳」
「言い方キモくて笑っちゃうよ真梨ちゃん」

手を上げてハイタッチ、また遊びに行こう。 ね。




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