黒の組織の潜入任務も自殺を演出して終了した、相変わらず零は潜入任務を続けているが。
公安に戻って数ヶ月、身の回りがバタバタしていたがそれも落ち着いて来た。
そこで一つ、オレは常々考えていた 真梨にしっかり伝えよう と。明確に言葉にしてはいないが真梨は察しているような素振りを見せつつもそれに応えることはなかった。
「よし」
いつも簡易的なカジュアルジャケットだがスーツに袖を通す。ネクタイも久々につけたな、と思いつつピンで固定した。
***
「急に電話してごめんね、今忙しい?」
『大丈夫、ここんところ落ち着いてるから』
「そうなんだ、ちょっと会って話したいことあるんだけど何時くらいそっちに行っていいかな」
『あ?そう?んー……そしたら警視庁行くよ、14時くらいどう?』
「うん、大丈夫だと思う。ごめん、ありがとう」
『最近顔見てないしね、じゃまた後で』
電話が切られる、最後に言われた言葉が頭を反芻する。あー、ずるいだろ。とずるずると壁にもたれ掛かる。さらっとそういう事言うからほんと、なぁ……。
仕事中に話をするな、って言われるかもしれないけれどオレらは仕事もプライベートもあんまり無いようなものだ。
現に真梨も警察庁に寝泊まりしているし休みでも呼び出されるのが多々ある。それはオレもそうだ。
「小会議室、空いてる時間ある?」
「18時に会議入ってますけどそれだけですね」
「じゃあ14時からちょっと使っていいかな」
「了解です、書いときますね」
椅子に座るとギ、と軋む音がする。零から回された黒の組織の資料に目を通していく、オスプレイとかも所有してるのか……と笑いが漏れた。
***
「諸伏さん、来客です」
「ああ、ありがとう」
同僚から声を掛けられて立ち上がる、どうやらもうそんな時間になっていたようだ。
「ごめん、お待たせ」
「ちょっと飲み物買っていい?」
「うん、小会議室取ったから通り道にあるよ自販機」
「そういえば、スーツなんだね。なんか見慣れない……」
「え、似合ってない?」
「似合ってるに決まっとるだろ!」
「語尾強いね」
チラ、と見てくる真梨に口角が上がる。かわいいなあ、って。よく真梨が言う愚かで可愛い、ってそういうことなのかなってちょっと思った。
「懐かしいねそれ」
「飲みたくなった、飲む?」
「う、ううん、大丈夫」
果肉が入っているみかんジュース、カシュとプルタブを開けて口をもごもごとさせつつ差し出して来た真梨は本当に無意識にやってるんだろうなぁ、と思った。松田だったら全部飲んでたかもよ。
「ところで話って?」
ごく、と飲みながら口を開く真梨。会議室を使用中にして真梨の対面に座る。なんだか緊張して来た、え、どうしよう。
「……」
「え?景光?」
「待って精神統一してる」
「え?何?仕事の話じゃないの」
「うん、オレ個人の話」
「ええ……」
果肉をもぐもぐと咀嚼する真梨を見る。好きな人だからそう見える、って言うのはあるのだろうけど可愛い。
ふー、と息を整える。こんなに緊張したの、組織に居た時でもなかったかも。なんて。
「ちょっと真面目に聞いて欲しいんだけど」
「……なんか嫌な予感がするから帰っていい?」
「ダメ、座ってて」
「景光の真面目な話って怖いんだけど、帰っていい?」
「ダメ。じゃあオレ隣に座るよ」
立ち上がり真梨の向かいから隣に座ると「拷問?」とうめき声を上げていた。
「オレ今すごい緊張してるんだけど」
「何……?怖い……」
「単刀直入に、知ってるかもしれないんだけどオレ、真梨の事好きなんだ」
「帰ります」
「ダメだって」
立ち上がった真梨の手を取って止める、そして真梨の顔を見てオレの顔も、じわじわと熱くなっていく。
「……学校の時からなんだけど、真梨も察してたでしょ。鈍くないだろうし」
「心臓が痛い」
「組織に入って、真梨にも助けられて。公安に戻れた。それでようやく落ち着いて来たからちゃんと言葉にしようと思って」
両手をオレに握られる真梨、すとん。と椅子に腰を下ろしていた。
やばい、手汗出て来たかな、大丈夫かな。とそれどころじゃ無いことに意識が持ってかれていた。
「すぐにとは言わないから、オレと付き合うこと考えてくれないかな。いつでもいいから」
「……景光は私が景光のこと何とも思ってない、と思ってる?」
「少なくとも、松田よりはオレの事好意的に思ってる、と思いたいかな」
「……私、なかなかに自分の理解があると思うんだけど。好きじゃなければここまで、協力しないと思うんだよね」
心臓が跳ねる、ってこういうことなのだろう。口が開くも言葉が出てこない。
「で、でも!ちょっと、持ち帰ります」
「……まぁ、うん。そうだね」
「……でも、特段何が変わるってことも無さそう、だなって思うよ。そこに性干渉が入るくらいで」
「ちょっと生々しいのやめて」
「童貞じゃないでしょ、景光」
「う、ん……?」
「可愛い顔して逃げようとしないで」
急に話をぶち込むのが真梨だよね、って笑いが漏れた。……でも真梨は処女なのかな、オレが知らない学生時代に……?と無意識で真梨を上から下まで見ていたようだ。
「景光、目線が急にすけべだよ」
「えっ」
「ふ、ははは。なんか緊張してたのがあほらしく思えて来た」
声を上げて笑う真梨につられる。オレが好きな真梨は、こうでなくちゃ。
***
後日、偶々会った零と警察庁で話していたら仮眠室から出て来た真梨に
「あ、景光。私景光のこと好きだから付き合おっか。じゃ、また」
と言い逃げされた。ぽかん、としていたら流石の零も「え?!」
と時間を置いて二度見していたので大声を出して笑ってしまった。