※真梨ちゃんが縮んだ
しくじった、改めて考えれば応援を呼ばずに1人で行くなんて暴挙するべきじゃなかった。
取引現場を見て連絡をしていたら見つかり殴られる。あ、これやばいわ。と私は自分の死を確信して意識を失っていた。
……が目が覚めると体が縮んでしまっていた!というのはどこかで聞いた導入だが そう なのだ。
周りに人の気配もない、あの怪しい奴らは私に何かを服薬させ放置したのか、死ぬだろうと思って。
「出てくれ、頼む……」
とりあえずこのままじゃ居られない、と幸いにも取られなかった携帯を引き寄せて電話をかける。同期はダメだ、巻き込みたくは無い。
「どうした」
「黒田管理官、京極です!すみません、緊急事態で……黒田管理官、今動けますか」
「……声がかなり違う様だが」
「ええと、結論から言うと体が縮みまして……救いを求めた所存です」
「……わかった向かおう、現在地をメールで送れ」
「了解しました、ありがとうございます……!」
ああ、もう。思った様に動かないこの小さな手が憎い。現在地を貼り付けたメールを黒田管理官に送り、ずるずると壁際に体を寄せる。ええ、これからどうしたらいいんだろう……。
数分後、下から革靴の音が聞こえる。万が一怪しい奴らだったら、と思い物陰に隠れて息を殺す。
「……」
きょろ、と見渡すのは見慣れた上司。ほ、と息を履いて辿々しく足を踏み出した。
「黒田管理官、ありがとうございます」
「……京極、か?」
「はい、この姿で申し訳ありません……。咄嗟に管理官に連絡してしまいました……」
「良い、怪我は無いか」
「はい。ここでなんらかの金銭が発生する取引現場を目撃したところこの有様で……すみません」
「庁に戻るにも難しいな、入庁証と顔が一致しない可能性もある」
「ですよねえ……」
「一度セーフハウスで身なりを整えると良い、いいな」
「はい、ありがとうございます」
ひょい、と洋服もろとも抱き上げられてああ、こんなに縮んだのかと内心涙を流した。
「私以外にも協力者が居た方がいい、動ける人間の方がいいと思うが」
「……あまり警視庁の人間を巻き込みたくは無いんです、もし可能であれば長野県警の諸伏高明さんに協力を要請したいのですが」
「諸伏か、……ふむ、適役かもしれないな。明日にでも動かそう」
***
あれからセーフルームで子供用の服を手配してもらい、高明さんにも連絡を取ってもらった。黒田管理官は前長野県警に居たのだからそれは容易だろう。
「1人で行けますよ」
「……何かあったらまた連絡をしろ」
ふん、と子供にしては大きいリュックを背負って歩き出す。黒田管理官は長野県警まで送ってくれるつもりだったらしいがそこまでお手を煩わせるわけにはいかない。
長野は電車だと乗り換えが少し大変だ、なので高速バスにしたが……ちょっと長旅なので気を張らねば。
『次は長野駅』
そんなアナウンスを聞いて意識を浮上させる、やはり疲れていたのか寝てしまっていた。
大人の時に降り立つ感じと全然違う、視界の高さが低い。
携帯のマップを見ながら長野県警本部へと足を進めた。
「すみません、警察刑事部捜査一課の諸伏警部はいらっしゃいますか?」
「あら、諸伏警部のお知り合いかしら」
「はい、おじさんなんです。携帯持ってなくて連絡できなくて……」
「繋いでみるわね、お名前は?」
「京極真梨です」
「京極真梨ちゃんね、ちょっと後ろの椅子で座ってて待ってもらえる?」
「わかりました」
少々舌足らずを意識して県庁の受付の人に声をかける。こちらが無垢な子供だと認識させて仕舞えば懐に入るのは容易い。
「諸伏警部、もう少しでやってくるみたいですよ」
「ありがとうございます」
「偉いね、何歳?」
「ええと……10歳です」
「しっかりしてるんだね、飴食べる?」
「ありがとうございます」
受付の人からもらった飴をカロ、と舐めながら携帯を見ているとバタバタと走る音が聞こえた。そちらに視線を向ければ「失礼」と言いながら小走りでこちらに向かってくる高明さんが居た。
「高明おじちゃん」
「真梨、よくここまで来れましたね」
「うん、がんばった」
高明おじちゃん、と声を出せばそこはもう高明さん、理解が早い。瞬時に叔父と姪の関係性を見出してひょい、と抱き上げて来た。
そのまま庁内に足を進めるから小声で「いいんですか」と言えば「黒田管理官から話は伺っていますから」と返事、多分小会議室かなにかを取ってくれているのだろう。
「……本当に縮んでしまったんですね」
会議室に直行して施錠、誰が入ってくるかわからないからだ。
椅子によじ登っている最中、対面に座った高明さんが言葉を発した。
「愚かですよね、なにをされたのかもわからないので戻るものなのかも……」
「警視庁に協力を仰がなくて良かったんでしょうか」
「巻き込みたくは無い人が、多すぎる上にまだ私に危害を与える人間が都内には居ると思っているので……」
「そうでしょうね、……言えば景光も協力してくれるとは思いますが」
「せっかく落ち着いたのに、という老婆心ですよ」
「ふふ、そうですか……ところでこれから私が貴方の身柄を預かる、ということになるのですが問題ないでしょうか」
「高明さんなら」
「……なるほど、そういうところでしょうね」
「ええ?」
「こちらの話です」
***
「というわけで早上がりさせていただきます」
「今日早上がりの話ってそれだったのかよ」
「お名前は?」
「真梨です」
高明さんは昨日の今日で多分上官命令といった黒田管理官の指示の元合流したら家に帰ることにしていたんだろう。
はじめましてじゃない、けども!と思いながら由衣さんと話す。
「ではまた明日」
「おう、嬢ちゃんも元気でな」
「失礼します」
「……親戚も似てる様なものなのね」
高明さんと手を繋ぎながらぼんやりと考える、叔父と姪で突き通すのはわかったけど私の心境がもうふっきれさせたほうがいいのかどうなのか。
「ところで、小学校には通いますか?」
「え?いやです」
「そうですか、では日中はどうしても行動が制限されますが……」
「まぁ仕事は出来るので」
「……くれぐれも、無理は、しないように」
「……念押しされてます?」
高明さんの車に「お邪魔しまーす」と乗り込み黒田管理官へと電話を掛ける。
「お疲れ様です、京極です。諸伏警部と無事合流しましたので報告させていただきます」
「ああ、悪いが簡単な仕事を送る。今日中に仕上げてもらえるか」
「わかりました、ノートパソコンしか持って来てないのでできればですけど」
「簡単だ、任せたぞ」
ぷつ、と切れた携帯を見る。会話を聞いて高明さんが「お互い、相変わらずですね」とこぼしていた。