「おかえりなさーい、今日は鳥照りです」
「……すっかり馴染みましたね」
「パソコンも運んでもらって申し訳ない」

何もせずに家にいるのはな、と思い家事はまかせろー!と名乗りを上げた。仕事がしやすい様に自宅からデスクトップパソコンも運んで来てもらって至れり尽くせりだからだ。

「ところで、遂に景光からこちらに連絡ありましたよ。そっちに真梨が居ないか、と」
「……すごいね!景光!流石!」
「濁しましたがいつか来るかもしれませんね」
「他人事だと思ってます?」
「……さて、お風呂でも入りましょうかね」
「逃げた」

よいしょ、と椅子から降りて作った鳥照りを温め直す。ちょっと台所まで高さが足りないので踏み台があるのはとても助かる。
あれから仕事は普通に回される様になった、降谷たちからの連絡はメッセージで返しているが景光からのメッセージがそろそろ躱すのが難しくなって来たな、と思っていた矢先に高明さんに連絡があったようで思わずすごい!と声が出た。


***


「じゃあ景光に連絡取った方がいいですかね」
「その方が早く解決するとは思いますよ」

もぐ、とご飯を食べながらそう言えば対面の高明さんも軽く頷きながらそう答えた。
ちら、と携帯を見れば新着メッセージ。タイムリーにも相手は景光だった。

「片付けはしますのでどうぞ連絡を」
「うーん、はい。わかりました……」
「なんだか気が乗らない様で」
「多分明日にでも来ますよ、景光」
「我が弟ながらその行動力には感服しますね」

ソファーに座り台所の水音を聴きながら携帯を見る。
『話したいんだけど時間ある?』と連絡が入っていた、うーんうーんと体を斜めにしながら悩んでいると片付けを終えた高明さんがやってきた。

「電話してしまえば良いのでは?」
「んな無責任な」
「一寸の光陰軽んずべからず、後悔しては意味がないですからね」
「ううん……」

「長野に来れる?」と連絡を送ればすぐに既読印が付く。
高明さんが隣に腰掛けたので携帯の画面を見せながら返事を待つ。

『明日にでも行けるよ』
「……警視庁は暇なんでしょうか?」
「いいや……忙しいんですけど、多分、時間無理矢理作るんだと思います……よ」
「明日でしたら私も非番ですし、2人で迎えに行きましょうか」
「本気ですか」
「ええ、そのほうがわかりやすいと思いますよ。姪っ子さん」
「……ギ」

はぁ、と息を吐いて「明日14時に長野駅」とだけ送る。横で見ていた高明さんは「酷くさっぱりしていますね」と呟いていたけど。
……本当は巻き込みたく無い、わかってる。自分の体の縮んだ薬の正体も哀ちゃんから聞いているしその裏にある組織もなんなのか。


***


「ここまでする必要はあるんでしょうか」
「念には念を、ですよ」

少しこの顔には大きなメガネを掛けた私が高明さんに抱っこされながら駅前に立っていた。
もうこの体になり、高明さんのお世話になってから抱っこされることが多くて慣れつつある。
それもそうだ、高明さんも身長がかなりある。ちゃんと話すにはこの抱き上げ体勢が楽なのだ。

「来ましたよ」
「えっ、どこです」
「ほら頭ひとつ出てるでしょう」
「本当だ、景光も大きいからねえ」
「……なんですかその老婆のような発言は」

きょろ、と見渡す景光。久々に見た景光にじわとむず痒くなる感情に襲われ無意識に高明さんに捕まっていた肩元に力が寄る。

「兄さん!」
「景光、長旅お疲れ様でした」
「真梨からここで、って言われたけどやっぱり兄さん知ってるんだね……っと……」
「……」
「ほら、ご挨拶しなさい」
「なにをいけしゃあしゃあと……!」

ぺし、と高明さんの肩を叩く。絶対ちょっと面白がっている気がする。メガネ越しに景光と目が合う、顔を遮るものはメガネくらいしかない、どんどん景光の目が、瞳孔が開いていくのが分かる。

「……真梨です、久しぶり」
「え、……え?本当に?……兄さんは、いつから?」
「その話は私の家で。いいですね」
「……もしかして機密なの」
「うん、黒田さんも絡んでるよ」
「そりゃ……はは、零に聞いてもわからないわけだ」

自分の手のひらで顔を覆う景光、くるりと背を向け歩き出す高明さんにいいの?と言う意味を込めて軽く叩くも「大丈夫ですよ」と先に言葉を投げかけられ自分の手を握った。
すぐに高明さんの言葉の意味がわかった、そんなに景光は弱くないし顔に出さない。少し大きめの歩幅で追いかけて来た景光は真っ直ぐ前を向いていた。

「私は運転席ですが、景光と真梨さんは後ろでいいですか」
「え」
「うん、良いよ」
「彼女はすぐ転がるので固定しておいてください」
「分かった」
「当人を置いていく話してる……」

よいしょ、と車の扉を開いて手慣れた様に後部座席へと入る。景光の鞄は助手席へと置かれた様だ。
隣にとすん、と座る景光。私の頭が座る景光の肩にもはるかに満たない。

「……本当に真梨なんだよね?」
「不本意ながらね。んー、そうだね……警察学校の時に事件のこと思い出してなかなか眠れなかった景光を、」
「待って分かった、分かったから兄さんに聞かれるの恥ずかしいよ」
「仲睦まじい様で何より」

けらけらと笑う。ごめんね、今じゃハグもできないや。と思いつつ携帯を見る。降谷から仕事が回って来ている、帰ったらやらなきゃなー、と遠い目をした。



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