※ちょっと前の話
「京極、今から言う仕事は詮索をするな」
「はぁ」
警視庁の公安のサイバー攻撃特別捜査隊に配属されて数年。降谷もとい公安から個人的に仕事を振られることが大半になっていた頃。
降谷からそう投げかけられて回された仕事を見て言葉を失った。
『降谷零と諸伏景光のデータを消すこと』
「……降谷」
「すまない、俺からは何も言えない」
「は〜……厄介なものの片棒を担がされた気分だよ」
降谷は前にも述べたが公安であり、景光も公安に配属された。
降谷は警察庁の公安であり、秘密組織的な役割の公安に所属しているのは薄らと察してはいたが、景光もだったか……と咀嚼した。
「全て消せばいい?」
「あぁ、警察学校から遡って全てだ。……このデータを復元できる形式にしておくかどうかは、お前に任せる」
「……そう」
「……京極、いつも助かっている」
「何?気持ち悪い」
「お前な……!」
「まぁ……たまには元気な姿見せてよ、2人とも。……連絡でもいいからさ」
「……あぁ」
去っていく降谷の後ろ姿。はぁ、とため息を吐いてずるずるとしゃがみこむ。
何が、好きで同期を居なかったことに。……これも仕事だ、そうだ。と自分に言い聞かせて前を向いた。
あれから数ヶ月、降谷からは相変わらず仕事が振られるも景光は音沙汰が無い。
連絡が無いのは良い証拠、とも言うがまぁ……寂しさはある。
しん、と静まり返った庁内。それもそのはず今の時間は夜中の2時、残ってる者は私しか居ない。
私は仕事柄、みんなが居るフロアでの仕事は難しく別室に籠っている事が多いが気晴らしにフロアの私のデスクで仕事をしてみちゃったり。
カツ、と靴音。
こんな時間にこのフロアに来るのは降谷くらいだ。
「……またなにか仕事?」
キャスター付きの椅子を音の聞こえた方に回転させて見やる。
「こんな時間まで仕事してるんだね」
「…………景光」
疲れてるのかな、と目を擦るも困ったような笑いをする景光は相変わらずだった。
そのままゆっくり歩いてきて「へえ、真梨の部署は大変そうだ」と言うもんだから「そっちよりは、マシかもよ」と言うので精一杯だった。
「顔出すの、遅くなってごめん」
「……いいよ、元気そうで何より」
「真梨は……疲れた顔してる」
「今月入って休み無いよ」
「えっ?もう月末なんだけど……」
もう慣れたよ、と笑いを漏らせば隣のデスクの椅子を引き寄せて座る景光。
「ちゃんと食べてる?」
「たまに食べてない」
「顔がやつれてる」
「仕事多いからさ」
すり、と指が頬に触れる。景光からは嗅ぎなれない男性の香水の香りがした。
「もし、ここで真梨に会えなかったら……またしばらく顔出せないから、と思ったんだ」
「うん」
「……ゼロから聞いたよ、嫌なことさせてごめん」
「嫌……ではないけど、まぁ……お互いに大変だねってことで」
と笑えば景光の眉に皺が寄る。詮索はしない、言えないことが大半なのだから。
「……ごめん、真梨。抱きしめていい?」
「は?」
「そうしたらオレ頑張れるからさ!」
「その顔弱いんだって……はぁ〜」
突拍子も無いことを言うから声を上げてしまった。
ダメ?と聞く景光は眉を下げてこちらを見てきていた。私はこの顔がすこぶる、好きで弱いのだ。
立ち上がり座る景光を抱えるかのように抱きついてみた。何も言わずに。
ビク、と反射で動いた景光も私の腰に腕を伸ばしてグ、と引き寄せた。
「……景光じゃない香りがする」
「……それは、えっと、ごめん」
「はは、良いよ。頑張ってるんだね」
「……真梨」
「あのさ、……死なないでね。もし、危ない目にあっても何とか出来るんだから。そのための権力だよ」
「……」
「特に監視カメラなり、データベースなり、私の十八番なんだから。頼ってね、景光からなら喜んでする」
「……ゼロなら?」
「嫌々やる」
「っふふ、なんでやっぱりゼロと仲悪いの」
「別に仲悪い訳じゃないけど……」
ともごもご口ごもると景光が顔を上げてきた。パチリと会う目。
景光は私のこと疲れてる、と言ったが景光も疲れてる顔をしていた。
「景光もやつれてるよ」
両手で頬を包めば少し頬に色が着く。
あ〜……久々の景光供給、回復するなぁと無意識に顎に生えた髭を撫でた。
「真梨、ちょっと……」
「あっごめん。嫌だよね」
「嫌、じゃないんだけどさ……その、したくなっちゃうから」
そう言いながら景光は緩く自分の唇を噛む。
察しは悪い方かもしれないけど、警察をやっている以上人よりはある、のでしたくなるが何を指しているのか分かってしまった。
「……する?」
「しっ、しない!」
「ハハハ!」
「それは、……オレが落ち着いたらさ、ちゃんと言う」
「……今言ってるようなもん……」
「機密情報、だよ真梨」
指先数本で唇を抑えられる。これより先の言葉は今は言ってはいけないってことね。
「そろそろ行くね」
「……ん、ちゃんと食べて寝るんだよ」
「それ真梨にもそっくりそのまま返すよ」
少し離れると景光はスク、と立ち上がった。
前にも比べて筋肉もついているのかガタイも良くなっている。
「……メッセージ、たまに送ってくれない?」
「…………大丈夫なの?」
「いざとなったら真梨が何とかしてくれるよね?」
「……人使い荒いなぁ、いいよ。……あ、でも景光からは送らないこと。私から一方的なの送るから」
「うん、それでもいい。……またね、真梨」
「適度にやるんだよ、景光」
去っていく景光をしばらく見つめていた。
物音が一切無くなったあともぼんやりと。
はぁ、と大きなため息を吐いて椅子に腰かける。15分程しか居なかった景光だが、姿を見れて良かった。よし、仕事頑張ろうと言う気持ちに切り替えられた。
***
「え、警察庁……ですか」
「あぁ。お前のその腕を見込んでだ」
それから1年程経った時、警察庁のサイバー捜査課の方が直接来た。
目をぱちくりさせていたが、脳内で降谷も警察庁だったし……公安関連の引き抜きか、と納得した。
「私でお力になれるのであれば」
そう答えたのを後悔するほど、公安案件に塗れた仕事現場。ブチギレる私、公道でこんなにスピード出すRXー7なんてあいつしかおらんやろが!と思いながら監視カメラのデータなどを消していく。
おーい!こんな所で拳銃出すなや!うが〜!
たまには、と昼間の日比谷公園で煙草休憩。
鳥のさえずりがいいわァ、とここで三本目の煙草を吸った。
……そう言えばあれから景光にはたまにメッセージを送っている。メッセージアプリではないので見たかどうか分からないが。
ブロロロ……
バイクの音がする。ふ、と視線をやると機動隊の白バイだ。
……白バイ隊には同期の涼香ちゃんが居る。中々会えてないが、やり取りはしているので萩原と相変わらずのようだった。えーん!生で見たいよー!
と通った白バイ隊員が涼香ちゃんだったかもしれない、あの栗毛色の長い髪は多分そうだ。
密かに栗毛の天使というワードを流行らせたいところではある。
ピピピ……
「……はい、京極です」
『今すぐ調べて欲しいことがある』
「あー、はいはい、やりますよ」
束の間の平穏だった、分数にして10分ほど。
涙を垂らしながら私はまた警察庁へと戻っていくのであった。