※書きたいところだけ書いた
「タカ丸、居る?」
「はーい、どうしたんですか?」
「一日だけでいいからさ、髪の毛をつやんつやんのストレートにしてくれない?」
その時、雷が落ちる。
「ど、どうして?!」
「実習でさ、花街に行かなきゃならんくて」
「そ、それ、守一郎には……?」
「?なんで言う必要が?」
疑問符を浮かべながらタカ丸を見つめるもうーん、と困った顔をされてしまった。
「やるけれど、守一郎には説明しておいた方がいいと思うな〜」
「……タカ丸って年は私と同じだよね」
「うん、そうだね〜」
「私は忍者として割り切っていこうよ、の考えなんだけど守一郎はそうじゃないみたいで」
「そうだね、守一郎は……大好きだよね、真梨さんのこと」
「第三者から言われると恥ずかしいなこれ」
「でも僕はそれでもいいと思うな〜。だって守一郎は愚直だからこそじゃない?」
「……まぁ、いいところではあるよね」
「ね〜」
髪の毛がするりと艶やかになって行く。
「終わったよ」と言われた頃にはつやんつやんのストレートになっていた。
「ありがとう!このまま行ってくる!」
「ち、ちなみにさ……花街の任務って、潜入じゃないよね?」
「違うよ、情報収集!」
***
「香が臭い……」
体にまとわりついている香の匂い、忍者たるもの無臭を心がけているのにこの匂いは鼻にくる。
欲しい情報は手に入れたし、この忍務は成功なのだが……。
「真梨さん?」
「あちゃー」
夜も深くなり、静かな寝息ばかりが響く学園内に聞き覚えしかない声が掛かる。
「起きてたの」
「起きたんです……香りがしますね」
寝巻きでずい、と近寄ってくる守一郎に手を挙げて「近い」と抑える。
「髪の毛もいつもと違いますね」
「うん、タカ丸にお願いしてね。でももう戻りつつあるなぁ……」
「綺麗です」
「あ、ありがとうね……」
「でも真梨さんの匂いがしないの、嫌です」
「私匂いあるの?!」
「ありますよ!俺は真梨さんの匂い大好きです!」
「やめて」
勢いのまま抱きついてくる守一郎を無視してずんずん歩いていく。というか寝ろよ!
「守一郎、寝なよ」
「う……」
「私も湯浴みしたら寝るし」
「……分かりました」
「また明日ね」
「……!はい!また明日!おやすみなさい!」
───────
「やばい、ハーレム」
「とか言ってる場合じゃなくないか?」
「さすが七松、冷静な男だ」
左右に竹谷と守一郎。両腕を取られて正直キツイ。
それをたまたま通りがかった七松がマジレス。
「今日は生物委員に来てもらいますから!」
「いーや!用具委員に来てください!しんベヱだって待ってますよ!」
「こっちだって虎若がウキウキで待ってます!」
「モテ期すぎる、どう思う七松」
「このやり取り何時からやってるんだ?」
「半刻前」
「早く決めたらどうだ?」
「マジレス……!」
しかし二人には悪いが、忍務がある。
それを知らないわけでは無い七松、中々楽しんでるな?
「竹谷、守一郎」
「「はい!」」
「今日は忍務があって行けません」
ごめんね、と腕を抜け出して二人の頭に手を置く。
うりゅと涙を浮かばせた二人に(あ〜!)と心の中で頭を抱えた。二人のこの表情に、弱い。
「帰ってきたら行くから」
「生物委員ですよね?!」
「用具委員ですよね?!」
「いや、あの」
「さっきから聞いていれば守一郎!真梨先輩は生物委員なのだから用具には行かないだろ!」
「真梨さんは良く用具手伝ってくれます!それに俺が一緒に居たいんです!」
「委員会活動くらい俺に譲れ!」
「あの、忍務行っていい?」
───────
「真梨さーーーん!!!」
「……探されてるな」
「うるさいぞ!守一郎!」
「食満先輩!すみません!真梨さん見ませんでしたか?!」
「あ?生物とかに居るんじゃないのか」
「ありがとうございます!真梨さーーーーん!!!!」
「お前何したんだ?」
「しらんわ……」
じと、と立花から視線を浴びる。
屋根から逆さまに顔を下ろし、助けてくれた食満に手を立てる。ありがとな。
「なんか最近守一郎のアタックが激化してる」
「前からだったが……最近は特にお前の名前を叫んでいるな」
「だから避けてる」
「悪化してんだろ、それ」
しかし、あの真っ直ぐな守一郎に脳がやけるのだ。
どうしたものかねえ、とちょっと粉もんさんのように頬に手を当てて考える。
「守一郎」
「……ま!」
「声がデカい、もう夜半だ」
同室の田村は夜間忍務のようで出払っている。
ぐーぐー寝ていた守一郎に声をかければ爆音間近の開いた口に焦り口を押えた。
「気配で起きなきゃダメだよ、守一郎」
「す、すみません……!」
「今私がここにいるのもバレたら怒られちゃうから聞くけどさ、守一郎なんで最近私を探すの?」
「それは……ッ」
もごもご、と口を割らない守一郎。
なんだ?と私は寝巻きなのも忘れて守一郎の布団にあぐらをかいた。
「……ッ、真梨さん、足閉じてください!」
「え、ああ。ごめん」
「というか!真梨さん!こんな夜半に!寝巻きで!来ないでください!!」
「わぁまともな事返ってきた」
「俺だからいいですけど、勘違いしますよ! ……色の実習かと、思って……」
語尾が小さくなっていく。自分で言って恥ずかしがっているの可愛すぎるだろう。
「色の実習なら他の人に頼むよ」
「……は?なんでですか?」
「え、怖。だって守一郎四年だし……実習まだでしょ?」
「でも俺は真梨さんのことなら詳しいです」
「嫌な意味〜。ほら話戻す。で、なんで私の事、」
「真梨さんから離れたくないです、俺の知らない真梨さんがいるのが嫌だ。忍術学園内にいる時だけでも傍にいれたら、」
「重い重い!守一郎止まって。どうした???」
困惑!ぎゅ、と掴まれた腕。守一郎が若干重めなのは察していたけどこんなにも言語化されると重!となるものだったのか。
「とりあえずさ、割り」
「切れない、俺は真梨さんが好きだ」
「どわ〜」
「真梨さんも俺の事好きだよな?」
「そうかも〜そうじゃないかも〜」
「そうやって逃げるの、真梨さんの悪いところ」
「……潮江じゃないけどさ、三禁あるでしょ。一人に熱を持ちすぎるのも良くないよ、守一郎」
「真梨さんは分かってない!」
ドンッ!と衝撃があったんじゃないかと思うほどに体が飛んだ。比喩表現だ。
守一郎が片足を私の真横に置き、かなり距離が近い。
「俺は、真梨さんと共に在りたい」
「ウォッ……」
どストレートな物言いに、年甲斐もなく照れる。
といっても守一郎とは二歳ほどしか違わないのだが。
「知っておいてください、この浜守一郎は諦めないということを」
「もう知ってるよ…………」
───────
「大変だ!かくかくしかじかで守一郎が小さくなってしまった!」
そんな言葉を耳に挟んだ、0.1秒。私は守一郎を抱っこして走っていた。
「ま、まりさん?!」
「おい!京極先輩を止めろ!」
「無理ですよ〜あの人早いんですから」
「喜八郎!諦めるな!」
曲がり角でぴょい、と屋根へと登る。
凡そ一年くらいまで縮んだ守一郎をまじまじと見やる。
「か、かわいい〜………………」
むぎゅ、と抱きしめると「あの!」とやわこい手で抵抗される。かわいすぎる。
「戻るんでしょ?守一郎」
「戻るはず、です」
「じゃあ堪能させて」
「えぇ!こ、困ります!」
「なんで……」
と言いつつも手は止めない。もちもちと頬を撫でむちゅ、と頬に口付けるのも辞めない。
守一郎が真っ赤になっているのにも関わらず、辞めない。
「食べちゃいたいね」
「本当に真梨さんなら、食べそう……」
「口に含むだけだから」
「しんベヱはこれに耐えていたのか……!」
ほっぺを吸ったりして満足〜!と、していたらくるり、とこちらに顔を向け唇を合わせてくる守一郎に体が固まった。
「へへ、接吻しちゃいましたよ」
「私は犯罪者になりたくない!」
「接吻……だめですか……?」
「そんな顔で見るな!かわいい!」
小さな手で私の両頬を包み、むちゅとくっ付けてくる守一郎。顔をぶんぶん回して逃げるもこんな幼き命をぞんざいにするなんて、出来ない。
「し、守一郎……!やめて……!」
「んふふ、真梨さん俺に負けてる」
「だー!もう平に返す!」
「えっ…………いやです……」
「返さないよ、帰さない」
永遠のラブをここに誓うよ……とか思いながら涙を流している間にも小さな手で首元にぎゅ。と抱きついてくる守一郎に、大泣き。
抱っこしてる間に元に戻り、猛ダッシュで逃げるのはあと数刻後の話です。