※記憶無し 他6年は思い出してる

「小平太、分かるよな?」
「……はい」

珍しいものを見た。あの七松が静かになっている。
は組のクラスに戻ろうとすると廊下で知らない生徒に捕まっている七松が居た。上履きの色からするに上級生だろう。

「……どうした?」
「七松が大人しくなってる」
「あ?……あー、桜木先輩か」
「知ってんの?」
「まぁ……。小平太の委員会の先輩でもあるしな」

出入口で立ち止まっていると中から食満が首を傾げながらやってきた。
食満の顔を見ずに、ずっと七松と先輩を見ていたが食満がひょい、と覗いて「桜木先輩」と言った。

「食満、京極」
「え?」

見すぎていたのか先輩に名前を呼ばれてしまった。
食満はピシッと背筋を伸ばしていたが私は何故名前を知られていたのか、関わりのない先輩に混乱していた。

「あ、っと……桜木先輩、こいつは」
「……そうか、悪いな。急に名前呼ばれて困っただろう、俺は桜木清右衛門。小平太と同じ体育委員だ」
「は、はぁ……。知ってると思いますけど、京極真梨です」
「…………あいつは?」
「あいつ?」
「先輩」
「……そうか」

七松をヘッドロックしたままこっちに来る桜木先輩に困惑を隠せない。そして七松と食満が先輩とこちらが分からないような話をする。
あいつ?と視線の先を見れば萌香ちゃん。昔の知り合いとかなのだろうか。

「……食満、席戻るからどいて」
「あ、あぁ」
「えーと、桜木先輩。失礼します」
「あぁ、またな」
「またな!……京極!」
「はぁ」

また、別に関わりないんだけどな。と思いながら小脇に抱えられながら挨拶をしてきた七松にも首を傾げる。そして手に持っていた紙パックの飲むヨーグルトにストローを刺す。

「なんか賑やかだね」
「……萌香ちゃん、あの先輩と知り合い?」
「今食満くんと話してる人?ううん、知らないけど」
「ふうん」
「え、何?」
「なんでもなーい」

ズズ、と飲みきってしまったパックのストローが鳴った。

とまぁ、特段何がある訳でもなく昼休み。
善法寺は相変わらず風でプリントが飛ばされたり、黒板前の段差でつまづいたりと可哀想な事になっていたけど。

「真梨ちゃん、ご飯は?」
「持ってきてなーい、から購買行こうかな」

昼時の購買は激戦区だ。ちょっとめんどくさいんだよなぁ……と購買に行けばわらわらと人だかり。

「あれ、京極さん」
「……………………あー、不破!」

不破、……なんだっけ、雷蔵だ。
そっくりな従兄弟が居るんだったような、鉢屋……だったか。

「あはは、やっぱり分かるんだ」
「勘」
「お昼はここですか?」
「うん、でもこの人だかりで萎えたところ」
「先に三郎が居るから、頼みましょうか?」
「え、ほんと?おにぎり2個頼む」
「それだけでいいんですか?」
「時には腹が減っている状態で戦わなければいけないこともあるのだよ、不破」
「……なんだか昔の人みたいなこと言いますね。三郎〜!おにぎりも頼む!2個!」

不破が声をかけた先からサムズアップが出る。あそこに鉢屋が居るようだ。
よっ、と無事帰ってきた鉢屋はこちらを見てパチ、と瞬きしていた。

「珍しい組み合わせだな」
「たまたま運命的な出会いをはたしてね」
「運命的な出会いっつーんなら……」
「三郎」
「……ごめん、雷蔵」
「え、なに。なんで急に葬式なったの?」

ずーん、と急に不破が気の沈んだ顔で鉢屋を嗜めた。
それを見た鉢屋も沈み、何故こんなに葬式なのかと困惑する。

「いくらだった?」
「おにぎり全部100円だった」
「200円ね。これもあげる、ギザ10」
「いらね〜」

え、なんでよ。と言いつつも受け取った鉢屋にふ、と笑いが漏れ出た。

「京極さんはクラスに戻るの?」
「うん、萌香ちゃんと食べるから」
「……そっか、今度ろ組で一緒にご飯食べようよ」
「お。それいいな雷蔵」
「ほら、八左ヱ門……あー、竹谷もいるよ」
「竹谷……竹谷……あぁ!あの泣きそうな顔してた人」
「ブハッ」
「……可哀想だよ八左ヱ門が!」
「え、ごめん」

私を呼び止めて泣きそうな顔をしていた竹谷、覚えてるとも。隣のクラスだったか。


***


「という訳で連れてきた」
「どういう訳?」
「真梨ちゃん、かくかくしかじかだよ」
「便利な言葉ね、かくしかァ!」

放課後までは何事も無かった。ただまでは、だ。
放課後になった瞬間に隣のクラスから「いけいけどんどーん!」と聞こえたと思えばは組に凸してきて、七松が私と萌香ちゃんを拉致った。
まだろ組はがやがやと騒いでいたし、主犯格の七松は「私は悪くないぞ?」と真面目な顔をしているし、鉢屋は大爆笑している。お前だろ、おい。

「放課後で集まっても、なにすんの?」
「駄弁るしかないだろ?」
「駄弁る」
「えーと?お日柄も良く?」
「……もそ……お見合いでは、ない……」

とりあえず、空いた席に腰掛ける。不破と鉢屋は勝手に話してるし、萌香ちゃんも七松、中在家と話してる。……どうにも無視できない視線が、1つ。

「……そんなに見られると穴あくけど、竹谷」
「えっ!あっ、ごめんなさい……」
「いや、いいけど。なんか竹谷って……犬みたいだね」
「……それ、前にも言われました」
「へえ、共通認識なんじゃない?あ、これ食べる?」
「なんだこれ」
「チョロギ」
「……芋虫みたいな形だ」
「実質カリカリ梅」
「……あ、ホントだ。美味い」

制服のポケットに入れっぱなしだったチョロギ。竹谷におすそ分けした後にみんなにもおすそ分けした。
鉢屋に「雷蔵に変なもの食わすなよ」と言われたが変なものでは無い。

「雷蔵〜八左ヱ門〜三郎……って、なんでこんなに集まってるんだ?」

待て、また知らない人が出てきた。
肘で萌香ちゃんを小突いて「知ってる?」と聞いたら「後ろの人は知ってる」と小声で言ってきた。

「あ、京極先輩じゃん」
「誰……」
「おい勘右衛門。真梨先輩は人見知りなんだぞ」
「どの立場から???言うてる???竹谷くん???」
「初めまして!尾浜勘右衛門です!よろしく!」
「は、はぁ。名前は知ってるみたいだから割愛」
「自己紹介で名前割愛すんの初めて見たかも、な?兵助」
「あー、うん、そうだね。俺は久々知兵助です」
「あ、どうも。京極真梨です」
「こいつ、豆腐小僧なんです。気をつけて」

豆腐小僧……?と頭がスペースキャットならぬ、スペース豆腐になった。
どういうこと?と竹谷を見てもワハハ笑っていて疑問に答えてくれなさそうだ。

黙って帰っても、バレないんじゃないか?
と思ったところで萌香ちゃんに腕をぎゅう!とつねられた。ごめんなさい。



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