ふと思い出す、1人で籠城していた彼の事を。
私も任務の途中だったし、なんていうか魔がさしたと言う言い方もアレだけど、その懇ろになってしまった。
もう会わないだろう、と思ってすごいヨチヨチしてしまった気がする。

「んぐぐ〜」

屋根の上に横になり腕を思い切り伸ばす。良い天気だ。

「京極」
「……土井先生」
「またここでサボりか?」
「身体を休めているんです」
「全くお前は……手が空いているのなら案内をお願いしてもいいか?」
「案内?」

身を起こして土井先生を見やる。

「転入生が来るんだ」
「へえ、何年ですか?」
「四年だ」
「ふーん、土井先生が言うなら手伝いますよ」
「助かる!これから会議でな、学園長室に居るから頼んだぞー!」

仕事を押し付けて去っていく土井先生の背中にピンッと小石を投げる。仕事を押し付けやがって。

「学園長、京極です」
「うむ、入れ」

頭を下げながら扉を開く、顔を上げて驚愕したが顔に出さないように徹底した。

「彼が転入生ですか?」
「うむ、案内を頼めるか」
「分かりました、あー……名前は?」
「……浜、守一郎」
「浜くん、行こうか」

学園長に一礼し、踵を返す。
気まづい、凄く気まづい。後ろの気配が何か言いたげなのが分かる。

「改めて、私は忍術学園六年の京極真梨」
「真梨さん!」
「急に距離を詰めてくるな」
「距離を詰めるも何も、俺たちは……!」
「守一郎」

守一郎の肩に手を置く。まじまじと守一郎の目を見ると困惑したような、情を滲み出しているような色をしていた。

「忘れろとは言わないけど、私と守一郎は先輩後輩だ。そこをしっかり頭に入れておくこと」
「……」
「ともあれ、守一郎。お疲れ様、良く頑張ったね」
「ッ、……俺、頑張った、のかな」
「頑張ったよ、忍術学園へようこそ」

よす、と守一郎の頭を撫でる。泣きはしないものの、寸前と言った風に目を潤ませてしまった。

「でも、俺……真梨さんのこと離したくないです」
「え、何?」
「良い仲の人居ないですよね?」
「え、うん」
「俺諦めないんで」
「何が、え?何???」
「じゃあとりあえず、案内お願いします!真梨先輩!」

手をぎゅ、と握られて先を歩かれる。案内なんだから守一郎が先に行ってどうする。


***


「ここが食堂、お腹空いたらおばちゃんが作ってくれるよ。お残しは駄目だけどね」
「なるほど」
「そういえば委員会の説明聞いた?」
「委員会?」
「まぁどうせ入ることになるだろうから、私からは割愛しておく。あと手離して」
「嫌だ」
「なんでこうも強情なのかなー」
「京極、と……四年生か?」
「食満」

部屋を案内しようと歩いていると任務帰りの食満がやってきた。

「守一郎」
「四年に編入になりました、浜守一郎です」
「そうか。俺は六年の食満留三郎。……親戚か?」
「いや、違うけど。なんていうか……旧知の仲っていうか?」
「俺は!」
「守一郎は黙ろうね」
「もごごご」
「という訳で今案内中なのだ、仲良くしてやってねー」
「あ、ああ。またな守一郎」

しまった、このまま食満に案内を押しつければよかった。
と考えながら歩いていると四年の部屋に着いた。確か守一郎は田村と一緒だった筈。

「田村ー、は今居ないか。守一郎、ここが部屋だよ」
「分かった」
「同室の田村三木ヱ門は、まぁ……悪いやつではないよ、ちょっとめんどくさいかもしれないけど」

よし、一通り案内終わったな。と守一郎の顔を見るも手を離してくれない。
手を抜け出そうとしてもぎゅう、と力一杯握ってくる守一郎に頭を抱える。

「案内終わったんだけど、守一郎、手」
「別れたくない!」
「声でかッ!じいちゃん居ないんだから抑えて良いって」
「真梨さんはこれからどこに?」
「え?えー、土井先生のところにいくけど」
「抱擁していいですか」
「は?」

返事を聞かずにガバ、と抱きついてくる守一郎に内心大ため息。
多分、私に執着しているだけだ。編入した忍術学園にも居るし、まいったなぁ。

「守一郎」
「はい」
「忍者ってなんだと思う」
「……はい?」
「ある意味全てを犠牲にし得る職業だと思ってる。それこそ、くのいちは閨を共にして情報を抜き出す。……だから守一郎もさ、割り切って」
「真梨さんは色の任務苦手だって言ってたよな」
「そんなことも言ってたような、無い様な」
「俺と一緒にした後、他の人とした?」
「したとしたら、なんなの。守一郎も割り切って。忍者ってそう言う者だよ」
「してないよな、真梨さんだもん」

二歳年下の守一郎はまだ目線が私と同じくらいだ。バチ、と合う目はゆらりと情欲が滲み出ていて本能でまずい。と感じて身体を離す。

「守一郎!田村によろしくな!じゃ!」
「真梨さん!」

走る、走る。
そして目的の部屋に転がり込む。

「どわー!!!!ノックをしろ!!!!」
「土井先生〜!!!!!!!」
「うわ、なんて顔をしているんだ!ほら、手ぬぐい」
「……土井先生は、守一郎の案内を宛てがったのは嫌がらせですか?」
「知り合いだと言っていたからな、嫌だったのか?」
「……分かってるくせに」
「ははは、京極はくのいちとはいえ最初の生徒には変わりないからな。しっかりと向き合うんだぞ」
「……」

手ぬぐいに顔を埋めたまま静かにうなづく。
と同時にどう顔を合わせない様にするか、思考を巡らせるのに必死だった。



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