「守一郎、居る?」
「真梨さん!」

四年の長屋を覗いて声をかける、こちらに向く目は複数。
守一郎はこちらを視認すると小走りで駆け寄って来た。

「三日後、休み?」
「空いてます、空けます」
「任務手伝って。外出届は出しておくから」
「え、あ、はい」

あ、言い忘れた。と守一郎の耳元に顔を寄せて

「女装の実習は済んでる?」
「ヱ???!!!!!!?!??!」
「うるさ。女装で、不安だったら立花とかに聞いて」
「え、あ、えっ……」

ぽかん、と口を開けてしまった守一郎を横目に長屋を去る。
守一郎の女装、ちょっと想像できないけれど潮江とかくらいにはならないだろう、と思う。

男女の恋人に扮して情報収集、がメインの忍務である。
別に私が女役でも良いのだけれど、苦手だし男役の方が動きやすい。
男物の着物を引っ張り出して色合わせをする、守一郎はどの色味の着物で来るのだろうか。


***


「……先輩」
「うおっ、どうしたの守一郎」
「女装がわかりません……」

メショォとしおしおな顔で早朝に長屋を訪ねてきた守一郎に笑いが漏れる。
同室に悪いから、と空き長屋で準備していたら探っていたのか居場所を当ててきた守一郎にうんうん、とうなづいた。

「着物はこれで?」
「う、はい。立花先輩から教わって……」
「ふんふん、おいで守一郎」

淡い紫の着物に身を包んだ守一郎は、可愛い。
化粧はまだなのだが恥ずかしいのか、夜明けの薄暗い光でも分かるほど耳、頬が赤かった。

「守一郎、少し脱がすね。はい静かに」
「ッ!!!!!ッ!!!!」

言葉にならない叫び、というのはこれのことだろう。
守一郎の着物を解き、もう一度着付け直す。少し緩んでいた、事後報告でごめんね。

「……先輩、なんで俺を選んだんですか」
「嫌だった?」
「……女装だって、多分滝夜叉丸とかの方が」
「そうだね、でも私守一郎と任務したほうが円滑に進むと思ってたんだけど、駄目?」
「どの理由であれ俺を選んでくれたの、嬉しいです」
「んふふ、可愛いね守一郎」
「……そういうところ、嫌です」
「えー、嫌なの?」
「好きですけど……」
「んはは」

守一郎の襟元と正してよし、と肩を叩く。

「私も着替えるからさ、守一郎化粧してて」
「こ、ここで着替えるんですか?!」
「そのつもりで長屋に来てるんだけど」
「……」

衝立を挟んで着替えてると苦しむ守一郎の声が漏れる、可愛いなぁ。
深い緑の着物に身を包み着替え終わり守一郎を眺め見るとベースメイクは終わったみたいだが目元に苦戦しているようだった。

「守一郎、紅はどの色持ってる?」
「これです」
「うーん、これ立花の?」
「え、分かるんですか」
「色味が。守一郎は私が持ってる色の方が合いそうだからそっち塗ってあげるよ」

ぐぬぬ、と目元にラインを引いていく守一郎を横目に髪を結っていく。守一郎のように下で髪を結う。前髪を真ん中で分けて椿油を軽くつける。

「真梨、さん」
「どうした?」
「……本当に真梨さん、男装似合うんですね」
「口説くの得意だよ」
「……俺にはしてくれないんですか?」
「紅以外出来たらしてあげようかな」

せっせと鏡に向かう守一郎に笑いが漏れる。健気だな、この子。
守一郎の後ろから頬杖をついて見つめる、あまりにも好意を隠していない彼に困ることもあるが、こう健気なところを見ると絆されると言うもの。

「守一郎、こっち向いて」

小指に紅を乗っける、守一郎の顎に指を添えて唇に色を落とす。
ちら、と守一郎の顔を見れば頬紅をつけていない筈なのに赤くなっていて。

「可愛いね、守一郎」
「ッ」
「ん、守一郎に似合う色だ。接吻したくなる」
「……してくれないんですか」
「しない。忍務だよ」

紅も落ちるしね、と言えば確かに……と言いつつもすごい不満そうな顔だった。

「用意が出来たら行こうか、日が落ちる迄には戻ってきたいしね」
「はい」
「いいか、私と守一郎は恋人だ。情報収集が主として戦の情報及び城下の情報を仕入れればおっけ」
「こ、恋人」
「私のことは真二郎、って呼んで。守一郎は?」
「しゅ、守子……?」
「しゅうこ、だね。オッケ」


***


「すみません、お茶と団子二つづつお願いします」
「はーい」
「守子、足は大丈夫?」
「はい、まだ歩けます!」
「無理はしないようにね」
「あんたたち恋仲かい?」
「えへ、そうなんです」
「これからどこに?」
「スッポンタケの方に行こうと思うんですけど」
「やめときな!あそこはそろそろ戦らしいからね」
「え、そうなんですか?……真二郎さん、どうしましょうか?」
「急いで抜けるには、時間無いですかね?」
「そうさねえ、物資が流れてるって話だからねえ……」
「うーん、ちょっと悩みますね。ありがとうございます!」

『もうちょっと内情について探りたい』
『移動しますか』
『うん、城下まで行きたいところ』
『食べたら行きましょう』

あむ、とお団子を口に含む。横目でちらりと守一郎を見ると一生懸命所作を女の子に寄ろうとお淑やかにしているのが可愛らしい。

「お話ありがとうございました」
「気をつけていくんだよ!」
「よし、守子行こうか」

立ち上がり手を差し伸べる。きゅ、と握られた手を確認しておばちゃんに一礼して歩みを進める。

「待合茶屋とか行っちゃう?」
「……待合茶屋?」
「あれ、知らない?」
「はい、なんですかそれ」
「茶屋の二階が部屋になってて、いわゆる閨事をする茶屋」
「ッ、なんでそんなこと言うんですか……!」

『俺、本気にしますよ』
『駄目だよ、守子さんでいて』

「……もう!」


***


「そろそろ帰ろうか」
「はい、真二郎さん」

昼を過ぎた頃、情報も聞きたいところは聞けたし。
守一郎と歩いている所で気づく、付けられている。

『付けられてる、二人かな』
『……逃げますか?』
『いや、躱そう。守一郎、足を痛めた振り出来る?』
『了解です』

「あたっ」
「どうした、守子」
「ちょっと足が痛くて……紐がずれたのでしょうか」
「ちょっと見てみよう、ここに足乗っけて」

しゃがみ守一郎の足を膝に乗せる。
足を見るふりをして周りに意識を割く、私たちの事を警戒してはいるが関係無いと判断するには至ってないようだ。

「ごめんなさい、真二郎さん」
「気にしないで、守子。少し休んで行こうか?」
「でも……」
「可愛い守子、気にしないでくれ。君が痛い思いをするのが嫌なんだ」

木の根付近に腰掛け、守一郎の髪を頬を撫でながら声を掛ける。
守一郎、硬直。ガチ照れしてどうする!

「守子」
「ま……真二郎さん……!」

『おい、守一郎』
『す、すみません!』
『接吻する振りするから、首に手回して』

顔を徐に近づける、後ろの気配に気を配りつつ守一郎を見るとバチと目が合った。

「ッ」

唇の横に当たる柔らかい感触、こいつ振りだって言ったのに……!
首後ろに回された守一郎の手がぐ、と離れることを拒むかのように力を込める。

「守子……」
「真二郎さん」

『守一郎、もう付けてたやつら居ないから、離れていいから』

「もっとしたいです……」
「あほ、ここで出来るか……!」
「もう居ないし良いじゃないか!」
「そういう問題じゃ」

言い切る前にまた落とされる口付け。
「任務のご褒美、ください」と言う守一郎の表情に私は滅法、弱い。
ちゅ、と落とされる口付けにまずい、と思って身体を離す。

「……守一郎、帰らないと」
「ん、はははは!真梨さん、ははは!」
「は、何」
「俺の紅、移っちゃいましたね!!」

慌てて手の甲で唇を拭うと守一郎が付けていた紅の色がくっきりついていた。


***


「只今戻りました」
「おかえり、して情報は仕入れたか」

山田先生、土井先生に守一郎と共に報告をしていく。
一歩後ろにいる守一郎ははふ、と軽く息を吐いていた。ごめんな、こんな堅苦しいのあんまりだよね。

「そうか、もう物資が動いていると言うことはもうそろそろだな」
「ですが、始まる前から敗戦色濃厚ですね……」
「ありがとう、京極。……して、これは言うべきか?土井先生」
「あは〜……いや、……その、京極」
「はい?」
「色を落とすなら、ここでしっかり落とした方がいいと、思うぞ」

てんてんてん、と考えた。どばっ、と顔に熱が上がり袖で思い切り唇を拭った。

「いやはや、若さですな」
「……ッ、……お見苦しいものを、見せました……!」
「忍者たるもの、そう言うことをやることもある。よいよい」

ちなみに守一郎は羞恥で顔真っ赤にして伏せていた。守一郎もそうだが、顔を真っ赤にしてしまう私もまだまだだな……。



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