有象無象と月蝕を思う


 毎朝の日課。メッセージの確認をしていれば、とある新着メールが来ていた。

 「えー、まじない、をしないで、下さい……」

 政府から届いたお知らせタイトルを声に出して読む。
 まじない、どうやら一部でひっそりと行われているみたいだ。
 けれど、そのまじないは一切効果がない上に、良くないものを引き寄せるので、やろうと計画している人はすぐに止めるようにと書いてある。

 「死んだ人に会えるおまじない」

 まじない、呪い。
 そんなことを、する人が果たしているのだろうか。
 私の脳裏に知り合い、同僚の審神者の名と行動がよぎる。しかし、そんな確実ではないものを信じそうな審神者はいなかった。
 一部で行われているとあるが、これはどこの一部だろう。少なくとも私の周りにはいなさそうだ。
 他にお知らせや依頼が来ていないかを調べるか、来ていたのはこれだけだった。

 「……長谷部、いますかー?」
 「はい、ここに」

 私のいる仕事部屋から隣の近待部屋の方へ声をかける。
 すると近待を任せている長部がすらりと襖を開けて、この部屋に入ってきた。

 「いきなり申し訳ないですね。長谷部に、ちょっとききたいことがありまして」
 「なんでしょう」
 「死んだ人に会えるおまじない、知っていますか?」
 「……はい。耳に挟んだことはあります。ですが正しい手順までは……」
 「うん、うん。そうですか。なら、良かったです。知ってもいいことは無いですし」
 「他の刀剣たちにもききますか?」

 長谷部が私に窺ってくる。気を遣われているのを感じ、首を左右に振り、「大丈夫ですよ」となるべく大したことのないように言葉を作る。
 実際、大したことはない知らせだし、他の
刀剣男士に確認なんてしなくてもいい。長谷部に尋ねたのだって、少し、ほんの少しだけ気になっただけで、大した理由は無かった。
 もしも、本当に死んだ人に会えるまじないが本当に効果があるものであれば、私はとある所に召集をかけられている。おそらく同期たちも。その知らせがないということは、呪いは眉唾物で、何の効果もないんだろう。
 でも……。こんなもの、どこから湧いてきたのかが気になる。
 手順がのせられていないので、どんな系統のまじないかは分からない。縹に連絡をすれば、何か欠片でも教えてくれるかな。
 うーん、いずれ敵対するかもしれない相手に借りを作るのはちょっと嫌だな。こちらのツテで少ーし探ってみよう。

 「……主?」
 「ああ、すみません。急に呼んだりして。何かしていましたか?」
 「いえ、主をお待ちしていただけですので、そんな謝まられることなどありません」
 「なら良かったですー」

 長谷部がやさしくて良かった。私は安心して、会話が終わったと思い、通信機器に向き合う。
 メッセージを送る機能を閉じ、秘匿性の高いメッセージアプリを開く。ツテの相手に対し、今日送られてきた知らせのおまじない についてのメッセージを送った。返信があるといいけれど、相手は多忙で返ってくるのが中々遅い。それに私もそれなりに同じくらい忙しく、相手が連絡をくれても返信出来るのが数日とか数週間と空いてしまう。審神者業って心底忙しい。

 「では、そろそろ仕事に取りかかりましょう」

 あ、鐘。
 鐘の音が聞こえてきたので、長谷部に話題を打ち切るように言う。
 朝の始まりを告げる鐘が何度か鳴る。この本丸は朝と昼と夕方に鐘が鳴るようにしている。その方が分かりせすいからだ。仕事の始まり、区切り、終わりは、はっきりさせた方がいい。

 審神者部屋から長谷部と共に出る。長谷部が遠慮をして、一旦近付部屋に戻ってから廊下に出て、私を待つと言ってきたが面倒だろうとそのまま強引に出た。

 「主」
 「なんですか?」
 「何かあれば、この長谷部におしゃって下さいね」
 「うーん、そうですね。何かあれば」

 私は言葉を濁す。何かあれば、なんて言ってしまったが、私はおそらく何かあっても長谷部には教えない。別に長谷部は悪くない。長谷部が一生懸命で、主である私のために力を尽くしたいと知っている。
 それが申し訳ない。
 私は審神者として、遡行軍を減する任務は真面目に遂行しているが、そのための刀剣男士を大切に出来ているかと言えば、全く自信がない。
 きちんと主としての責務を果たせている気がしないのだ。
 私にとって相手は付喪神という妖怪で、なんだか心底から信用することが出来ないからだ。
 それって上司としては最低だろう。でも、心の底はそう簡単には変えられない。
 早く戦争が終わってくれれば良いのに。そうすればこんなに悩まなくて済む。
 ……ひとまず。あのメッセージの返信を待とう。あのまじないの件は、勘が気にし続けろと訴えてきている。以前あった一般人に刀剣男士を渡す事件に近しい感じが個人的にはする。
 よし、頑張るぞ。私は近侍の長谷部を引きつれて、朝ご飯を食べに食堂に向かうのだった。




back

TOP