薄氷は爪先で歩く


※パロディです。


 子どもの頃に道に迷い、途方に着れた経験がある。
 もしかすれば、他の人も、そう言う経験を持っているかもしれない。でも、私はちょっと不思議な体験をその時にしたのだ。
 あの日は、寒い寒い冬の日だったと思う。首に巻かれたマフラー、ふかふかの耳当て、手を保護する手袋を身につけていたから、それだけは確かだ。
 私はしっかりといつもの道を歩き、学校で友人と交わた待ち合わせ場所に向かっていたはずだった。だというのに、私は知らない暗い道を歩いていた。
 その辺りは、けっこう整備のされた所だった。でも、その時は見渡しても、剥き出しの土の道路であった。植えられていたはずの花は無いし、綺麗な公園もなぜか無くなっていた。
 私は見覚えが無くなった道で大きな不安を抱えて、あたりをきょろきょろと見返しなから、知り合いの人がいないか探していた。

 「お、どうかしたのか? 迷子?」
 「わっ」

 そんな中、いきなり後ろから声をかけられて、私は驚きのあまり大きな声を出してしまった。
 慌てて振り向くと、そこには私と同じくらいの年の男の子がいた。
 くりくりとした大きな目に、茶色の髪、心配そうな表情で私を見つめていた。
 目と目が合い、私は「迷子になっちゃった…」と、素直に正直に男の子の問いに答える。

 「え、大丈夫か?」
 「ううん、……大丈夫じゃない。分かんない。道、いつもと違うし……」
 
 もごもごと涙が出そうになるのを堪え、なんとか自分の状況を男の子に伝えた。
 男の子に伝えてもどうにもならないけれど、自分が置かれている恐ろしい現状を誰かに共有したかった。吐き出したかったのである。
 男の子は私の話をきいて、「俺、元の所に戻れる店を知ってるから一緒に行こうぜ」と見ているだけで、元気が出てきそうな笑顔を浮かべ、私を安心させる言葉を与えてくれた。

 「こっち!」
 「そっち? うん!」

 指をさして、その方の歩いていく男の子の後をついていく。隣に来た私に男の子は笑いかけてきた。

 「俺、藤堂平助! お前は?」
 「わたし、名字名前」
 「名前、でいいか?俺のこと、平助って呼んでいいぜ」
 「いいよ、平助ね」

 平助の隣で足を進めていいけば、だんだんと見知った景色に変わっていった。
 これまた私はきょろきょろと周りを見渡し、これは一体どういうことかと疑念を抱く。そして、完全に元に戻った道を、私は呆然と眺める。なんだったんだろう、さっきのは……。

 「もう大丈夫だな。気を付けろよー」

 隣にいてくれた平助がけろりと言い、私に手に振ってどこかへと去っていった。


 体が成長していくと、平助って一体どんな人だったのかという気持ちが、どんどん大きくなっていった。平助は、あのおかしい所で私に声をかけてくれた。つまり、あのおかしい場所にいたということ。
 なんで?どういうこと?

 高校に入学した時に私は平助と再会した。学校が決めたクラスの教室に平助がいたのでる。正直、平助の存在は、私の作り出したものではないかと決めつけ出した時の再会だったので、すごく驚いたし、あの日のことは嘘じゃないんだ……と改めて実感した。
 私の心境なんて知らず、平助はけろりとした顔で私に声をかけてきた。
 平助は明るく元気で感情表現が豊かだったので、すぐにクラスで目立つ存在になった。それでも平助はやさしく、分け隔てない態度で周囲の人に接していた。いや、そう言う性格だから、クラスの人気者になったんだろう。

 あの日と同じ、寒い寒い冬の日。似たようにコートと防寒具で寒さから身を守った私は
てくてくと校門に向かって歩いていた。部活に入っていない私は、部活にへと精を出す友人たちを見送り、一人寂しく家路についていた。

 「あ、名前!」

 そんな私の背に声が投げかけられる。振りれば平助が手を振りながらこちらへ走ってくるのが見えた。私はとりあえず立ち止まり、平助を待ってみた。そんな私の元へあっと
いう間に平助がやってきた。息を乱しているのを整え、それから私に笑みを向けてくる。

 「帰りか?」
 「うん、平助も?」
 「おう! 今日は部活休みなんだよな。一緒に帰っていいか」
 「もちろん」
 「よっしゃ」

 一緒に帰ることになったので、隣に並んで歩く。前から思っていたけれど、人気者の平助と大して目立たない普通の女生徒の私が一緒に会話をしても、一緒に帰っても、何で誰も何かを言ってこないのだろう。ドラマだとカースト上位の女子などが釘を差しにくるのだが。
 ……自意識過剰かな。平助は誰にでも平等だし、誰とでも一緒にいるし。恥ずかしい、私のことなんか誰も妬まないって。

 「これからどこか寄らない?平助は今日、予定ある?」
 「暇! 俺、あそこに行ってみたいんだよな。あの、赤色の店構えの」
 「ああ! あそこね。いいよ、楽しみだな」

 たまに平助の髪が、日光を受けると白く見える時がある。気のせいかもしれないけれど、確かに見えるのだ。
 何の被害もないから、気にしなくていいだろうが、なんだか気にかかる。それを目にする度に、あの日の不思議な体験がちらちらと脳裏をすぎる。
 あの日の体験も、あそこにいた平助も、一体何だったんだろう……。




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