加速する愛を一から定義せよ
貴方を初めて見たのは、テレビの中であった。
三門市では良く嵐山隊を見かける。もっと詳しく言うと、嵐山隊ポスター、だ。
ボーダーは広告に嵐山隊を使う、他の隊は出てこない。もしかすれば表に出てくる専用の隊が嵐山隊なのかもしれない。
三門市に住んでいると、どこの誰がボーダーに入っているのか分かる。なぜなら、大体の人間がボーダーに注目をしているから噂が絶えないのだ。
私は大学に向かう途中、新しい嵐山隊のポスターを見つけ、写真を撮るためにそのポスターの前に立ち止まる。
嵐山隊。正直、私は嵐山准にしか興味がないから、他の隊員の名前が分かっていない。覚えなきゃな、と常々意識をしているが、どうにも駄目だ。
鞄から通信機器を取り出す。まあ、後で覚えよう。暗記メモでも作って。
何枚か写真を撮り、私はその場から颯爽と立ち去った。
大学に来た。今日も元気に勉強しようと決意をしていれば、どことなく校内がざわついている気がする。
なんだろう。もしかして内密に芸能人とかテーマパークのキャラクターでも来ているのかな。でもこれだけ騒がれていたら、内密とは言わないんじゃないかな。
「あ、名前。おはよ」
「あ、おはよう」
たまたま友人と会う、朝らしい爽やかな挨拶をして、雑談へと話が進む。
そこで私は今日、ここに嵐山准が来ていると知った。
……私は決してストーカーではない。狙って入学なんかしていない。むしろ、入学した後に同じ大学に嵐山准が入学していたと知り、倒れろうになったぐらいだ。
嵐山准が来ているといっても、私の生活に変化はない。私のテンション、というか心持ちが明るくなるだけで、周囲がちょっとざわついているだけだ。
どうしよう、なんか嵐山准のこと考えていたら、もう帰る時間になっていた。支度をして、さっさと帰る。バイトをしにいかなければいけない。
大学から出てバイト先へと向かう。体の端から冷えてきそうな気温だ。街を見渡せば、やはり嵐山隊のポスターが貼られている。
私は、今日、あのポスターの中央にいる人と同じ建物内にいたのだ、と改めて実感する。忙しいだろうに大学にまで顔を出すなんて、真面目な人だ。そんなところが好ましい。
彼を初めて知った日を思い出す。
四年前、三門市の端に位置する自宅に住んでいた私は、幸いにも何の被害にもあわなかった。
けれど、周囲の他の人たちは、私と同じように被害を受けずにいた人もいれば……。
身近な所では以前と変わらない生活が送れていて、遠い所では恐ろしい傷跡がはっきりと残っている。そう考えると、心の底から怖くなった。
私は今回運が良かっただけで、次にあれがまた時は、こちらに被害が来るのではないかと想像して、恐ろしくなってたまらなくなった。
実際に被害を受けた人からしてみれば、想像だけで怯えている私は、一体何をやっているんだとあきれられるだろう。それでも、先を、未来を思うと嫌な気持ちばかりになってしまう。塞ぎ込んで、暗い気持ちになってしまう。
そんな時、私は無意味にチャンネルを回していた。と、あるチャンネルがぴたりと目に止まった。
ボーダーという組織の取材会見だった。二人の男の子が、大勢のメディアに囲まれ、ボーダーについての質間などを投げかけられていた。
ぼうと眺めていると、「街の人と自分の家族どっちを守りますか?」といった意地の悪い質間が二人にぶつけられた。なんてことを言うのだろう。片方の男の子が戸惑ったような表情で、なんとかその質問に答えようとしているのが分かる。すると、もう片方の黒髪の男の子がさらりと答える。
「家族が無事なら何の心配もないので最後まで思いっきり戦えると思います」
私は絶句をしてしまった。その場にいるメディアたちも、絶句をしたのだろう。しばらく会場が静寂に支配される。静寂を断つように進行役の人が声を上げ、会見は終了した。
「嵐山准……」
冒頭で紹介された名前を口にする。
彼の言葉は、その時の私にとって、大変ありがたい救いの言葉であった。恐ろしいが、同時にその恐ろしさが頼もしく感じる。彼が、ボーダーが、次にあれがきても、私たちを助けてくれるだろう、と。救われるような気持ちだった。
その時から、私は彼のファンだった。
追いかけたりはしないが、静かに彼の活動を見守る、そんなファン。彼らが頑張って活動をしているのだから、私も彼らが守っている日々を平和に過ごしたい。
バイト、今日も頑張らないと。
ふんっと気分を入れる私は、数十分後、バイト先に嵐山准がやってきて、テンションがおかしくなる自分の未来など知らず、バイト先に足早に向かうのだった。