どこにもいけない神様は


 「主」

 鶴丸国永が私の背に投げかけるような声をかけてくる。私はその声の方へ私は向いた。
 本丸の庭が好きだ。全て不変とされている本丸の中で唯一可変が可能な場所だからだ。
その庭に背を向け、私は鶴丸国永に向き合った。
 真っ白な刀だ。相変わらず、何一つ変わることない姿に昔は苛立ちしか感じなかったが、今では何も感じなかった。むしろ安堵すら抱く。

 「どうかされましたか? 鶴丸国永様」
 「あの件はどうしたんだ。早急に対応すると言っていたが……」
 「ああ、状況が変わりまして、後少しだけ様子を見ることにしました。申し訳ありません、報告が遅れまして。先に現場に指示はしました」
 「そうか。次は俺にもすぐ報告してくれか。一応、俺も関わっているんだからな」
 「はい。申し訳ありません。もしもの時に、それに送り込む審神者は、今から私が選ばせて頂きます」

 鶴丸国永が私の謝罪をきき、何か言いたげな顔をして、結局は何も言わずに立ち去っていく。
 私は細いため息を吐いて、気分転換に来た縁側を離れた。
 審神者はやることがたくさんある。その中でも私は特に忙しいのではないかと自分で自意識可剰に思うくらいに忙しい。文字通りに、朝から朝まで動いている。
 本来の仕事、審神者の業務、他の審神者が関わった事件、端が起こした事件、事件を解決するための審神者の派遣、政府への伝達、情報の共有、その他諸々。
 審神者については政府に任せられない。その他は任せているが、審神者のことは守らなくてはいけないし、大切に重宝しなくてはいけないので、私が手伝ってもらいながらも面倒を見ている。
 仕事部屋に来て、早速仕事にとりかかる。

 事件。現世で起こっているあの事件、どの審神者を行かすのがいいだろうか。鶴丸国永に様子を見ることにしたと言った通り、どう転ぶか分からないので、対応に困る。
 どう転んでも、優秀な対応が出来る審神者は多くない。だから重宝しなければいけないのに、政府ときたら……。
 対応か。私は頭を悩ましつつ、審神者の一覧表を眺めて熟考する。
 この人は今、忙しい、他の事件に係りきりだ。
 この人は……、ちょっと、性質がこの事件には合っていない。
 この人は、私のことを警戒している。大変優秀だから、頼りにしたいのだけれど……。
 この人は底が見えないから、私が警戒している。
 と、ある人……審神者に目が止まる。この審神者が良いと私の勘が訴えてきた。
 この人にしよう。私はその人の連絡先を控え、書類を作り始める。


 「鶴丸国永様」
 「ああ、主か」
 「突然申し訳ありません。あの件に送る審神者ですが、この人が良いかと」

 鶴丸国永を探した。それは自室にいて、礼を尽くして、障子を開ければ、鶴丸国永は机に向かい、何やら書類のような紙を読んでいた。私が渡した書類だ。
 私は先程決めたことを口にし、審神者の詳細が記された書類を新しく渡す。
 鶴丸国水は書類を受け取り、内容へ目を通してゆく。

 「……いいんじゃないか? 真面目そうで、戦績も申し分ない。刀剣たちもこの審神者を募っている。何かあった時には対応するだろうな」
 「よかったです。では、いざという時は、この人に依頼します」
 「了解した」

 けれど、何事も起こらないのが一番だ。事件に急変することないことを祈った。


 なんてことをやっていたからか、死んだ私は地獄に落ちる。
 といっても親より先に死んだので、石を積んで鬼に台無しにされる方の地獄だった。
 まあ、それはいい。地獄に落ちる覚悟はしていた。
 でも、まさか先に死んだ同僚がちらほらいるなんて考えもしなかった。

 「同窓会じゃないんですから…...」
 「えー、でもでも、見知った顔があると安心しません?」
 「……ま、まあ。あ! 貴方、わたしのこと警戒していたのに、そんなの」
 「ああ! 私が誤解していました! 大変申し訳ありません。でも、言ってくれればよかったんですよ? 私も悪いですけど、大切なことを黙っていたのは、ちょっとフォロー出来ませんって」
 「……」

 私より先に交通事故で亡くなった女性が呑気な口調でそんなことを言う。
 ……否定しきれずに口を閉ざせば、大きな鬼がやってきて持った金棒で私の積んだ石と彼女の積んだ石を崩す。石を崩した鬼は、用事を済ますと別の石を積んだ死者の所に行く。
 ……ああ。

 「ああ……、またやんないと」

 彼女が溜め息を吐いて、再び石を積もうとする。
 ──この女性が死んで、彼女の刀剣男士は落ち込んで動かなくなった。顕現を解いたわけではない。人の姿を保ったまま、正座をしたままに微動だにしなくなってしまったのだ。何年かしたら、再び動くようになったのだが。
 ……審神者が亡くなった後の刀剣男士は、どうなるのか。
 鶴丸国永は、精々しているだろう。
 こんな、地獄に落ちるような審神者がいなくて、胸を撫で下ろしているだろう。
 上を見上げる。そうであればいい。何もしてやれなかった私は、何も見えない空をただ眺めるのだった。




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