生きるたび擦り切れている
審神者であった経験って、一体どこに生きていくのだろう。
冬だというのに初春のような気温の中、私は大学帰りに、政府施設に向かう途中であった。鞄とバイオリンケースが歩くたびに鳴る。
戦争が終わり、私は行きたかった大学へと進学した。大学に通っていると嫌でその先を考えてしまう。審神者に近しい進路に進むのならば、審神者だった過去は生きるだろう。
けれど、私はもう審神者はこりごりだった。
気が長く、気が狂うほどの時間を審神者として過ごしたら、嫌になるのも当然だろう。当然、だよね? あんなにあっさりと審神者を続けている人たちがちょっとおかしいのだ。
人におかしいっていうのはいけないことだけど。
私は審神者をやり続けて、切り続けて、やり続けて……。一度、おかしくなった。だから、余計にそう感じるのかも。
全てが終わった今、審神者をやっているが、……縹が万が一のことがある場合に、と審神者を続けてくれと頼まれたからやっているが、ちょっと辛い。
刀剣男士がいい刀であるから耐えられる。やさしくて、真っ直ぐで、私なんかのことを慕ってくれて……。
こういう所が私の他の人と上手く馴染めない所だろう。普通の人は、主として慕われたりなんてしない。
なんだか、大学で馴染めていない気がするのだ。私が勝手に他の人と隔たりを感じているせいだらう。会話をして、一緒に過ごして、食事をして、そのふとした瞬間に、違い、というのか、そう、些細な違いを感じてしまう。
刀剣理士がいつも側にいて、話をしていたからとかではない。私自身が……。
信号が赤になった、足を止める。
……私が大学に馴染めないような気がしているのはいいか。今の所、自分がまだおかしいんじゃないかと疑うだけで実害はでていないから大丈夫。
と、青に変わり、音楽が流れ出したので、左右を確認してから歩き始める。
戦争が終わってちょっとした後、交通事故で亡くなった人がいる。私は顔見知りで、話をしたことがあった。そのため彼女が亡くなったと知った時はショックを受けたものだ。だから、今でも横断歩道を渡る際は念入りに周囲を確認するようにしている。
そうこうしていると目的の政府施設が見てきた。特に問題もなく、目的地に到着する。標から渡されていたカードを警備員の方に見せ、私は立派で清潔な内装が広がる施設に足踏みいれた。
用事が終わった。
特に歴史の計測器に変化はなく、異常な反応は見られなかったため、集会は情報だけ交換して解散することになった。
情報だけ交換、といっても人が多いので、それだけで一時間以上はかかる。
でも、おかげで大学近くのスーパーに毎週木曜日に揚げられるコロッケが美味しい情報に入ったので良し。後、猫の集会場も知れたから、今日は大量だ。
会議室の中のテーブルにバイオリンケースを置き、中を開く。ここには骨喰藤四郎が収まっていた。他の審神者たちもどこからか刀剣男士の本体を取り出している。
大太刀とか槍とか薙刀を所有している人は術で取り出しているらしい。私も術を覚えたい。肩が犠性になる前に。術を覚えている人は総じて現・神職、審神者の人たちしかいないので、おそらく故意に選ばれた人なんだと予想する。
「骨喰」
骨喰の名を呼んで、本体を握りしめ。力を使う。桜の花びらが舞い、人の姿の骨喰が顕現する。
「主」
「家ぶり、骨喰。体は大丈夫そう?」
「ああ、平気だ。会議は終わったんだろう、帰ろう」
「そのつもり。では、お疲れさまでした」
「はい、お疲れ様です。お気をつけて、お帰り下さい」
縹に挨拶をしてから帰った。他の審神者にも挨拶をたくさんした。
「寒くないか」
「大丈夫、骨喰は?もう冬だし、コートもまた新しく買っておかないと」
「もう買っていた気がするが」
「骨喰のだよ」
隣に骨喰をつれて、自宅までの道を歩く。ちらりと骨喰を見る。目線は私の方が高い。もう、骨喰の背を抜いてしまった。不思議な気分だった。審神者の時は、同じくらいであったのに。骨喰は何も変わらない。いや、極になったから変わってはいたかな。
こうして、私だけが変わっていく。とびきり美しい物を与えられて、朽ちてゆく。
審神者を止めたせいで、変化をやけに気にするようになった。
髪の長さ、爪の長さ、生命線の長さ。
骨喰が、私をちょっと見上げて、目が合う。
「骨喰」
「なんだ、主」
「今日の夕飯は、焼き魚だからね」
「そうか、楽しみだな。また、主の魚の骨を抜こうか?」
「もう大丈夫だよ! ……ありがとうね」