まっくらどん底で探してる


 本丸と繋がるゲートから出て、職員に促されるがまま、廊下に出る。

 「うわー、現代だ。久々すぎて夢みたい……」

 きょろきょろと周りを見渡した無は感激したように、感嘆混じりの声を出した。
 現代といっても、時の政府には一切自然は無いし、家庭的な雰囲気も無いけれど、就任からずっと外出許可が下りずに本丸から出てくることが難しかったため、本丸以外の空気を味わえるのは心を動かされるものであった。

 「すごい。涙が出てきそう……」
 「主、早く行くぞ」
 「もうちょっと浸らせてよ。浸るために三十分も早く本丸から出てきたんだから」

 横から水をさしてきた初期刀の山姥切国広に、ばっさりと言い返す。無は手紙で指定された時間が来るまで現代に夢中になると決めていたのだった。

 話は一ヶ月前まで遡る。
 いつも通り審神者の仕事をこなしていると、珍しく上からメッセージが来ていた。
 就任当初は色々と経過について、刀剣男士とはどう接しているか、と何の意味があるのか分からない質問が届けられていた。しかし、それも審神者の仕事に慣れていくにつれ 送られてこなくなり、そのメッセージが来るまで無はその出来事を綺麗さっぱり忘れていた。
 なんだろうと嫌々ながらも早速読めば、仕事の依頼の文章に、日時と場所、政府へ繋がるゲートのコードが記載されていた。
 まだ了承も拒否もしていないのに。
 無はあまりのことに絶句する。
 もしかして、私が覚えていないだけで過去の私は何かを了承していたのだろうか? そう自分を疑い、思い当たる場所を手当たり次第探してみたが、何かを了承した証拠も痕跡もなく、ただこのメッセージの主が横暴な人物であることだけは無に分かった。
 しかし、上からの仕事依頼である、行くしか選択肢はない。
 仕方なく無は文面にて指定されていた初期刀、山姥切国広を呼びつけるのだった。急ぎでは無いが、ひとまずこのメッセージが来たと報告をしなければいけない。

 それで断れずに今日に至る。
 時間と場所の指定はあったが、ゲートの時間指定までもはされていなかったため、もしかすれば政府にちょっと早く行けるかも! と考えた無が、三十分前に本丸のゲートにコードを打ち込んでみたら、すんなりゲートが開いた。
 政府に着いた無は三十分ではなく、一時間いや二時間ぐらい早く来れば良かったと後悔する。言い訳が出来るからって三十分にしたけれど……。

 「主、これは一体なんだ」
 「さあ……、未来の道具じゃないのかな?」

 山姥切国広の示した先について尋ねられたが、無は答えられなかった。
 なぜなら無が生きてきた時代では見たことない装置であったからだ。
 何がどうなっているかすら不明だ。
 機械には明るくない、審神者になる前は普通の学生だった。中学高校で技術の授業を受けたり、テレビのクイズ番組で真っ二つに切断された物の断面図を見たことがある。そのどれもが掠りもしない。無の常識が通用しない。これは人生で二回目の経験だった。一回目は審神者の研修を受けた時である。
 考えても答えはないでは出ないだろうし、職員がこれを動かすまで動かないなんてことしてまで知りたい訳ではので、無は山姥切国広を連れ、その場を離れ、政府の案内図の前にやってきた。

 「国広はどこか行きたいところある?」
 「急にそんなことを言われてもな。俺はここに何があるのか知らないぞ」
 「ま、そうだよね。私もそんなに知らないんだよねー。研修は政府じゃないとこでやっていたし」

 随分と遠い記憶だ。あまりの懐かしさに無は目を細める。
 政府から審神者になってくれと手紙が送られてきたのが全ての終わりだった。
 噂では審神者になりたい、なんて耳を疑うような願望を持った人間が増えているらしい。無としては、信じられない気持ちでいっぱいだが、他人の願望なんて分からないものである。むやみやたらに否定するものじゃない。変わっているなと、胸の中に秘めるのである。
 そんなことを思いながら、案内図を眺めていると、食堂の二文字が無の目に入ってきた。食堂……。ドラマのオフィスの食堂、のようなところに憧れがある無にとって、その漢字二文字は大変魅力的に映る。なんだかんだ言いながら本丸の広い炊事場と大広間を見て、初日に大はしゃぎをしていた身としては、興味が唆られる。あと、ここにはどんな料理が置いてあるのかが無は気になった。

 「じゃあ、食堂に行ってみない?」
 「朝はもう食べただろう」
 「食べに行くんじゃなくて、メニューを見に行こうと思ったの。ていうか私、そんなに大食いじゃないよ」
 「分かっている。確認しただけだ。なら、早く行くぞ。指定された時間に間に合うようにな」
 「うん。あーあ、やっぱり一時間くらい早く来れば良かったな」
 一人と一振が並んで歩く。職員があまりいないから出来ることだった。

 無と山姥切国広はたっぷり政府の食堂を堪能した。意外と無と同じように刀剣男士を連れたひとがいて、同じ審神者だろうかと思ったが、どうなんだろうか。
 それから指定された時間に指定された場所へ行った無と山姥切国弘は、上から現世での仕事を依頼されるのだった。




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