ひとりのあなたと巡り逢う
※プランBネタです。分からない人は戻って下さい。
巫女服を神社に行った時にしか見たことはない。
神に仕えている女の人が着るのだから、神社でしか見たことないのは当然だ。
小さい頃はその色合いに目を奪われて、憧れを抱いたこともあった。
天草くんの巫女服を見て、かつての憧憬を思い出したわたしは、なんだか心底複雑な心境になった。
昼休み。ご飯を食べ終わり、何か飲もうかと自動販売機へと向かった。
学校には三か所に自動販売機が置かれている。それぞれメーカーが違い、販売されている商品が違う。
わたしはそのうちの一つ、第二体育館の方に置いてある自動販売機で売っている飲み物の品揃えを確認するのが好きだった。
なぜなら、予想が出来ないゲテモノ、まではいかないが、変わった品物が売っているからだ。
たまに飲めそうな物があり、それを買い、飲んでみて呻いたりしている。
そろそろ季節の変わり目だし、品揃えも合わせて変わっているかも。思い立ったら即行動。学校指定のセーターを重ねた制服で、第二体育館の自動販売機の方まで行く。
第二体育館は二階建てで、第一体育館よりも小さい。講堂とも呼ばれている。周囲は綺麗に整えられていて、自然が側にあるところで木々による翳りはあるが、怖くて嫌な感じはしない。
行ってみたが、ラインナップに変化はなかった。少しだけ肩を落とし、でも喉は乾いたのだからと気を取り直して、改めて自動販売機に目をやった。
と、どこからか話し声が聞こえてくることにわたしは気付く。ぼそぼそと何を話しているのかは分からないが、こんな人目につかない場所だし、恋人が逢引をしているのかもしれない。お邪魔しては悪いから、早く決めてここから立ち去ろうとしたわたしの耳に、とある声が入って来たような気がした。
この声は、天草くんでは、ないだろうか。
天草くんは、わたしと同じクラスの男の子で、真面目で勤勉で、同級生の中でも、もしかすれば学校で一番年齢に合わない落ち着きを持っているんではないかと、個人的に思っている。
わざわざ声を大きくして騒がなくとも、通る声で落ち着いて喋るだけでみんなの目を引く、そんな男の子。
しかしノリがいいところも持ち合わせており、その落ち着きをどこへやったのか分からないくらいのテンションになることもある。それもあり、掴めないイメージがあるもの確かだった。
そんな真面目な天草くんがどうしてこんなところに? わたしの耳の覚え間違いかも。天草くんの声を正確に覚えているわけじゃないし。……気になる。わたしの耳の記憶力が良いのか悪いのかを確かめたくなってきた。覗き見は良くないけれど、ほんの一瞬だけ声の主を確認すれば良いんじゃない? 勝手な判断ではあるが、これでは午後の授業に集中出来ない。
わたしは一瞬、一瞬だけだから! と言い訳をしつつ、財布を脇に抱え、こそこそ息を殺して、声の方へと近付いていった。
植えられているのか、自生しているのかも知らない木々の間に人影が見える。
人だ、人がいる。まるで遭難した人がやっと自分以外の人を見つけられた時のようなことを思い、その人に近付く。徐々にはっきりとその人が見えて来た。
あ、え、うん?
あ、天草くん?
何度か自分を疑い、天草くんかどうかを確認する。
巫女服を着た天草くんがそこにはいた。
どうして、どうして天草くんは女装をしているんだろう。
どこからどう見ても女装をしている。今日、文化祭だったっけ? 普通の日だよね、わたしがおかしいわけじゃないよね? え? 何?わざわざ学校に巫女服を着るために持ち込んだの? 分からない、どういうことだろうか。
動揺しすぎて殺した息が吹き返してしまいそうだ。
わたしと天草くんは同じクラスではあるが、それほど関わりがない。部活も委員会も同じではない。ただのクラスメイトである。親しかったら、木の陰から出て、その格好どうしたの? と真剣に、困惑したみたいに、あるいは微笑みながら……は無いか、言い方はともかく疑問はきちんとぶつけられたのだろうか。
天草くんはわたしに気付かず、ここからは見えない相手と話しているようだった。一人で大きな独り言を呟いているわけではないみたい。声色からして、真面目な話をしている気がする。
は、と一瞬見るだけと決めていたのに、たっぷり呆然としてしまった。
なぜ、天草くんが女装しているのか事情は知らないが、こんな人目に付かないところにいたんだから、あの女装姿は見られたくないもののはず。それをわたしは見てしまった。大変天草くんに申し訳なく思う。もうこれ以上は天草くんへの申し訳なさでいっぱいなってしまう。わたしは胸に罪悪感を抱き、そっと迅速にその場を離れた。
木々を避け、自動販売機を通り過ぎ、校内に入る。
何だったんだ……。全部が分からなかった。天草くんがいたことしか理解出来なかった。なんで本当に巫女服を着ていたんだろう。疑問が頭から全然出ていってくれない。
なぜなら、理由が全く分からないからだ。わざわざ学校で巫女服の女装をした理由が。
知りたい。けれど、わたしと天草くんは親しくないし、おそらく天草くんも聞かれたくないはず。それに、わたしも盗み見をしたとバレたくない。ならば、わたしのすることは一つ。そう、忘れることだ。わたしは何も見ていない、あそこで何かあった訳でもない。これでいい。
足早に教室に入ると、同行を断った友達に声をかけられた。
「あれ? ジュースは? 買いに行ったんだよね」
と、自動販売機に行ってくると宣言をしてから出て行った相手に対し、当然の疑問を投げかけられる。
「うん、いいのなくて」
「あそこにいいのあるの?」
「あるって、可能性を信じないと」
わたしはいつも通りを意識して答え、自分の席に着いたのだった。