冬に取り残される夢
今日はアーチャーが身を寄せている屋敷に用があり、学校帰りに寄った。
チャイムを鳴らすと使用人が出てきて、屋敷まで案内をされる。
何回見ても大きな屋敷だ。使用人の後を着いていき、これまた大きな玄関ドアの前に来た所で、庭の方から私が召喚したアーチャーがやってきた。梅色というのだろうか、淡い赤色をした髪がすぐ目に入ってくる。
「マスターか? 珍しいな、ここに来るなんて」
「アーチャー、こんにちは。相変わらず元気そうで良かったです」
アーチャーは出会った時の、和服と洋服が混じり合ったような白を基調した服ではなく、現代を過ごすに適した服を着ていて、まるでサーヴァントには見えなかった。
アーチャーは軽く私のことを頭から爪先まで見て、ふうん、と何やら言い出しそうな雰囲気を出す。なんだろう。
「マスター、それって制服か?」
「そ、そうですけど、何か気になります」
「いや、初めてみたと思ってさ」
アーチャーにそう言われて、確かに初めて制服姿を見せたかもしれないと気付く。
アーチャーと過ごした毎日は、学校を休んだ日々でもあった。学校を休むと制服は必要なくなる。あの日々で私は大体汚れても構わないような私服を着ていた。
それに私とアーチャーは別に暮らしているので、会いに行かない限り、またアーチャーが私に会いに来ない限り、顔を合わせることはない。
「そういえば、そうですね。アーチャーと会う時って大体私服でしたし」
「似合うな。いいんじゃないか。学校に通っていると言っていたのに、それらしい所を見なかったからな。そろそろ確かめようとしていたんだ」
「疑っていたんですか? そんな嘘をついても、何もなりませんって」
「そうだな。というか外で立ち話も何だろう。中に入るといい」
「え? うーん、えっと、お邪魔します……」
使用人を置き去りにして、勝手に話を進めてしまった。謝ろうと私を待ってくれていた使用人の方を見れば、「ではお願いします」と頭を下げて、屋敷の中へ去っていった。
いいんだ、アーチャーが決めても。こんなにも堂々としているし、使用人の方も異論を唱えていないのだから、何か屋敷の持ち主と決めているのだろう。……正直、アーチャーのこれまでの行動が脳裏を過り、心配が全然消えてくれなかった。どうしよう、ここで好き勝手自由気儘に振る舞っていたら。あの人、何故かアーチャーに甘い所があるし。
しかし、こんな寒い中で確かに外で立ち話もなんである。私はアーチャーのお言葉に甘えるのだった。
やはり、屋敷の中は綺麗だった。絢爛ではないが、私のような一般人でも分かる品を感じる。アーチャーの背を追いつつ、きょろきょろと首を動かす。
今の所は屋敷内に変化は無いし、屋敷の持ち主とそのサーヴァントは留守のようだ。
なんでアーチャーを一人きりにしているんですか? この屋敷で働いている人がいるから良いのかな、と判断したのかもしれないが、本当に大丈夫なんだろうか。
つい先程、庭の方から現れたのが、引っかかって気になるのは私の気にしすぎ?勝手にどんどん心配を募らせていく私など知ったわけなく、アーチャーがドアを抑え、「入りたまえ」と私にアーチャーの部屋に入るように言ってくる。
「ありがとうございます」
躊躇う理由はあるも、口に出すのは億劫だったので、お礼を告げてから、促されるがままに入室する。前に来た時と同じように、アーチャーらしさを感じる部屋だ。借りている部屋であるのに、大胆な内装である。ふかふかの椅子に座れば、やはり座り心地がいい。
「すみません。今更なんですが、私はアーチャーの部屋にいるんでしょう」
「ここまで何も言わずに着いてきて今更だな。いいだろ、マスターの用のある相手は今留守だし。というか、アポイントはとらないで来たのか」
「まあ、いらっしゃるかな、と思いまして。迂闊でした。次からは気を付けます」
「そうしたまえ。どうせすぐ帰ってくるだろう。ここで待っていると良い。ああ、菓子を出そうか」
「え。じゃ、じゃあ、お願いします」
アーチャーが私にお菓子や飲み物を出してくれた。意外だ。使用人を呼ぶかと思っていたのに、まさかアーチャー自ら出してくれるなんて。ちょっとだけ、お礼を言うのに動揺してしまった。
待っている間、大した話はしなかった。世間話の範疇に入る程度の話は結構続いた。
しばらくしたら、私の待っていた人とそのサーヴァントも帰ってきた。最終的に用事を終わらせた後、四人で場所を移して話をしたのだった。
私はアーチャーと外にいる。
本当に意味が分からない。なんでこうなったんだったっけ。四人で話している中で、私の制服姿をアーチャーが初めて見た、なんて話題になり、それを知った相手がそれならその格好で遊んで来たらどうだ!? と言い出したのだ。
いい思い出になるから! で投げ出された私とアーチャーはひとまず暖を取ろうと、かつて利用した喫茶店に行くことにした。
ああ、思い出した。思い出したけれどら全く分からない。制服で出かけるなんてあの人は言ったが、今私は防寒着を身に纏っているし……。なんか時々発想が、おじさんみたいになるんだよな、あの人。
ちらりとアーチャーを横目で見る。
外灯に照らされたアーチャーは、内側から儚さが滲み出ているに美しかった。前からアーチャーの容姿が目立つのは分かっていたが、こうして暗い場所にいるとアーチャーが更に目立ってくるような気がした。私の目の錯覚、及び気のせいかもしれないが。
ぼんやりアーチャーに目を奪われていると、私の視線に気付いたのか、アーチャーが私の方を向いて、ぱちりと音が鳴ったかのように目が合う。アーチャーの口角が上がる。
「なんだ、僕に見惚れているのか?」
「はい」
「……随分と素直だな……。なんか調子が狂うぞ」
私を揶揄う顔から気まずそうな顔へ変わる。なんだ? 面白い人だなあ。