天国の端っこをみたことがあるかい
※30X話前提。
臓物島の糸色の家に来た。
潮風が寒さを纏い、私の体に吹き付けてくる。容赦なく体温を奪ってくる気持ちの悪さに身を竦ませながら、足を早く動かした。
彼の妻ではない子に迎えられ、明暗どちらに内装を彩られているか検討つかない家に、私は上がり込んだ。
静けさに満ちた家である。多くの住人がいるはず、だというのに、この家は賑やかとは遠い家だと、ここへ来る度に実感する。
客室に通され、座布団を勧められたので、素直に座る。温かいお茶と茶菓子を出され、もうすぐ帰ってくると言う家主を、私はここで待つことにした。
退屈だからと、温かいお茶と茶菓子を出してくれた子に、話し相手になってほしいと頼めば了承してくれた。
当たり障りのない世間話で情報を交換する。家主の望さんは相変わらず、元気にここで妻と仲睦まじく暮らしているようだった。これ以上、悪化していなくて、安心をしてしまった。安心するところではないだろうが。
じわりと、手に汗をかいてしまう、不快だった。冷たい水で冷やして、汗を流したかった。
「……ごめんなさい。ちょっと、お手洗いに行っても?」
お手洗いを目指す。その道中のいたる箇所に、やはり彼女たちの影があった。今も変わらずに。
目的地に辿り着く前、とある部屋の障子が僅かに開いているのが目に入ってくる。あそこの和室は一体なんだろう。前を通ったこたはある、しかし、中を見たことはなかった。望さんがまさか、家の中を案内するわけないし。家の中を案内ってなんだ?
私は何かに惹かれるように、その部屋の前にへと移動する。僅かな隙間から中の様子を覗いてみる。何も考えずに。
写真。
写真、写真。写真、写真、写真。
写真があった。壁にたくさんの写真が。
結婚式の時に撮られたであろう写真が部屋いっぱいに飾られている。一枚一枚、確実に違いがあって、明確に変化のない所があった。あまりの光景に絶句する。日の当たらない部屋は暗く、その異様さが際立つようだった。
写真だけの部屋? 私は恐怖心を抱いているにも関わらず、眼球を動かし、部屋の情報を得ようとする。
畳があり、座布団があり、座布団の上には何かがあった。
座布団はふかふかで、一目見て上質なものだとわかった。女の子が好みそうな色と綺麗な刺繍のされたデザイン。その上に白い何かがある。
骨壺だ。
「──」
骨壺が座布団の真ん中に丁寧に置かれている。
望さん。
咄嗟に彼の名前が頭を過ぎる。この部屋を作ったであろう人の名前と顔が。
手洗いを済ませて、客間の戻ると、目当ての家主である望さんがそこにはいた。私はそそくさと座布団に座る。
「名前さん、お久しぶりです。お元気でしたか?」
薄ら笑い、私に対して流れるような挨拶をしてくる望さんに私は頭を下げる。
「お久しぶりです。私は元気です。望さんは如何ですか?」
「私も変わりなく過ごしています。今日は、何か用事があるのですか」
「いえ、望さんと……、奥様のご様子が気になって、思い立ってきてみたのです。事前に連絡せずに、申し訳ありません」
「来客も滅多に来ませんから大丈夫ですよ。ああ! そういえば妻が貴方に挨拶をしたいと言っていましてね。今は買って来たものをしまっていますが、用事が済めば来るかと」
「そうなんですか。ぜひ……、挨拶をさせて下さい」
明るく言う望さんに私は大人しく頷く。先程まで、私の世間話に付き合ってくれていた彼女はいなくなったいた。
望さんの妻は今日はどんな人だろう。彼女たちの影はたくさん見かけたが、姿を見付けられたのは数人程度だった。そういえば、彼女たちには子供がいた、世話をしないといけないから、見かけなかったのかもしれない。
──あの部屋のこと。
一面の写真、かわいい座布団、骨壺。目の前に座す男は素知らぬ顔で、いつの間にか淹れてあった茶を飲んでいる。
望さんの結婚生活について、命さんに何回も尋ねた末に知った真実、倫さんが語った望さんの純愛。全て本当の話で、私は心の底から恐ろしくなった。
彼の仕事について知っている。昔から家族ぐるみで付き合いがあったから、余計に。だからこうなったことが、私の恐怖心を更に増幅させた。
あの骨壺は、彼の純愛の一部なのか?
あの子には家族がいて、……結構複雑ではあるが、家族がいたはずで遺骨はその家が管理しているはずだ。……そのはずだ。
どうして……、望さんの手元に、あの子の遺骨がなんである?
足音がきこえてきた。望さんが微笑む、愛おしげに。
「お待たせしましたー」
声がきこえる。障子がすらりと開き、彼の妻のあの子が私の前に現れた。大きな腹を抱えて。