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 よく洗濯物が乾きそうな晴天だった。名前が洗濯物を干す姿をアオイは見守っていた。
 名前がなぜか半泣きの善逸を支えながら廊下を歩くのをアオイが目撃した日から、元気のなかった名前は少しずつ元気になっていった。名前の様子はゆっくりといい方向に変わっていっているのが、アオイには分かった。
 まだ表情は固いが、今もなほたちと仲良く協力しながら輪に入り、せっせと洗濯物を干している。

「名前さんは善逸さんはどういう関係なんですか?」
「はい?」
「よく善逸さんとお話をされているので、……昔からのお付き合いなんですよね」
「そうですね。昔から我妻さんにはよくして頂いています」

 ええ、と幼い少女たちは意外だと言わんばかりに声をあげる。その反応に名前は困ったようにしている。来たばかりの頃では考えられない表情だ。
 洗濯物を干し終え、いつも通り少女たちはそれぞれ手分けして、アオイを中心に行動を始める。名前ももう倉庫の整理整頓を済ませたため、以前のように少女たちの輪に加わり、アオイの手伝いをしていた。
 最終決戦からある程度日が経った。軽傷の者はもうすぐ完治といった状態で、負傷者だった者の怪我は徐々に完治していっている。
 名前に指示を出し終えたアオイは、思い切ってあの日のことを訊いてみることにした。ずっと心配していたのだ、これぐらいはきいたって罰は当たらないだろう。

「名前さん。あの日、善逸さんと何があったんですか」
「あの日?」
「一週間前……、朝から半泣きの善逸さんをあなたが支えていた日があったでしょう」
「ああ。……その、ちょっと話をしたんですよ」
「話?」

 善逸が半泣きになる話とは一体。

「うーん。なんていうんでしょうね。話っていうよりあれは……」

 ぴんときていないアオイの様子に、どう説明をしたらいいのだろうというように名前は考え込む。少しの間悩んだ名前はこれだといった表情で、「嬉しいことを言って頂いて、それについて悩んでいたんです」と答えた。アオイは促す様に声を出す。首を傾げる。嬉しいこと、とは一体どんなことだろう、アオイにはちっとも想像がつかない。

「嬉しい事」
「はい、うれしいことです。返事をしたいんですけど、色々思うことがありまして」
「思うことですか?」
「まあ、蕎麦屋をやるにも、慣れた土地から引っ越すにも覚悟っているじゃないですか。その覚悟を決めているところです」

 名前はそう言って笑った。覚悟を決めなくてはいけないこととはなんだろう。気にはなったが、これ以上の追及はよくないだろうとアオイは思ったので、「そうですか」と言って持ち場へ行くために名前と別れた。
 ちなみに目的の場所にいくのは大部屋を通らなければいけないのだが、傷がそれなりに治癒したからと大部屋に移動した善逸が何故か奇声を上げて悶えていたので、いつも通りにアオイは善逸を叱った。しかし善逸からはなぜか感謝の言葉が返されたので、アオイは全く訳が分からなかった。