01

 木の葉が重なった影がはっきりと風に靡く様が分かる、日差しが強い昼頃だった。
 桑島が同い年ほどの少年を連れてきた時、名前はいつものように玄関の掃除をしていた。
 箒を持ち、伺うように二人を見る名前を視界に入れた少年――我妻善逸はおろおろと彷徨わせていた首も瞳も真っ直ぐに名前へ向ける。浮かんでいた困惑はどこかに飛んでいってしまったかのようだ。
 先程とは全く違う様子に名前は不思議そうにしながらも、桑島へ「この人はどなたですか?」と尋ねる。

「こいつは我妻善逸。今日からここで剣士として育てる」
「そうなんですか。じゃあ必要なものを用意しますね」
「まずは着替えを頼む。体の汚れを落とさないといけないな」
「転んだんですか? 怪我をしているのでしたら、手当てをしますけど」
「あとでしてくれ」
「分かりました、着替えをとりに行きます。……ああ、我妻さん、名字名前と申します。お好きなように呼んでください。では失礼します」

 ぺこりと二人に頭を下げた名前が足早に箒を片手に庭の方に行く。その途中、着替えをどこに持って行くかの確認をし忘れたことを思い出したが、なんとかなるだろうと桑島の元に戻ることなく歩を進める。
 だんだんと小さくなる名前の背を善逸をそっと見つめていた。


 名前は桑島が稽古をつけている剣士ではなく、ここで住み込みで働いている家事手伝いの少女である。
 そう今日から過ごすこととなった部屋で名前を改めて紹介された善逸は無言のまま、せっせと持ってきた衣服を善逸に見せながら箪笥にしまっていく名前を目で追っている。

「寝巻はこちらで日中着るのがこちらです。足りなかったらいって下さい」

 見つめているのに名前と目が合うと動揺したようにあわあわと忙しなくなる善逸へ、桑島は何か言いたげに複雑そうな眼差しを向ける。そんな桑島の眼差しに気付いた善逸はなにその目という込み上げる叫びを堪え、意を決したように口を強く引き結んでからそっと開いた。

「え、……とお……、名前、ちゃん」
「はい。もう何か必要になりましたか。それともこの柄が好きじゃありませんか。今着ていらっしゃるものと似たようなのがいいでしょうか、それともさっきまで着ていたのがお気に入りだったんでしょうか」
「ええっと、そうじゃなくて、大丈夫? 」

 ぴたりと名前の口が止まる。衣服に向けていた顔を真っ直ぐに善逸に向ける。目をゆっくり瞬かせた名前は善逸の言いたいことがよくわからないとでも言いたげに首と傾げる。

「大丈夫ですよ。何がかはわかりませんけど、特に問題はないので大丈夫です」
「そ、そっか」
「ああ、ほら、怪我。けがの手当てをしましょ」

 名前は善逸を座るように促す。言われるがままに善逸は座布団に座り、名前に手当てをされていく。桑島は名前の傍らに座り、名前の手当てを判断する目で見守る。
 蝋燭はないが、昼間だからそれほど暗くはなく視界は鮮明だった。手を動かす名前にはそれが救いだった。