※カナエさんがいた頃。
※捏造。


「カナエさま、しのぶさま」

わたしはカナヲを連れ、ぶんぶん二人に手を振る。
カナエさまはわたしの名とカナヲを呼び、手を振り返す。しのぶさまはいつも通りのきりっとした表情を綻ばして、控えめに手を振ってくれた。

「えへへ、おかえりなさい!」
「名前〜カナヲ〜ただいま!出迎えにきてくれたの?」
「はい!」
「ただいま、何か変わりはなかった?」
「ありませんでした。あっ、お二人がいない間に受け入れた患者さんの一覧を作りましたので、後でご確認下さい。カナヲも手伝ってくれました!」
「ありがとうね。名前、カナヲ、二人ともよく出来ました」

カナエさまにぎゅっとカナヲと共に抱き締められる。しのぶさまがやさしい眼差しでわたしたちを見ていらっしゃる。カナヲは反応をしていないが、最初に会った時よりかはずっと無反応ではなくなっている。よかったなあ。
カナエさまがあっ!と声を上げて、ぱっとからだをわたしたちから離す。

「そうだ、お土産買ってきたのよ。みんなで食べましょ?きっと美味しいわ」
「はい!行こっカナヲ」
「あっ、姉さん!」

カナヲが頷く。カナエさまがしのぶさまの手を取った。
蝶が辺りをひらひら飛ぶ。花の呼吸を習得してから、蝶が寄ってくるようになった。これは花の呼吸の影響かもしれない。蝶が見て、それからカナエさまの後を追って、蝶屋敷に向かう。
日々はいつもやさしくて温かく、心地良い。
あの日もう二度と触れられないと覚悟した幸せが今わたしの傍にある。このままずっと幸せが続けばいいのに。
カナエさまとしのぶさまはわたしをこの蝶屋敷に連れてきてくれた。
鬼に家族を皆殺しにされ、危うく鬼に殺されそうになったわたしを助けてくれたのだ。
鬼殺隊の隊士として育ててくれた、蝶の髪飾りをくれ、家族のように毎日を過ごた。
何年経っても返しきれない恩である。
わたしきっとカナエさまとしのぶさまの期待に応えます。
指導して頂いたことを必ず生かし、鬼を殺します。
そしてカナエさまとしのぶさまがわたしを救って下さったように、わたしも鬼によって苦しめられている方たちを救うんだ。

わたしは夢を見る。いつもせまりくる現実の中で夢を見る。血の匂いのする厳しい中で蝶を追う。

2019/5/3