近所に甘露寺というお家がある。
わたしはそこの娘さんの甘露寺蜜璃さんと同い年で幼馴染だ。
蜜璃さんは明るく元気がいい性格で、誰に対しても分け隔てない態度で接する近所でも評判の美人さんである。
で、そんな蜜璃さんがお見合いをした。
蜜璃さん本人が教えてくれたから、これは確実な情報だ。わたしは、本当に、衝撃を受けた。
わたしにも許嫁のような方はいらっしゃるけれど、蜜璃さんはわたしと同い年だからいつかは決められた方と子をつくるとは分かっていたが。その時は何とか笑顔を浮かべて見せ、なんとか乗り切ったが、後で密かに落ち込んでしまった。
蜜璃さんが結婚するのがいやってわけではない。でも……。
梅の花が綻びかけるお見合い当日、わたしは一人そわそわと挙動不審だった。きっとお見合い相手の方はすぐ蜜璃さんを気に入り、お見合いは成立するはず。ちょっとだけ寂しいがこれも仕方のないことだろう。わたしだって、いずれ嫁に行く。今はまだ時期ではないと父が言っているだけで、父が相手の方に言えばすぐにでもわたしはお嫁に飛ばされるだろう。

断られた。断られた?蜜璃さんがお見合い相手に?
理由を口籠るに、きっととてもひどいことを言われたのだ。付き合いが長いため、何となくわかる。
許せないと思った。蜜璃さんを傷付けるなんて、許されることではない。相手の男は何てやつだ、おそらく節穴でろくでなしだ。こんないい子、他にはいないのに。目を吊り上げるわたしに気付いたのか、蜜璃さんがあわあわと手を宙に彷徨わせる。

「名前ちゃん!?どうしたの。すっごく不機嫌な顔してる」
「だって……許せないじゃないの、蜜璃さんにそんな顔させるなんて」
「名前ちゃん、やっぱり、やさしいのね」

俯いてしまった蜜璃さんへわたしは何て言葉をかけたらいいかわからなかった。
それからすぐに蜜璃さんは自分の個性を否定するような行動を取り始めた。
やはり相当落ち込んでいる!食欲もないみたいで全然食べない、日に日に蜜璃さんは弱っていく。
わたしは蜜璃さんをそうした相手に激しい怒りを抱いた。
蜜璃さんをああした男がひどい目にあえばいい。ひどい目にあいますように。他人の不幸を願うなんてと冷静な自分が訴えてくる、しかしどうにも自分の感情が抑えきれない。感情が徐々に冷静な部分を喰らい始める。
こんなに蜜璃さんへ入れ込むわたしを不気味に思ったのか、ある日父に呼び出されたわたしは、母を従えた父からすぐ次の大安に嫁はいけと告げられる。
そんなすぐに出来るものなのかと驚くも、着実に準備はされていたことを思い出し納得する。
父の顰めた表情と母の気遣わしげな表情が苛立たしい。
ところで百度参りはどこの神社でするのが良いだろう。二つ、どうしても叶えたい願い事が出来た。
別の神社を二つ選び、別々に百度参りをするのと一つの神社で百度参りをし終えた際に二つ願い事をするの、どちらが早く叶うだろう。時間がない。


2019/5/3