※捏造。

名前は昔から魚を食べるのが苦手だ。何故なら骨を取るのがちっとも上手くならないからだった。
取ろうとすればあっというまに魚の死体を猟奇的にしてしまう。遊んでいるつもりなんてないのに怒られる。名前は真剣そのものであるのに。日本中探しても名前ほど魚の骨と真面目に向き合っている人などいないだろうに。理不尽に対する怒りと、魚を酷い有様にしてしまう罪悪感から、名前の苦手なもの一位に骨のある魚料理はいつも堂々と輝いている。

高校に入学してすぐ、ハニワだかナニワだか全く耳慣れない職の審神者の適性があると判明した。高校は勝手に中退させられ、審神者に無理矢理就職した名前は本丸に監禁された。いや、なってすぐの頃は帰れたのだが、いつだったか霊力の強い審神者が帰省時に拉致され、時間遡行軍に惨殺されてからは一歩も出られなくなったのだ。
名前の初期刀は骨喰藤四郎という美しい刀だった。銀とも見える髪に、紫に近い色の瞳は刀剣男士と呼ぶに相応しい容姿で名前は目眩を覚えた。実際に霊力を初めてまともに使用したせいで目眩を起こしていたせいもある。
審神者になった名前にまず下されたのは、『一、二ヶ月ほど骨喰藤四郎とこんのすけのみで本丸を運営』だ。
データをとるらしい。データをとらないで審神者をやらせるのかと気が狂いそうになった。審神者として最初に集められた名前たちはモルモット、つまりは実験体だ。人権とは一体。
恐怖のストレスで何を食べても美味しくない。やってられない。名前の精神はみるみる内にダメになった。

その日、名前はこんのすけに説得され、助言を貰いながら魚を焼いていた。肉ばかり焼いていたのがいけなかったようだ。まーた魚に嫌な思いをさせられるのかと名前は憂鬱になる。
審神者になるまで料理をしてこなかった名前は、実験の為に料理をすることを強制させられている。何の実験か説明されていない。名前が料理を作り、それを刀剣男士と共に食べる実験で何が分かるんだろう。

魚が焼けてしまった。

戦場から帰還し、風呂から上がった骨喰は出された質素な食事に何も言わなかった。ただみている。骨喰は少し無口な刀であった。名前もあまりお喋りではない為、骨喰相手は話題に悩む。どう接するべきかわからない。骨喰は刀剣男士で、名前は主だから無下にはされていない。こんな主と管狐しかいない状況で不安だろう、記憶だってないのだし。しっかりしなくてはとは思っている。しっかり主らしく、しないと。けれど、どうにも難しい。思うように振る舞えない。名前は切なくて仕方なくなった。早く時が経たないかなあ、早く兄弟?を顕現して会わせてあげたいな。

「……食べよう。いただきます」
「ああ、いただきます」
「いただきます!」

こんのすけのワクワクした声が一番大きい。そんなに油揚げが好きなんだ。
骨喰は名前が魚の死体をどうしようが小言一つ言わないだろうが、作法はきちんとしていた方がいい。何故だがわからないけど、骨喰は箸使いがとても上手いのだ。人間の名前よりも。ちらりと骨喰の様子を見る。お揚げを食べるこんのすけを見る。こんのすけはいいなあ。お揚げなら名前だって上品に食べられる。
白米、味噌汁、漬物に魚。魚は後回しにするか、でもそしたら漬物だけがおかずだ、どうしよう……と名前は骨喰の箸使いに気が付く。魚の骨がとても上手に身から離されている……。からだが震える。今まで見たことのないほど綺麗な離し方だった。だからなぜそんなに箸使いが上手いんだ。

「ほ、骨喰……」
「なんだ?」
「私の、私の骨もとってください」

ずい、と箸と魚がのった皿を名前は骨喰に差し出す。作法とか主だからとか拘っている場合ではない。まるでマザコンっぽい頼みだと冷静に思っている場合でもない。
そして名前は久々にとても綺麗な焼き魚を食すことが出来たのだった。