※現パロ?
※17歳設定

「いやぁ、死ぬかと思っちゃったよ。助けてくれて本当にありがとうね、義勇ちゃん。ぜーんぶ義勇ちゃんのおかげ!」
「……」
「目で訴えないで口使って」

無言怖いんだよなぁ。多分何かしら相手にかける言葉を探しているだけなんだろうけど、相手からしてみれば無言で威圧しているとしか思えないんじゃないかな。前々から私、治したらどう?って言っているのに。私の意見を受け入れてくれない癖して、自分の意見は私に押し通そうとしたってそうはいかないんだから。

×

死にかけた。
詳しく言うと、鬼に殺されかけた。
平成にもなって鬼とか昔話に洗脳でもされたのか、それとも異国の人間を指しているのか、正気を疑われるだろうがこれは本当だ。
この世には鬼がいて、その鬼を退治する鬼狩りも存在する。
私、名字名前は鬼狩りをしている。
鬼狩りを知ったきっかけは師匠からのスカウトだ。街中を歩いていたら突然、貴方には才能がある!と勢い良く迫って来たのだ。厳つい人相の四十代後半の男性に迫られた私は命の危機しか感じず、勢いに押し負けて首を縦に振ってしまった。振ってしまったのだ。
あれよこれよという間に家に連行され、鬼狩りって一体何なの〜と困りながら渡された木刀で、言われるがままに素振りしていた時、姉弟子から冨岡が鬼狩りをやっていることを知らされた。
私と冨岡は幼馴染だ。あいつとはそれなりに長い付き合いになる。にも関わらず、冨岡が鬼狩りであると初めて知った私は冨岡って隠し事が案外上手いだったんだ……と驚いたものだ。あんなに一緒にいるにも関わらず、全く気付けなかった。しかも友人の錆兎と真菰も鬼狩りだった。もう鈍いとかの次元じゃない、頭機能していないんじゃないの私。自分に対し落ち込んだり、何で黙っているんだ!と冨岡たちに憤りを覚えたりもした。憤りも疎外感も私が鬼狩りになったと知った冨岡が激怒したせいで吹き飛んでったけど。冨岡が鬼狩りである情報が私に入って来た時、私が鬼狩りになった情報も冨岡に入っているのである。
激怒。目を見開き、口を大きく開け、腹から出した声は鋭くて。
どうやら私が鬼狩りになったことを冨岡は許せないらしい。鬼狩りは鬼との殺し合いを毎夜していて、命を落とす可能性が大きく、危ないから私がやるべきではない、とのことだ。
私も激怒した。そんな危ないことを私に黙ってやっていたあんたは何だ、私のことを怒れるのか、と。
無口だが我の強い冨岡と、我が強い故に大人しくしている私。これでよく何年も一緒にいるのが不思議だ。怒鳴り合いは取っ組み合いになる寸前、錆兎と真菰が素早く止めてくれた。
最終的にお互い譲らないと確認し合い、納得していないが、何とか鬼狩りとして協力をする結論に辿り着いた。

死にかけた。けど、冨岡が助けに来てくれて、私はこうして生きている。鬼につけられた傷は痛むが、何とか無事だ。意識だって飛んでおらず、最初から保ち続けている。
鬼狩りかかりつけの医院の病室の白いベッドの上に私は横たわっている。

「義勇ちゃんはもう帰った方がいいよ。私は大丈夫だし」

戦闘中、頭を打った私は大事を取り、ここの医院に泊まることになった。冨岡は怪我一つないのに、私が寝ることになったベッドの側にパイプ椅子を置き、それに長らく座り込み、全くと言って良いほど帰ろうとしない。
冨岡とは反対にある窓から太陽が沈もうとしている様が見える。橙と濃紺のグラデーションに染められた空と、ぼんやりとその二色を溶かしたような雲を見て私は帰宅を促す。しかし私の言葉に冨岡は頷かず、堂々とあっさり返答する。

「なぜだ」
「はあ?なぜえ?う、ううん。ね、もう遅いし、危ないから」
「ああ、後少しで帰る」
「本当に?義勇ちゃん、こんな時だけ目を逸らさないで。私の目を見て、ね」
「後少しで帰る」
「はあ、そう。……とみ、……義勇ちゃんは仕方ないね……」

冨岡は頑固だ。こうと決めたら中々動かないので、私は帰宅を促すことをすぐに諦める。
私を心配する冨岡の気持ちは分かる。私だって冨岡が怪我を負ったら同じ行動をとるだろう。
でも、私の怪我って大したことないんだけどなぁ。血が多く出ただけで、傷自体は深くないらしい。ぐるぐる額を守るように巻かれた包帯を撫でる。冨岡がすぐに反応した。

「痛むのか」
「ううん、全然」

痛いけど、痛くない。
額を傷付けられ、流血した私。崩れ落ちる自分。鬼。私の肩をびっくりするくらい強く掴んだ義勇ちゃん。鬼と対峙した義勇の顔。顔、表情。アスファルトに散らばる赤い血。義勇の日輪刀があっという間に鬼の首を斬った、その切り口が鮮やかだったこと。傷を抑えながら体勢を崩す私を、義勇が抱き起こした時に触れた体温とかが。くるくる回る。
……怒られなくてよかった。だからやめろと言っただろうと怒鳴られれば、私はきっと何も言い返せない。まだ怒っていないことに気付かないで、お願い。心配だけしていてよ。
だって私、何も出来ていないのだから。貴方に何も、できていないのだから。

2019/9/27
修正 2021/2/15