私の家の近所には時透という家があり、四人家族で父親と母親、双子の兄弟が住んでいる。
私、名字名前はその双子の兄弟の有一郎と無一郎と歳が近く、小さい頃から親交がある。思春期を迎えた歳になっても、血の繋がりのない男子と女子にしては、私たち三人の仲は良好だ。

二人の外見はそっくりで見分けがつかない程で、長年一緒にいる私ですら判別出来ない。だから性格で見分ける。
気が強く、言い方も強い方が有一郎。
気が少し弱く、わかりやすく優しい方が無一郎。
有一郎が優しくないわけじゃない、ただ相手を思って言い方が厳しくなってしまうだけだ。
しかし性格で見分ける方法もあまり通用しなくなってきた。

一昨年、去年あたりか。
有一郎と無一郎の誕生日だった。前日の土砂降りが嘘のようにからっとした晴天だった。夏休みだからと惰眠を貪ろうとする私を母親は許してくれなくて、私は叩き起こされたのだ。
家のチャイムが鳴ったのは八時だったと思う。丁度、朝の連続ドラマを母親が観ていたから。
部屋着に着替えた私が玄関に向かった。母親が出なかったのは何故だかは忘れた。朝ご飯を母親が食べていたかもしれない。私が出たことだけはわかる。
玄関先には有一郎がいた。
おかしなことはない。有一郎と無一郎が私の家に遊びによく来たし、私が有一郎と無一郎の家に遊びに行っている。
しかしこんな早い時間に来るなんてことはなかったから、私は驚いて有一郎をまじまじと見てしまった。

「ごめん。こんな時間に。ちょっと来て」
「え?なに」
「無一郎がどうしてか泣きやまなくて」
「なんで泣いているの?」

ひとまず私は有一郎についていくことにした。有一郎が無一郎が泣いていると私に言い、来てくれと頼んできたのが初めてだったからだ。大抵無一郎のことは有一郎がなんとかするか、更に泣かせるかするのに。
無一郎は朝起きて暫くしたら泣き出したらしい。しかも無一郎を慰めようとする自分たち家族を見る度に、無一郎の涙がどんどん溢れてくるのだ。とりあえず有一郎は、私を連れて行って無一郎の様子を見ることにしたらしい。

「無一郎は名前の名前は呼んでなかったから」
「名前」
「父さん、母さん、兄さんってずっと呟いてるんだ」

結局私を見た無一郎が更に泣く勢いを強めたので、有一郎が無一郎に強く言う展開になった。

それから無一郎はたまに有一郎のような言動をするようになった。
数ヶ月後には何故か生傷が絶えなくなり、剣道部でもないのに竹刀袋を持ち歩く。有一郎とも別行動が多くなっていき、歳上の男子と歩くのを見かけるようになった。
かといって、私と有一郎は無一郎に蔑ろにされることは無く、逆に大事に大切にされた。変わる前から大事に大切に思われたいたが、今はちょっと大袈裟だと苦笑が出てしまう位。
そうそう命を落とすような出来事なんてないだろうに。

「名前」

でも私に対して笑う無一郎を見ると、いとしくて大袈裟とか言えなくなってしまう。何も言えなくなる。
あの日からずっと。