東さんと会った。

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ロマンチックに思われるかもしれないが、夢の中で東さんに会った。
明晰夢、と言うものだろうか。夢の中の私は見たことのない遊園地を自由にあちこち歩き回っていたから、夢の中の私は好きなものを手にしていたから、恐らくそうだ。
で、なんだ。何を言いたいのかといえば、私は東さんと会うのを勝手に気まずく感じている。
起きた時から、まあ、いつもとは違う雰囲気の夢だなとは心臓をバクバクさせつつ感じていた、しかし所詮は夢だと切り捨てた。が、でもなんだか気になるなあと、夢占いで夢に出てくる人 異性 と調べた結果、勝手に気まずく感じるようになってしまったのだ。
まさか、いや、確かに東さんは常日頃から余裕があって皆から頼りにされる格好いい人だけど。理想としている恋人像の象徴ってなに?気になる人ってなんだ?
東さん相手に胸の高鳴りを覚えたことないんだけど。無意識の間に好意を抱いて……はないなあ。自分の考えにあまりピンと来ないから、これは間違ったものだろう。だから気まずい思いをしなくたっていい、はずだ。

「好きなんじゃないの?」
「ちがうよ」

いいはずなんだけどなあ。学校で友だちに夢のことを掻い摘んで話したところ、冷静にそう返されてしまい、私の気持ちはちょっとだけ揺らいだ。茶化されるように、揶揄うように言われていたら堂々と違うって返せたのに、友だちは冷静に真剣な眼差しで自分の考えを伝えてくれるから、少し動揺してしまう。意識をしてしまう。落ち着かないと、だって今日はボーダーに行く日なんだから。だが、そんな簡単にあっさりと芽生えた意識を変えられるわけもなく。放課後、私はどんな顔をすればいいのかを決めかねているにも関わらず、ボーダーに来ていた。

必ず。必ずしも東さんが来ているとも限らない、もし会ってしまっても案外何とも思わないかもしれないし!と、ネガティブかポジティブか分からない励ましで自分を鼓舞したのは私自身である。楽観的だろうが、そう思い込まなければ行きたくない気持ちを振り払えないのだ。どうやら東さんは今日、来ているらしい。私は今のところ見かけていないが、ほかの人たちが色々話していたので来ているんだろう。


「ああ、名字」
「こんにちは、東さん」

東さんに会った。
狙撃場へ向かう途中にばったりと偶然。こんなことあるか?東さんはいつも通りの表情だ。私はどうだろう、引き攣ってはいないはずだ。多少動揺はしたが、ばったり出会したことに驚いたんだろうと思われる範囲のはず。私の臆病な性格は東さんだって把握している。本当に心臓がバクバクしている。夢から覚めてすぐの時みたいだ。会ってしまった。うん、いや、でも、なんとも思わない、思わない、よし。ゆっくりとだけど落ち着いてきた。ほら、大したことない。今だって心中ではこんなに慌ただしくしているが、外ではきちんと東さんと話している。話しているよね?もうわからなくなってきた。

夢の中の私は遊園地を自由にあちこちを歩き回り、好きなものを好きに手にしていた。
私がみた夢が明晰夢ならば、夢の中の東さんの言動すべては私が望んだことになる。
であれば、あの東さんの行動は実は私の願望だったのか?違うと断言出来る、しかし、無意識では分からない。東さんに強く抱いている憧憬が実はまた違った感情かもしれない。

「で、名字はこうなった時、どうする?」
「そうですね……、動かない方がいいかと思いますが、まずは状況を確認します」
「あ、名字、ちょっと止まってくれ」
「え?はい」

言われた通りに立ち止まる。何だろう?色々悩んでいるのがバレちゃったかな。
と。顔を覗き込まれる。大きな手が迫り、私の肩に制服に触れる。

「ゴミがついてたぞ」
「……ありがとうございます……」

ここで、あの東さんがした行動と似た様な行動をとらなくても良くないか。流石にちょっと出来過ぎじゃないか?次々と誰にぶつけるわけにもいかない文句が湧き上がるのを隠し、私は東さんにお礼を言った。