※好きな花を想像しよう!
※謎時間軸。


 蘇枋くんに花を渡そう。
 電話でいきなり会おうと言われ、会って早々いきなり花を渡された蘇枋くんは、飄々とした顔を保つことが出来ていなかった。というより、今日は飄々とした顔をしていないかも。
 電話の時は分からないけど、待ち合わせの公園で花を腕の中に収めながら、蘇枋くんを待っていた私の元にちょっと焦った顔でやってきたし。暗い公園に一人でいた私に危ないよと、注意してくれた時は真剣な顔だった。その花は? と聞かれた際にすかさず「蘇枋くんにあげたくて」なんて本当のことを正直に話せば、驚いたのか少し目を大きくしていた。
 今だって、そう。じっと真意を伺うように私を見つめている。外灯に照らされているからか、いつもより蘇枋くんがミステリアスに見える。なら、私もミステリアスに見えているかも。外灯に照らされている上に花を抱えているし。

 「……これを、オレに?」
 「うん。綺麗でしょ。蘇枋くんに渡したくて買っちゃった。受け取ってくれる?」
 「……もちろん。ありがとう、嬉しいよ」

 一瞬、私の言葉に蘇枋くんは固まって、それからなんでもないように笑った。
 私が抱えている花を受け取ろうとする。蘇枋くんが花に触れそうになって、ようやく私は声を発せれた。

 「この花を受け取る意味、蘇枋くんなら分かるよね」
 「え、」
 「わかるよね。だって、蘇枋くんが私に花について教えてくれたんだから」

 私にとって花は風景の一部で、咲いていたのなら喜んで近付くけれど、咲いていないただの草の状態だったら、草と認識して近付かないでスルーするようなものだった。
 それを変えてくれたのが蘇枋くんだ。
 蘇枋くんは花に近付いたり、咲いていないからとスルーしていた私に、花の名前、花言葉、いつ頃咲くのか、名前の由来、渡す意味を教えてくれた。それからというもの、花といえば蘇枋くんで、私は花を目にすると彼を思い出すようになった。
 何の確信もないから、花を渡すだけにしようかと思っていたが、受け取ってくれるかどうかを尋ねた時に、蘇枋くんが一瞬だけ固まった際に浮かべた表情に、言う気のなかった言葉を口にしてしまった。咄嗟に形作った言葉だったから、全く気遣いのない、なんだか脅すような意味を含ませたものになっちゃった。どうしよう。意味が分からないって拒絶されたらどうしよう。出来れば拒絶した後から、私が口走る前と同じ態度で接して欲しい。無理かなあ……。
 なんで私、花を買っちゃったんだろう。店先でこの花を見た時、これを蘇枋くんに渡したい! っていう強い気持ちが込み上げてきたから。丁度、手元にお金もあったし、善は急げっていうし。
 蘇枋くんを呼び出したのは、この花を一番綺麗な状態で蘇枋くんに渡したかったからだ。蘇枋くんの家は知らないので、電話をした。
 本当になんで私はあんなことを口走ったんだろう……。もう少し蘇枋くんにアタックをしてから言うものを、どうしてこんな確信もなく……。でも、だって、蘇枋くんのあの顔が、私の願望からの幻覚でなかったとしたら、期待してしまう表情をしていたはず。
 ていうか蘇枋くんの家に花瓶ある? 花瓶の有無を確認せずに花を買っちゃったんだけど、無かったらどうしよう。今から買いに行けばいい? なんで確認しなかったんだろう、変にサプライズしなければ良かった。私って最悪。

 「うん」

 あらゆる後悔に身を引き裂かれている私の耳に、蘇枋くんの声が届いた。は、といつの間にか花の方を見ていた顔と意識を蘇枋くんへ向ける。

 「分かるよ。だから、受け取っていいかな」

 見たことのない表情だった。いつも飄々としている蘇枋くんがどこにも見当たらない。余裕のない、苦しげにも映る、そんな表情。
 拒絶された時の心構え、その後の蘇枋くんの態度に対する不安、そうなった場合の私の感情の行き先って? といった全てがどこかへ飛んでいく。

 「ど、どうぞ」

 動揺しながら返事をした私に、蘇枋くんが距離を詰める。花が私の両手から離れていき、蘇枋くんの両手に収まる。綺麗だ。やっぱり蘇枋くんによく似合う。店先でこの花を一目見た時からずっとこの花と蘇枋くんがくっついている姿を見たかったのだ。

 「ありがとう」

 蘇枋くんがじ、と私を見つけたまま目を細め、口角を上げて、やわらかく微笑む。
 心臓がどきどきとうるさく音を立てる。今更緊張してきたみたいだ。
 これは……、告白を受け取って貰えたのかな。意味は分かるよね、と私は言って、分かるよと蘇枋くんは返事をして受け取った。じゃあ、つまりなんだ、告白は成功したのかな? どきどきしすぎて天に昇りそうなんだけど、もう帰ってもいい? なんかもう駄目だ。
 温度のある瞳で両手にある花を見つめている蘇枋くんがあまりにも素敵で、なんだか無性にここから立ち去りたくなってきた。
 風の吹く音、風で揺れる木々や草に対しても、何故だか恥ずかしさを抱き始めてくる。
 これがドラマだったら、両思いにお互い感激して抱き合うのかもしれないが、生憎これは現実で私は蘇枋くんに抱き付く勇気はない。
 いつ蘇枋くんに「もう今日は帰ろう。来てくれてありがとう」って言おうか迷いながら、蘇枋くんを飽きることなく見ていれば、花から私の方へ顔を向けた蘇枋くんと目が合う。確かな、熱を感じる。

 「オレも、名前さんが、好きだよ」

 蘇枋くんに殺されるかと思った。瞳にも声にも込められた熱は、今まで見たことがなかった。これは、私に対してだけのものだと、たちまち理解できてしまうようなものだった。それに気付いてしまえば、一気に私の頬が耳が体が熱くなる。何回も縦に頷く。心臓の痛みだけが、頬をうっすら赤く染めて微笑む蘇枋くんは、現実だと教えてくれていた。