※ぼんやりとお読み下さい。fateのような細かい設定はないです。すみません、次はちゃんとします。
※会話なし。場面転々と変わります。
※個性あり。



 稲光が男になる。
 白髪に曇天色の肌の巨大な体を持った男。
 先程まで酷く崩れていた天気は急激に持ち直し、青空がどんどん広がっていく。
 唖然とする女は、その一連の現象に絶句をしていた。
 コンクリートの汚れた地面にへたり込む女の元へ、その男がゆっくりと近付いてくる。
 その表情は逆光で遮られていて分からない。
 分かることといえば、この男の形をした稲光は、自分が喚んだものだということ、それだけであった。

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 インドラは女に好かれる。立ってても座っていても惹きつけられるように女が来る。
 そのまま女と共に夜へ消えていくこともあれば、突然に気まぐれを起こして美しい女性へ無慈悲に背を向け、名前の所へ戻ってくる場合があった。
 名前は他人に必要以上に加害を加えなければ後は何をしても良し、といった価値観であった為、インドラの奔放を答めることなく好きにさせていた。
 何故か共に洒落た場所に来る理由は分からないが、どこからともなく現れた少年少女──ヴァジュラを名前の側に置いていき、美しい女性と共に暗闇へ消えていく。
 ヴァジュラたちはインドラを褒め称え、名前の周りを無邪気に回る。
 名前は二人……といっていいか知らないが、二人と共にさっさと自宅へ帰った。



 そも、名前は壊れている。
 心のどこかを失っている。欠けたままで生きている。
 だから、何をされても痛みを感じられない。体に傷を付けようが、心を折ろうとしようが、名前にとっては何てことは無い。
 怒りはなく、戦いを好まず、復讐を決意する熱が存在しない。
 そういう生き物だ。



 名前がそういう生き物だと、インドラは一目見た瞬間から理解していた。
 神であるインドラだ、人間の心を透かすことなど、あまりにも簡単なことであった。
 生まれついての不具。誰の手も入っていない欠けの断面はつるりと美しく、本来欠けたものにあるはずの凹凸は存在しない。故に、名前の心が直ることはない。
 だから、あんな苦行のような目に遭わされても、悲しむことなく苦しむことなく嘆くことはなく、平気で過ぎ去り行く日々を送れているのだ。
 痛みを感じる箇所が無いのだから、当然だろう。
 人間が苦行を受けているにも関わらず、それを人間は苦行と認識しておらず、神に一度も祈り
を棒げたことが無い、など……。



 敵をインドラが屠る。
 直接インドラが手を下すことはない。言葉と指先でヴァジュラに命じて、インドラ自身はそれを眺めるだけだ。
 人間である名前はヴァジュラの動きを目で追うことは出来ず、ありえないスピードで身を裂かれて死に絶えていった敵が、地面に転がるという結果だけしか目にすることが出来なかった。
 目の前で繰り広げられていく単純な作業のような殺戮が終わる頃、名前は自分の中に起きた価値観の変化をやっと自覚する。
 自分が喚んだインドラは、名前の想像を遥かに超えたものである存在だとは理解していた。神話に登場する存在。本来ならば名前の元になど現われることのない至高。そんな存在と恐れながら日々を過ごさせてもらい、名前は思ったのだ。
 これまで神を信じていなかったのは、この人を唯一とする為だったんだ、と。



 傍らに名前を置いて日々を過ごしていく内に、これは壊れきってはいるが佳い女なんじゃないかとインドラは思い始めた。
 神の目で見る名前の壊れまった心は痛ましい。しかし、名前は痛みと感じないながらも他者を慮ることが出来る人格を持っていた。
 そして、なによりもインドラを信仰している。
 初めてインドラと出会った時など、名前からは信仰心の欠片すら感じなかった。昔と今とは全く違う。やはり、人間は成長をする生き物だ。
 自分を心から信仰する住い女。
 ならば、酌をさせてやっても良いだろう。



 インドラの酌をさせてもらえることとなり、名前は大変緊張していた。
 自分自身の家だと言うのに、石像のような固さでインドラと相対している。
 インドラが酒を好み、戦いの最中でも悠々とした態度で酒を呑んでいることは知っていたが、今日この日まで名前がインドラの飲酒に関わったことはなかった。
 どこからともなく酒を取り出して呑むこともあれば、寄ってきた女が貢ぐようにインドラへ酒を渡すことがあったが、名前に酒を買ってこさせるなどといったことはさせなかった。
 人間から酒を貰った際、その都度インドラは人間如きの酒などと気分を害すような素振りを見せず、寛大な言葉を述べてから献上された酒と呑んだ為、名前は心が広いのだなとやや感動して、その様を見ていた。美しい女性がインドラに酌をする様もだ。
 だから、今まで美しい女性がやっている所しか目にしていなかったお酌をインドラから命じられた際、名前はインドラとヴァジュラたちを呆れさせるくらい驚いた。
 まさか自分がインドラに酌をさせてもらえるなんて!
 おかしい、ここは名前の自宅である。リラックスが出来る場所だろうに、全く落ち付かない。ここ、もしかしてわたしの家じゃないのかもしれないと、緊張で固まった頭でおかしな考えが名前を支配する。
 テーブルを挟んだ目の前のインドラはいつも通り神々しく、ヴァジュラたちは相変わらずインドラを慕っていて、名前にプレッシャーをかけてくる。名前だけがおかしい。
 がちがちにぎこちなくインドラに酌をするので、待たされた酒がテーブルに溢れる。
 不敬の単語が即座に浮かび、丁寧に慌ただしく謝罪をすれば、あっさりインドラは名前を許す。
 やはり心が広い。
 しかし、前言撤回せず、名前に酒が無くなるまで、名前に最後まで酌をさせたインドラは、かみさまである。
 最後まで酌をさせた後で、「……よく見れば、貴様は子供だったな」とインドラは名前に告げ、占領をしている名前の家で一番広い部屋へ、ヴァジュラたちを引き連れて帰って行った。
 プレッシャーから解放され、脱力感に包まれつつあった名前は、その途中でかけられたインドラの言葉に首を傾げ、先程までの光栄を噛み締めるのであった。