※時代背景ごちゃごちゃです。(大正、昭和、平成あたり)
※よくキャラを掴み切れていないので、あまり出てきません。
※ここの天草は、歴史上の人物の天草氏とは関係ありません。
※つまり現パロ!
※昔でたお題に沿って作られています。
※悪意はありません、気をつけて閲覧下さい。


初めてこの地で一番裕福な家、天草家の次男坊に会ったのは、中学生の時だった。
―遠目から見かけたとこはあったが、顔をきちんと合わせるのはこの時が初めてだったので、そういう表現が正しいだろう。
しかも、お見合いで、出会った。

「こちらはうちの次女、名前です」
「はじめして、名字名前といいます」

深々と頭をテーブルの向かいにいる天草家の方々に下げる。天草家の方々も返すように頭を下げてくれた。……こうしてみると、まぁ皆さん顔立ちが整っているのが分かる。
特にその中でも、私の目の前に座る天草四郎は、綺麗だ。
天草四郎は、肩まである襟足が特徴的な髪型をしていた。日にあまり当たっていなさそうな白い肌に黒髪がよく映える。おそらく今日の為に作られたであろう着物も、私とは違って着こなしている。
わーすごいと凝視していると、目があった。
天草四郎はにこりと穏やかに笑う。本当に同い年かと疑うほど落ち着き払った笑み。
それに私も笑みを返す。きちんと笑えているかどうかは、分からないが。
お見合いの終盤、ドラマでよく聞く「あとは若い二人で」と実際に言われたときは死ぬかと思ったが、なんとか会話を途絶えさすことなく続けられた。
趣味特技。学校生活。家での生活など様々なことを話した。
天草四郎が聞き上手で話し上手だったおかげかもしれないが。
……話しても、天草四郎が私と同い年とは信じられなかった。
同級生と比べるのが失礼と感じるくらいには、彼は大人びていた。通う学校が違って、育った環境の違っているからだろうか。

何やかんや、お見合いを終えた数日後、ぜひとの手紙が天草家のご当主から名字家へ返事が送られてきた。
つまりは婚約成立の手紙。
父と母が大喜びでワルツを踊り出したので、手拍子ではやし立てる。
うちはまぁ天草家の次か、その次に裕福だから選ばれたな。手拍子を続けながら、そんな風に考えていれば、中島さん(古株のお手伝いさん・68歳)が「天草四郎様からです」と白い封筒を差し出してきた。

「え?私宛に?」
「はい。お部屋で読まれてはいかがでしょうか」
「なんだろう……うん、そうするわ」

驚きつつ、部屋に向かう。
途中弟にからかわれたが、なんとか自分の部屋に帰還した。
ベットに腰をかけ、封筒を見る。
白い封筒。四角っぽいものではなく、縦に長い封筒。私の名前は縦書きに、綺麗な文字で書かれていた。裏を返せば、天草四郎。
……眺めているだけで、中身が透視できるわけないので、渋々手紙の封を切る。
手紙はやはり、綺麗な文字で出来ていた。内容は当たり障りのないもの、かと思いきや、文末には添えられる様に、此度の婚約嬉しく思います。などと書かれていた。
ううん……。
がんと事実が叩きつけられた。両親をはやし立てていた自分があほに思えるほど、そういった意味で。
あれだけしか共にいなくて、婚約だとか笑えない程面白い。
まだ意志を通わせていないんだけど、大丈夫?やっていける?
……大丈夫か。私に求められているのは、相手への理解でも愛情でもない。

名字家の血を残すための、道具性?だ。
言い方は悪いが、こういう言葉しか思いつかない。
私の姉は、ここより都会のお坊ちゃんと先日お見合いをした。外で名字家の血を増やすために。
血を。
血を絶やしてはならない。
それが昔から伝わる名字家の家訓であった。
余りも時代錯誤な家訓だが、古い考え方の父と母に親族は、積極的にそれを守っている。
残すのならば、優秀な血を。
父は、そう姉と私に告げた。だからか恋愛結婚が主流そうな中、わざわざお見合いを良家に申し込んだのか。
婚約が決まった私も、家訓を守るためにいずれ、某氏と子を為し、血を増やす。
……天草家の方々は父の目的に気付いているのか。
気付いていて、あちらもそういう考えで私との婚約を了承したのだったら――。

私と彼は上手くやっていけるかもしれない。

手紙を近くの勉強机に置き、そっとベットの上に横たわる。
目を閉じて、先日の天草四郎の姿を思い出す。
思い出し、思い当たる。

「上手くいけば、私は天草名前になるのか」