※構成を練っている内にネタでの設定と少しずれました。申し訳ありません。
※ぐだの名前が「千秋」となっています。ご注意下さい。


「名前とアヴェンジャーは、いつでも一緒にいるよね」

千秋君がもしゃりと私が持ち寄って来たクッキーを食べながら、いたずらめいた風に微笑む。
私は彼の言葉にそうかな。と首を傾げた。
そんなことないと思うけど。しかし、そう感じてもおかしくはない。

「まあ、私のサーヴァントは、アヴェンジャーしかいないし」

自分でいうのもなんだが、事実である。
不思議なことに私は何度も何度も、聖晶石召喚をしてもサーヴァントが出てこない。
いや出てきたとしても、すでに千秋君が召喚しているサーヴァンであることが多いので、私のサーヴァントとすることが出来ないのだ。
千秋君の運がいいのか、私の運が悪いのかわからないが。

「それでもさ、いつだって一緒だ。オレが気が向いて、名前の方を見た時には必ず名前の傍にはアヴェンジャーがいる。……アヴェンジャーといるっていった方がいいかな」
「ふうん?でも千秋君とマシュちゃんだって、いつも一緒にいるでしょ」
「……オレとマシュは一心同体だから」

一心同体。二人で一つ。
確かに、マシュちゃんと千秋君は、その四字熟語がよく似合うかもしれない。
千秋君の複雑そうな笑顔に引っかかりを覚えるも、納得を私はした。
私は、千秋君とマシュちゃんがどうやって出会ったかを知らない。
もそもそ私はどうして自分がここ、カルデアにいるのかすらわかっていない。
記憶が、ないわけではないのだ。
カルデアに来た経緯が、あやふやにわからないだけで。
千秋君やドクターいわく、冬木にいた意識のない私を保護したらしい。……私は、どうして、あんな冬木にいて、無事だったんだろう。

「なあ、名前。ここは私とアヴェンジャーも一心同体だよおとか言うとこだろ」
「――いやあ、私はそんなつもりないし。ってもしかして私〜の辺り、私の真似?」

千秋君の声に我にかえる。
まさか。その裏声は私の声真似だったりしないよね……?
千秋君に尋ねるが、意味深に笑われるだけで、何も言わない。
つまり図星だったと。
静かにショックを受けていると、千秋君がなにもなかったかのような顔で。

「だって、一心同体のほうがいいだろう?」

×

形ばかりのマスター会議―という名のサーヴァント抜きのお茶会―を終え、千秋君と今日のクッキーについて話しながら廊下に出る。

「お疲れさまです。先輩、名前さん」

と、真正面にマシュちゃんと、エドモンが待ち構えていた。
珍しくはない。
たまに開かれる会議が終わると、いつもこうであるからだ。
マシュちゃんとエドモンは、まさに正反対の態度で私たちを迎える。
マシュちゃんの労いの言葉に、特に何もしていない私はダメージを受けた。
ちらり、と千秋君の方を見ると彼も気まずそうに目線をあらぬ方に向け、それほどでもないよ。あはは。などまあ正直に真実を言っていた。
私も笑うしかない。
確かに話し合いもしているけど、お茶会の方に力が入っててごめんね……。

「マスター、用事は済んだだろう。行くぞ」

心中でマシュちゃんに謝っていると、いつの間にかエドモンが傍にいた。
そして、私の右手を掴み、どこかへと強引に引っ張っていく。
これもいつものことだ。
感じが悪くはないかとある時マシュちゃんに、いつもごめんねと謝った時、「前もってアヴェンジャーさんにすぐに連れて行くが、かまわんなと確認をされているので大丈夫です」と返されたのに衝撃を受けた。
……千秋君についてはノーコメント。
振り返りつつ、残された二人に軽く手を振って、再び私はエドモンの背中に視線をやる。といっても外套で背は見えないのだが。

アヴェンジャー。
巌窟王 エドモン・ダンテス。
私がエドモンの真名を知ったのは―正確には彼の口から教えてもらった―のは、ついこの間である。
つい、この間、やっとというか今更という感じだったけれど。
知りたいと思ったことはあるが、教えてもらったときには全くの不意打ちに驚いた。
エドモン・ダンテス。
……彼は周囲からアヴェンジャーと呼ばれることを望んでいた。
アヴェンジャーであるためのように。

「アヴェンジャー」

復讐者。
割り当てられた「役割」。
相応しいクラス。

「何だ、マスター」

答えるもエドモンの歩みは止まらない。
すたすたと長い脚で、前へ前へ進んでいく。
……エドモンが、私をどう思っているかを私は知らない。
そもそもどうしてエドモンは、私の召喚で来てくれたんだろう。
私と一緒に世界を救う手伝いをしてくれている。
傷だらけになった、何度も膝をついた、死にかけもした。
しかしその度にエドモンは私の前に立ち、戦ってきてくれた。
今、こうしてみている背を、ずっと、私は見てきた。
おそらくこの先も、見ていくことになる。

「どこに行っているの、私たち」

私の言葉にか、エドモンは噛み殺すように笑い声をあげる。

「マスターの部屋だ。マスター会議とやらの後にいつもこうしているのを忘れたか」
「ううん……聞いてきただけ」
「それで?今回手に入れた聖杯はお前とあのマスター、どちらが所有することになった」
「私。ほら、今回…………エドモン大活躍だったでしょ、だからかな」

主に柱とか。気持ち悪い柱とかに。タコの足みたいな柱とか。
……エドモンは私の真名呼びに何も言わず、そうかとだけ告げる。
うーん。前、呼んだときに怒られたから、ちょっと覚悟して呼んだんだけど。
機嫌がいいのかな。
よく考えてみれば私の手を引く力も弱いし、声色だって苛烈さがない。

――私はエドモンの手を、やっと握り返せた。
あたたかいこの手に私は何度、救われてきたのだろうか。
大丈夫。大丈夫。これからも世界を救う旅に行ける。
言い聞かせるように、私は心中で何度も繰り返す。

たとえこの先が、とこしえの深潭だとしても、彼とならば。