目新しい不思議がくるよ


※台詞バレ、捏造注意。
※吝嗇家さまへ提出しました。


聖杯聖杯。
夜に行われる、魔術師同士の戦い。セイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカーの七騎のサーヴァントをそれぞれのマスターが駆使し、万物の願いを叶えると言われる聖杯を持つ権利を奪い合う。


炎が延々と燃えている。揺らめく橙色は、ゆっくりと幹を、枝を、葉を燃やしてゆく。森を殺してゆく。
名前が住む市は田舎の中では発展が進んでいる場所だ。しかしやはり自然が多く、民家やコンビニの間に草木があるというよりも、草木の間を縫うように整備され発展していったというように見える所だった。名前の家がある地域は森があり、地元でバードウォッチングが開催されるくらいには鳥がいて、狸や狐も多く目撃されている。つまりは、動物たちの居場所だった。名前はバードウォッチングにも参加したことないし、狸狐なども見たことなかったが、毎朝学校に通う道中に見える森には馴染み深いものであった。
その森がどんどん消えていっている。
名前の知る森がどんどん燃えていく。
この森で生活していた生物たちは、一体どうしているのか。
周囲の地域住民は、相手のマスターが魔術で眠らせているから通報はされないし、炎は住宅の方には多分行かないだろう。戦争の邪魔をする人間がいないということは、被害を止める人間がいないということだ。
いきをのむ。からだがふるえる。何度も何度も見てきたサーヴァント同士の戦いだが、今まで火縄銃を武器にしていたアーチャーが初めて炎を出したからか、余計に名前の動揺は大きい。
アーチャー・真名は織田信長。
敵と相対し、冷徹に容赦なく相手のサーヴァントを追い詰めていく様は、魔王と呼ばれるに相応しい。
相手のサーヴァントが身を焼かれた苦悶の声を漏らす。名前は知らないが、相手のサーヴァントは神性を持っており、名前のサーヴァント・アーチャーの宝具は神性を焼く、つまり神仏を滅ぼす炎だ。アーチャーの炎の前では、神も仏も人と等しく焼き尽くされる。
アーチャーの紅い瞳がここからでもわかる。
名前は焼け焦げていく全てのものを視界に映しながら、ああ、と思った。

やはり、わたしの思い違いではなかったのだ。


怖いことが好きだった。
父が昔、魔術師の家にいたと偶然知った日から、父が亡くなった後の遺品整理の際に不思議な本を持ち出した時から、名前は他人に悟らせることなく、自身の有り余る好奇心をすくすく育てていた。
それで。
例えば、三階のトイレの数えて三番目で花子さんに話しかけるとか、午前二時に剃刀を咥えて水を張った洗面器を覗き込むとか、そういうの。
そういう軽い気持ちで、聖杯戦争を知り、本に書いてある通りの陣を書き、書き込んであった時間を待って。
名前は呪文を唱えた。

「ふはははっ!わしが第六天魔王、織田信長じゃ!!」

陣からやってきたのはドロドロの化け物、また鱗に覆われたドラゴンではなく、紅の瞳に艶のある黒色の髪をした一人の麗しい少女だった。しかも、かの偉人織田信長と名乗っている。名前は自身の予想を上回る展開に、思わず首を傾げたものだ。
アーチャーは、織田信長と名乗るだけあり、纏う雰囲気が他者と大きく違いがあった。カリスマとでもいうのか、ただ立つだけ、その場にいるだけでも迫力がある。
アーチャーとの生活は案外上手くいった。幸いなことにアーチャーが名前を気に入ったのだ。夜になればアーチャーの気の向くまま敵を探す為に外へ出て、敵と交戦して朝になる前に家へ戻る。名前の知らないことばかりしかない聖杯戦争はその繰り返しだった。夜、外に出ているにも関わらず、夜になる度見上げていた星も月も無視した。ずっと読んでいたオカルト本を投げ捨てた。ただ名前はアーチャーだけを目にしていた。一心に。逸らすことなく。名前はアーチャーを信じているのだ。
きっと、とびきりの怖いものを、アーチャーは見せてくれる。

アーチャーが名前の方を見る。目に映す。温度のない残酷な瞳。紅色。炎。
丑三つ刻より、怪談を実践した日より、ずっと今夜の方がいい。
ああ、怖い。